キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

02.聖女ゾンビ

「う、ううんっ……」

  クチャクチャクチャと、粘着性のある何となく耳障りだと感じるような音を聞きながら、彼女はゆっくりと目を覚ました。

「私は、一体……? 何が起こって……」

 少女が目覚めて、すぐに身体を起こすと堅い石畳の上だった。肌には、ひんやりとした冷たさを感じるような場所。

 いつものベッドの上ではない。着ている服装も、寝間着とは違うような格好だった。これは、儀式を行うための正装。自分は何故こんな場所に居るのか、目覚めてすぐの寝ぼけた頭で自分がいま何処にいるのか、何をしていたのか状況を思い出そうとする。

 そして、直前にあった出来事を思い出して彼女は顔を青ざめた。

 教会の命運を握ると言われていた、大切な儀式を失敗してしまった。意識を失う直前の出来事についてを思い出して、少女は血の気を失ったのだった。

 大きな儀式を失敗してしまったことに対して責任を感じたていた訳ではなくて、儀式を失敗した事によって上司である老人から責められる。厳しい罰として、暴力を振るわれ痛い思いをするのが嫌だったから。

 そんな彼女は、儀式を失敗してしまったことを慌てて謝ろうとした。少しでも、暴力を振るわれないようにするための処世術。だがしかし、謝るべき相手が見つからない。意識を失う直前まで、一緒に居たはずなのに。

 それから少女は、見知らぬ青年が目の前に居る状況に気が付いていた。見覚えのない若い青年が目の前で、真っ赤な血が滴る生肉を頬張っている様子を目にしたのだった。

 召喚の儀式を行っていた場所は、関係者以外には立ち入ることが許されていない神聖で大事な場所。

 そんな場所で、どっしりと構えながら食事をしてしまえる人物を自分は知らないはずがない。それなのに、いくら少女が考えて思い出そうとしても青年に関しては見覚えは無かった。そもそも、なんでこんな場所で食事をしているのか。一体、何を食べているのか。

 止まない疑問に頭を悩ませて青年には言葉を掛けれず、黙ってしまった少女。正体を探ろうと観察するよう見つめたまま止まっていた少女に、青年の方が気が付いて声を掛けた。

「おや、ようやく目を覚ましたか。気分はどう? 大丈夫?」
「え? あ、はい。大丈夫です」

 青年から気遣いのある優しい言葉を掛けられて、少女は思わず素直に返事をしていた。一体、誰なのかも分からないままに。

 そう言えばと、少女は意識を失う直前に上司から左頬を激しく殴られた事を思い出した。しかし、今は殴られた痛みなんか全く無い。殴られた筈の頬に触れて確認してみても、腫れている様子は感じられなかった。

 老人に殴られた記憶に間違いない、それで気絶したのだから覚えている。しかし、その出来事があった事を示すような傷や形跡は、少女の頬には残っていなかった。

 加えて、召喚の魔法というのは体力を大きく消耗する大魔法だった筈。それなのに、身体に魔力消費した後のダルさを一切感じられなかった。

 アレだけの魔力を召喚魔法を実行するために、魔法陣に一気に注ぎ込んだのに身体のダルさを感じないのは少女の経験には無い初めての事だった。気絶していた間に体力は回復したのだろうか。

「それは良かった。僕にとっては君が初めて感染相手だったけれど、問題は無かったようで安心したよ。知識としては知っていたけれども実を言うと、初めての事で成功するかどうか分からなかったから緊張していたんだよね」
「初めて? 感染……?」

 頬の怪我や魔力消費については目の前の青年が対処してくれたのか、と少女は理解した。だがしかし、彼の説明の最中によく分からない単語が飛び交っていた。彼が何を言っているのか、少女は正しく理解出来ていなかった。

「おっと、食卓以外の場所で食事するなんて行儀が悪かったかな。でも、初めての生肉なんだ許してくれないかい」
「生の、お肉……?」

 さっきから彼の言葉を返すしか反応できていなかった少女。そして青年の言葉に、ふと少女が視線を下に向けた。

 そこには、見覚えのある人型の物体があった。見覚えのある豪華な服装、少女の上司の死体だった。そこから、肉を抉り取って食料にして青年が食べていた。

「ぞ、ゾンビ……モンスター」
「こっちの世界にもゾンビは居るみたいだね。でも、多分違う物だと思うよ」

「えっ……? ……こっちの世界?」
「君が僕たちを呼び出したんでしょう? まだ、人類が生き残っている平和な世界に」

 少女は、召喚してこの世界に呼び出したモノを思い出して愕然としていた。目の前の青年は、呼び出したモノの一人。

 少女がバッと勢いよく後ろを振り返って見れば、待機していた武装兵達の装備していた剣や砕けた鉄鎧が辺りに散乱している。そして、死体が床の上に無造作に転がっていて噛み付いているゾンビ達が5体居た。その様子を目で見て確認した少女は、再び青年の方へと視線を向ける。

「……あなた達は、一体?」
「僕は異世界からやって来た感染者だよ。分かりやすく言えば君たちの知っているモンスターのゾンビに近い存在かもしれない。死んで蘇った人間。まぁ、色々と違う部分が多いけれど、全て理解するのに時間がかかる。だから、今はそう理解しておけば良いよ」

 少女には、青年の言葉が理解できていなかった、分からないことだらけだった。そして、彼女にとっては衝撃の事実が満点の笑顔を浮かべた青年の口から伝えられる。

「実は、君を僕たちの仲間しちゃった。言うなれば、聖女ゾンビちゃんだね」

 青年が楽しそうにケタケタと笑い声を上げた。

 

 

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