キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

03.召喚されしモノの事情

 腹が減ったので、いつものように食事をしようとしたら目の前が突然、光り輝いた。何事かと身構えたら、見知らぬ場所に自分は立っている状況。

  一体何事かと辺りを見回してみると、久しぶりに僕が目にした光景は、正真正銘の生きた人間が立ってコチラを伺っている姿だった。

「なんだぁ……?」
「―――――――――!」

 思わず僕の口から疑問の声が漏れた。それをかき消すような老人の怒声が部屋の中に響いて、僕の耳にも届いた。

 けれども、その老人の話す言葉は聞いたこともない音で意味は分からなかった。ただ間違いなく意識のある、生きた人間である事は分かった。彼らはすこし、見慣れない格好をしているが。それに、杖も持っている。

 どうやら、僕の側に居たことで一緒にやって来た食料達。彼らの影に隠れて、様子を伺う。老人がぺちゃくちゃと何か喚いているのを聞いていると、可愛い女の子が殴られる瞬間を目にした。

 よし、あのジジィは食料に決定だな。どんな事情が有ったのか分からないけれど、可愛い女の子を殴って気絶させるなんて碌なヤツじゃないだろうからオッケーだろう。

 剣や槍に、鉄の鎧で武装した時代錯誤な装備の連中は僕と一緒にやって来た食料にあっさりと負けていた。そして、僕の食料達に食われてしまうという結末を迎えていた。武装した姿に僕はちょっとビビっていたが、見た目とは裏腹に弱そうな連中だった。

 武装兵達のリーダーだと思われる一人が大声を上げて兵士たちに命令しているようだったが、僕の食料にしようとしていたモノに次々とやられていって被害は順々に拡大していく。

 連中の視線が戦闘の方に向いている間に、僕はひっそりと移動を開始。少女を殴った後で、戦闘している彼らから所から少し離れた場所に移動して、他人事のような感じで突っ立っている老人の背後を取る。

 そうしている内に僕の食料達が返り討ちにして武装兵達は全滅。残っているのは、老人のみ。彼は倒れている少女に視線を向けて舌打ちを舌あとに、ようやく戦う素振りを見せた。

 老人が杖を構えて、呪文だと思われる何かを唱えだした。一体何をしようとしているのか理解できなかった僕だが次の瞬間にその現象を目にした。

 光のオーラのようなモノが俺の食料達に降り注ぐ光景。目にした瞬間、今までに見たこともない現象に、どうやら僕たちの居た世界とは全く別の場所に連れて来られたのだろうと僕は察した。

 まぁ、その辺りの事情は食ったら知れるだろう。僕は、手を合わせて食事を開始することにした。

「いただきます」

 後ろに潜んでいた。倒せたと油断していた所に、突然声を出した僕に気付いたのだろう。ただし、振り返ろうとした老人の動きは既に手遅れで、俺が噛み付いて悲鳴を上げるだけ。うーん、美味い。

「おぉ、生肉はやっぱり美味いなぁ。しかし、生きている人間を食べるのは初めての経験だけれど、こんなに良いものだったのか」

 僕が今の体になって意識を取り戻した時には既に、生きている人間は存在していない世界になっていた。だから、直前まで生きたままの肉を食べるなんて初めての経験だった。

「なるほどねぇ」

 食べた肉から老人の記憶を取り込んで、少しずつ事情が分かってきた。どうやら、別の世界に居た僕を召喚したらしい。異世界召喚したのは殴られて気絶した少女で、僕は召喚されたモノ。

 だがしかし、呼び出してくるタイミングが悪く意図せず僕の食おうとしていた食料も一緒に連れてきてしまった事で、彼らは失敗だと思ったようだった。

 そして、僕が食料にしていたモノを見た目からゾンビという低級モンスターだと思ったようだ。この世界では、ゾンビが実際に存在しているらしい。

 たしかに、彼らは一度死んで蘇った知性の低い、生きる屍だから言い得て妙だと思う。僕も知性は有るけれども、一度心で蘇った存在だからゾンビというジャンルに当てはまるか。今度からは、食料の事や自分のことも感染者ではなくゾンビって呼ぼう。まぁ、厳密に言えば違うけれども。

 息絶えた老人を床の上に横たわらせて、肉を摘んでいく。文字通りに、身体からちぎり取って口に運んでいく。美味しい。今までは腐ったような肉しか食べられなかったし、それで満足していたけれども、やっぱりこの新鮮さのある肉を食べて、味を知ってしまうと今までの酷さを実感してしまった。

 そして、食べながら色々と学んでいく。彼らが異世界召喚をした理由、教会という施設について、老人の地位、彼の悪行。聖職者らしい彼の実態は、金に汚く贅沢三昧をして女遊びも酷かった、聖職者らしからぬ悪党らしい悪党である人物について。

 聖魔法についても学んだ。ちょっと使ってみれば、簡単に発動することが出来た。僕のような呼ばれてきた異世界人でも魔法を使うのに問題はないらしい。もしくは、この世界の肉を食って力を取り込んだから使えるようになったのか。どちらが正解か分からないが、とりあえず使えるようになった。

 初体験の多い食事を楽しんでいると、武装兵達を食べるのに飽きた食料達が、今度は標的を少女の方に変えて近寄ろうとしていた。そんな食料達に厳し目の視線を向ける僕。彼らを睨んで止める。それは僕の獲物だからと主張した。

「うううぅぅぅ……」

 不満げに唸り声を上げた食料達が、ズコズコと武装兵達の方に戻っていった。彼らに知性は無いが、本能で危険を察したら行動を止めることは出来る。

 さて、彼らに食べられないうちに彼女を感染させてみることにしよう。どうやら彼女は聖女と呼ばれていて、この世界でも重要な人物らしいから。しかし、感染させて大丈夫か。

 不安要素が3つほどあった。

 まず、僕が誰かを感染させるのが初めてだという事。知識としては調べた結果で知っていたけれど、本当に成功するかどうかやってみなければ分からない。あの世界で人間は全滅しているようだったから、試そうとしても無理だった。

 2つ目に、異世界人はちゃんと感染するのかどうか。体の仕組みが違ったりして、効果がありませんでした。もしくは、全く別の影響が出てしまうかもしれない可能性もあり得る。

 そして最後に、感染させたとしても僕と同じように意識が残るかどうか。食料達のように知性が低く、意識が残らなければ感染させても意味がない。ただ、僕経由の感染によって意識が残るのではないかという予想があった。

 いろいろ考えても、結局はやってみて結果を見るしか方法は無い。とりあえず感染させてみようと思って、僕は少女に近づいていった。

 老人に殴られた頬が腫れて痛々しい。苦悶の表情を浮かべて、口から血も流れていて見るからに可哀想な様子だった。そして、もっと可哀想な状況に僕が陥れてしまうかもしれないが申し訳ない、犠牲になってくれ。僕たちの仲間になってくれ。

 そう思って、僕は彼女の首筋をひと思いに噛んだ。感染させるには粘膜の直接的な接触が必要だったから。でもこれじゃあ、ゾンビじゃなく吸血鬼っぽいよね。

 

 

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