キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第06話 悩み散策

「ん……え?」

 目を覚ますと、いつの間にかベッドの上で横になっていたユウキ。寝ぼけた頭で自分がどうしてココに居るのか、探ろうと辺りを見渡す。だが、彼の目に飛び込んでくる風景は、彼にとって見知らぬ場所だった。

 

 窓の外から明るい光が差し込んできているので、時間帯は朝か昼。生活感がない、美しく片付けられた部屋だったので人の家ではないみたい、たぶん宿屋なのだろうと彼は推測した。

 

「いててて、二日酔いか……。それで昨日は、どうしたんだっけ」

 ズキズキと痛む頭を抱えながら記憶をたどる。案内された酒場で美味しい料理を食って、酒を飲んで酔っ払って、初対面の人たちに自然と悩みを打ち明けていた。

 

 それからどしたのか、ユウキの記憶はそこで途切れていた。

 

 昨日の話し合いで、都市長のフランマさんが宿を用意してくれると言っていたのを思い出す。

 

 都合よく考えるなら、案内人であるオスキツが、もしくはバーのマスターであるシモンさんか、どちらかの手を借りながら宿屋に連れてこられて、そしてベッドに寝かされたのだろう。そうであってほしいと、ユウキは心の底から思った。

 

「そういえば、昨日の支払いはどうしたんだろう」
 気になって手持ちの財布を確認してみたが、残金が減った様子はない。あれだけ美味しい料理と酒を飲み食いさせてもらって無銭飲食だなんて、失礼に過ぎる。

 というか、食った分の料金を支払っていなければ犯罪になる。オスキツが、立て替えで支払ってくれているようにと願う。

 

「とりあえず、オスキツの奴を探そう」
 お金のこと、昨日の状況を詳しく知るために一緒に居たはずのオスキツを探して昨夜の話を聞くことに決めた。

 ベッドから立ち上がろうとした瞬間だった。

 


 ふにっ。

 


「ん?」

 手をついて立ち上がろうとしたユウキ、しかし手を置いた掛け布団の下から何か柔らかな感触が伝わってきた。なんだろうコレは、と確認しょうとする。すると。

 

「あんっ」

「……」

 バッと素早い動きで、ユウキは布団の上から手を離す。ユウキの耳には、布団の下からくぐもった声だったが、確かに女性の艶めかしい声が聞こえていた。

 

「んっ、……むにゃ、むにゃ」

 聞き間違いじゃない、確実に布団の下に誰かが居る。

 

 誰なんだ! と思わず問いただす声を上げそうになったが、ユウキは無理やり口を閉じて黙る。そして黙ったまま、音を立てずにそーっとベッドからおりた。

 

「えー、もう、朝ぁ……?」

 ヤバイ、女性が目を覚ましそうだ。どうすれば……!?

 


***

 


 ユウキは、ベッドで一緒に寝ていたらしい見知らぬ女性が目を覚ます前に、宿屋から出て外を歩いていた。混乱した状況から逃げ出してきたのである。

 

 目的地もなく街の中を一人で歩きながら、ユウキは考える。

 

 俺はあの女性を宿に連れ込んだのだろうか。全然、記憶にない。

 

 まだ自由都市チキュウテンセイに移住することを決めていない、どうするか決めるために滞在を許された客だ。それなのに、いきなり宿に女性を連れ込む男なんて。

 

 好色で女にだらしないと思われるぐらいならまだいい、もしも同意も得ず、無理やり事に及んでいたとしたら。

 

「それはヤバイ、でも……」

 もう一つユウキが思いついた可能性、彼女がハニートラップだとしたら。今回の件を弱みとして握られて、自由都市に移住してくるよう脅迫されるかもしれない。

 

 ただ昨日出会って話をして感じた、都市長であるフランマさん、案内人だという青年のオスキツ、それからバーのマスターであるシモンさん。出会った人全員が、人当たりが良かった。そう考えると、穿ち過ぎだろうかと思う。

 

 いやでも、ユウキは一度失敗しているから。人を見る目が無い自分が信用できると思ったとしても、正しいかどうかなんて判断できない。今回もあり得る、かもしれない。


「あっ! 居た!!」

「!? 」

 悩んでいると突然、背後から女の子の声が上がってドキッと心臓が縮むユウキ。

 

「貴方が新しい転生者さん、なのか?」
「え? あ、うん。そうだと思うけど、君は……?」

 ユウキの目の前に現れたのは10歳ぐらいの女の子だった。首をクイッと傾けて確認してきた彼女に対して、思わず返事をしていた。

 

「ミミ! ミミ! こっちに居たよ! 転生者さんだよ!」

 ユウキが質問に答えると、少女はくるりと回って人混みの中に大声で呼びかけた。何事かと、通りを歩く人々の視線が少女に注目する。

 

「そんな事、こんな通りのど真ん中で言っても良いのか?」

「あっ!」

 思わず少女の行動に感じたままのツッコミをすると、少女はハッとした表情で口をポカーンと開けて止まった。そして、慌てて子供らしい仕草で、両手を口に当てて押し黙る。

 

 しばらく黙ってた彼女は口からゆっくりと手を離して、今度はユウキにだけ聞こえるぐらいの小声で言った。

 

「あのね。パンが言ったって事は、先生に内緒にしてほしいの……」

「え? あ、うん。わかった」

 パンとは、目の前にいる少女の名前だろうか。先生って誰なのかユウキには分からなかったけれど、泣きそうになっている女の子の言葉を受け入れないと今すぐにでも泣いてしまいそうな表情を浮かべていた。ノーとは言えなかった。

 

 こんな道の真中で子供を泣かせてしまったら、不名誉な事を言われるのが明らかだったから。なので彼女の事について、誰にも言わないと約束をさせられた。

 

「フッフッフッ、ボクは聞いていたんだよぉう」

「ミミ! ダメだよ、先生にチクったら!」

「……猫?」

 猫のように見えるけれど、背中には羽が生えていてフヨフヨと空中に浮いている。しかも、舌っ足らずで幼い女の子のような可愛らしい声で人語を話す、謎の生物がユウキの目の前に現れた。

 

「どーしょっかなー、言っちゃおっかなー」

「ダメだよ! 言ったら、ミミちゃんとは絶交になるよ!」

「じゃあ、先生に言っちゃおー」

「もー!」

 仲良くじゃれ合う一人と一匹。蚊帳の外にされてしまったユウキ。会話で夢中になって気付いていないうちに、さっさと立ち去ってしまおうと考える。しかし謎の生物は、背を向けようとするユウキに気が付いて呼び止めた。

 

「待て、お前! 新しい仲間になる奴だろぉ?」

「いや、俺は」

「ふーん、冴えない顔をしてるねぇ」

 人の話を聞こうとせず、いきなり無礼な事を言われたユウキ。だが、苛立つことはなかった。子供のように幼く可愛らしい声で言われたから、そして突然の出来事に困惑する気持ちの方が大きかったから。

 

「まぁ、配下として弱そうなお前なんかボクが守ってやるから喜べ。だからお前は、一心不乱になって最強のミミ様を崇め奉るが良い!」

「は、はいか……?」

 知らぬ間に話が勝手にどんどん進んで、ユウキは彼女の配下にされているらしい。状況を理解出来ないまま。

 

「ミミちゃん、そんな事言っちゃ駄目なんだよ!」

「しかしだなぁ、パン。本人に自覚させる為にはよぉ、初めにガツンと言ってやらないとダメなんだぜぇ!」

 

「じかくって、なぁに?」

「愚かな人間に本当の事を言って分からせる、って事だよぉ」

 

「でも、そんな事を言われたら嫌だよ、って先生が言ってたよ」

「お前も、先生から独り立ち出来るように逆らって生きていかなきゃならないんだ。悪魔として立派に成長するためによぉ」

 

「ダメだよ! わたしは先生とずっと一緒に居るんだから」
「人間が生きられるのは、せいぜい100年だけだ。その後はどうするんだぁ?」

 

「わかんない」

 再びユウキを放置して、一人と一匹による会話が盛り上がり始めた。彼女たちは一体何なんだろうか。

 

「あ! 自己紹介がまだだった! わたしはミミ、悪魔だよ。それからこの子は、私の大親友のパンちゃん。よろしくね」

「大悪魔のパンだぁ。それと大親友じゃなくて、こいつとは戦友さ。そこんとこ、ヨロシク」

 自己紹介を聞いても彼女たちの名前ぐらいしか理解できない。悪魔とか戦友とか、一体どういう事だ。

 

「あっ!」

「どうしたんだ? ミミ」

 

「朝ごはん、パンが食べたい! あそこのパン、買いに行こう。早く行かないと、売り切れてしまうかもしれないよ!」

「おう! それなら、早く行こうぜミミ!」

 

「え? あっ、おい!」

 ユウキの呼び止める声を無視して、すばしっこい動きで一人と一匹は人混みの中に消えていってしまった。突然現れて、突然去っていった彼女たち。

 

 転生者について知っている様子だった。ということは彼女たちも、ここ自由都市チキュウテンセイに居るという、52名の転生者のうちの一人という事なのだろう。

 

 あんなに幼い子供や人間以外の生物にも転生者という存在が居るらしい、という事が分かってユウキは驚いていた。

 

 そして突然の出来事が続いて起きたことで、彼は逆に冷静になった。

 

「宿に戻るか」

 飛び出てきた宿に戻って、見に覚えのない女性と対峙して本人から話を聞こう。昨日は何があったのか。そして、何か不味い事をしてしまっていたら、誠心誠意で謝ろう。それしかない。

 

 そしてユウキは、その場で身体を反転せさると来た道を駆け足で戻って行った。

 

 

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