キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

04.聖女の反応

 聖女の首を噛んだ瞬間、彼女の顔は苦悶の表情になった。だがしかし、僕が噛むよりも前から苦しそうな顔をだったかも。気絶する直前には、あの老人に殴られていたからね。

  それからしばらくすると、僕の噛み付いた箇所の傷はすぐさま塞がって元通り、真っ赤だった頬の腫れも引いて真っ白な肌に戻ったのが確認できて、とりあえず感染は無事に完了した事が分かった。

 僕たちの持っているウイルスに感染したら、エネルギーのあるうちは病気や怪我なんかは全て回復していく丈夫な体になる。だから、僕の姿も普通の人間に見えているはずだ。そして、彼女の傷も治っていく。

 エネルギーを失えば、食料達のようにゾンビと見られるような肌がボロボロで、明らかな死体だと分かるような容姿になっていくけれど。

 後は感染したことによって彼女の知能が低下していないかどうか、僕と同じように意識は失われていないかどうか。ソレは彼女が目を覚ましてからのお楽しみ、かな。

 ひと仕事終えた僕は、再び食事に戻る。手に入れた生肉をしっかりと堪能するため、じっくりと味わいながら時間をかけて食べることを楽しむ。

 そうしていると、彼女は無事に目を覚ましてきた。身体を起こして、何が起こっているのか理解できていないのか、探ろうとして左右に目を向けているようだった。そして起きたばかりで寝ぼけているのか、彼女の目は半睡状態のようにハッキリとはしていない。

「私は、一体……?」
「おや」

 しっかりと言葉を話している。ということは無事に感染させることには成功したようだ。僕は、ひっそりと初めての感染が無事に完了できたことを喜んでいた。そして、戸惑っている彼女に話しかける。

「ようやく目を覚ましたか。気分はどう? 大丈夫?」
「え? あ、はい。大丈夫です」

 それから僕は彼女と、暫くの間おしゃべりを楽しみながら様子を観察し続けた。意識はしっかりしているし、受け答えにも問題は無い。殴られた傷も跡形なく回復しているし痛がる様子も無い。

 感染させた事によって、何か特別に違った反応も見られない。僕からの感染については知能の低下が見られず意識も失うことはない、そして異世界人でも問題なく感染させる事が出来ると分かった。この情報は、大きな収穫だろう。

「そうそう。僕の名前はヒロミツ。ヒロくんでも、ヒロりんでも好きなように呼んでいいよ」
「あ、私はエリスです」
「よろしく」
「よ、よろしくお願いします」

 ニコニコの笑顔を浮かべて僕は自己紹介した。困惑顔のエリスと名乗った少女は、ちょこんと大人しく僕と正面に向かい合って座っている。

「それにしても、教会の危機だからと言って何の関係もない僕なんかを、わざわざ異世界から召喚するなんて思ってもみなかった展開だよ」
「!? ……なぜそれを?」

 エリス達の事情については、この老人の死体を食べたことで記憶を読み取って正しく理解していることを明かしておく。

 僕の口にした言葉に、一気に緊張感を増したエリス。あまり彼女に拒絶されるのは嫌だから、しっかり種明かしをして説明しておかないと。

 どうやら、教会という組織に対する市民や貴族達からの信頼が失われつつあったらしくて、ソレを回復するために異世界人の召喚という儀式を行ったという。

 過去から伝わる由緒ある儀式を執り行う事ができるという教会の必要性を示して、それから召喚でやってきた人材を教会に取り込んで活躍させることで信頼を取り戻そうと考えていたみたいだ。

 教会が支持をなくしているのは、この老人のように教会に属している人間たちの多くが強欲に贅沢三昧をして市民から搾取していたから、自業自得と言えるだろう。しかも、その解決を異世界人という関係の無い人間に頼ろうとするのが卑劣だった。信頼を失う理由がよく分かる。

「僕たち感染者は、死体を食べることで色々と恩恵を受けることが出来るんだに。事情を知ったのも、この老人を食べて記憶を読み取って知ったんだよ」
「そう、なのですか……」

 感染についても軽く打ち明けてみる。だがまだ、エリスからは警戒されているな。どうやって話すべきか悩みどころだ。

 そもそも人と話すのも久しぶりの事で、しっかり話せているかどうか不安になる。ちょっと面倒だから、彼女には直接知ってもらおう。教会という場所に属している人間にしては、彼女は清らかそうだったから実態を知ってもらえれば手っ取り早い。

「この人、なかなかの悪人だったようだね。君も食べてみて、見てみたら?」
「え?」

 感染者の特性によって、食べたモノから力を取り込むことが出来る。普通の食事として取り込める栄養素的なモノから、食べるだけで相手の力や能力を取り込んでパワーアップができる。そして、食べた者の持っていた記憶も知ることが出来る。

 僕はまず、この老人を口にした事によって異世界の言語を習得できた。だから、エリスとも普通に会話することが出来ていた。そして、先程の魔法を使えるようになったのも多分、食べた影響だと思う。ただ、取り込めた記憶が全てでは無く、断片的にしか知ることができない。この世界に関する知識も、曖昧なまま。

 そんな問題を解消するべく、とりあえずこの世界の人間を一人仲間にして説明してもらおうと思って、彼女が気絶している間にエリスを新たな仲間にした。

 そして感染者にした彼女に、人肉を食べるという行動をしてもらえば理解してもらえるだろう。そう思って、僕がいま食べているお肉を彼女に口にするように勧める。

 僕の顔と、差し出すお肉を交互に何度か目を向けて、どうするべきか迷っていたエリス。まぁ、普通は食ったりしないだろう。

 しかし、僕は黙りながら視線を外さずにじっと見つめ続けた。僕の強引さを気にしてか、彼女は最終的に肉を口の中に入れた。モグモグと何度か噛んで、ごっくんと飲み込む。すると、彼女は目を見開いて驚いていた。

「アンデルス様が、そんな……」

 エリスは食べたことによって記憶を上手く読み取れたのか、小さな声で老人の名前を呟いていた。よし、無事に感染者としての特性も発揮できているようだったので一安心。

「それで君たちの目的を僕は知ることが出来た。どうやら、儀式は失敗だと思ったみたいだけど僕という異世界人は無事に召喚されてきた。少々、想定していた人物とは違っていたみたいだけれど。それで、君はこれからどうする?」
「私は……」

 

 

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