キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

閑話08 まるで女神のようだった

 その酒場には、酒を飲んで食事を楽しみ語り合っている男女数十人が集まっていた。その中には、老人や普段の酒場には居ない子供たちも居る。

  彼等は少し前に突然王都で起こったモンスター襲撃から、命からがら逃れてきた者達だった。命の危険を感じるほどの出来事から何とか逃げ切り、無事に生き延びて助かった事を皆で喜び合っていたのだ。

「彼女たちが駆けつけてくれて、助けられた。まさに命の恩人」
「本当に、女性しか居なかった。しかも皆が綺麗な女性達だった」
「モンスターに殺されそうになってたっていうのに、お前はよく見ているな。まぁ言っている俺も実は、見惚れて危なかったが」

 彼等が語っている助けてくれた女性達、というのは戦乙女クランに所属している冒険者達の事だった。見目麗しい女性冒険者達がモンスターに襲われている危機から助けてくれたという出来事は、彼等の記憶として強烈に残っていた。

 そして助けてくれたという戦乙女クランについて、知っている者たちからの情報共有によって、その場にいる人達皆に知れ渡ることになった。

 男子禁制のクランであるということ、マスターはレオノールという女傑であるということ、ドラゴンバスターやフレーダーマウスといった大手クランが無くなった今では、王都の中では一番に大きいクランであるという事。

 そんな情報が語り合われる中で、ある男が興奮して語っている1人の女性について注目されていた。

「俺はモンスターが防壁を破って中に侵入してきた時、逃げ遅れた子や女性を守る為にって思って、モンスターに立ち向かおうとしたんだぜ」

 そう語る男の顔は、自分はモンスターに立ち向かったと勇気を自慢している様な表情ではなく、後悔するような、失敗してしまったという思い悩んでいるような面持ちであった。

 そんな男の話を、酒場にいる皆が聞き入っている。

「けれど俺は今まで争い事とは無縁だったし、当然戦う力なんか無かった。今度は俺が逃げ遅れてしまった。地面にコケて足もすくんで立ち上がれず動けなくなって、目の前にはモンスターが立って棒を振りかぶってた。もう駄目だって思ったんだ」

 その危なかった時の状況を、詳しく思い出しながら語る男。この場に居る人達も同じ様な状況を経験していたので、共感しながら話を聞き続けている。

「そんな時に、空から彼女が降ってきた」

 その人物について語ろうとする男の口調が一気に変わって、感情をむき出しに声も大きくなって、傍から見ても興奮しているのが分かるような様子となった。

「もしかしたら、俺がモンスターに襲われている所を逃がそうと助けた子に比べて幼い娘だったかもしれない。そんな見た目の娘だったから俺は、彼女に逃げろって言おうとしたんだ」

 そんな警告なんて必要は無かった、と男は話を続ける。

「気付いた時には、モンスターが数体倒れていた。立っているのがその娘だけで、近くに居て俺を襲っきていた筈のモンスターは地面に転がって動かなくなっていた。目の前で一体何が起こっていたのか、本当に理解できなかったんだ」

 いま思い出そうとしても、男の目にはまたたく間という一瞬で終わっていた出来事だったので、何が起こっていたのか理解不可能だった。

「俺はその娘に、強い口調で逃げろって言われたんだ。容姿に似合った可愛らしい声だった。一瞬前まで死にかけていたはずなのに、その時はもう助かって無事だと思えるぐらい安心していた。多分、目の前の出来事は理解できなかったけれど少女の実力が圧倒的だって事は分かったからだと思う」

 そして、今いるこの酒場という安全地帯にまで何とか逃げて来られたと、その男は話を締めくくった。

「多分、その娘はギルという名の冒険者だろう。戦乙女クランの中ではナンバー2って言われるほどの実力者だ」

 戦乙女クランについて事情通である者が、ギルの名を上げて知らせた。そして、どんな人物なのかについてを教えた。その時になって、ようやく男は自分を助けてくれた人物の名を知ることとなった。

「なるほど、あの女性はギルという名なのか。皆を救って戦っている姿は、まるで女神のようだった」

 信じられないぐらいモンスターを圧倒して戦う姿を目にしていた男、そんな彼女は今や王国最大と言われるクランでナンバー2だと言われるほどの実力者だったのか、と納得していた。

 そして彼は、まるで女神の様な美しい女性が舞っているかのように華麗にモンスターを圧倒して戦っている姿を思い出して、そんな感想を漏らしたのだった。


 その場で語り合われた話は、その後に街中へと広がっていった。その結果、ギルという人物の二つ名が、守護女神として知られるようになるのだった。

 更にその後日、街中でそのように噂されているという事実を知ったギル本人は、望んでいない評価を耳にしてしまったと、不本意だというような表情を浮かべたという。

 

 

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