キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第03話 BARシモン

 メインストリートから少し外れた通り、人気のない道をズンズンと迷いなく進むオスキツの後ろを付いて歩いていくユウキ。

 

 良い店を紹介してくれると言っていたけれど、彼の行きつけの店なのだろうか。複雑そうな道順を迷わず進んでいく彼の後ろ姿を見て、ユウキはそう予想する。

 

「ちょっと奥まった場所にあって、初めて来る人は迷ったりするんだけど。隠れ家的な良い雰囲気の店なんだよ」

「へぇー、そうなのか」

「BARシモンって名前の店だ。マスターがシモンさんって言う人で、店の名前はそこから来てる」

 BARって事は、これから向かう先の店は酒場という事か。オスキツの話を聞いて、少し期待が薄まってしまったユウキ。

 

 彼は、酒場に対して良い印象を持っていなかったから。冒険者として世界各地を転々としていた頃、酒場を利用する事も多かった。だがどの場所もメシは不味いし、酒も美味しい物に出会った事が無い。夜の酒場には乱暴者が集まって騒がしくして、喧嘩が起こることも日常茶飯事。不味い飯で腹を満たしたら、早々に立ち去りたいと思うような場所であった。

 

 どうせなら、しっかりとした飯屋に連れて行ってもらいたいと内心で思うユウキ。これだけ大きな街なら、他に店が有るだろうに。そう考えるが、せっかく案内してもらっているので口には出さない。

 少しだけ足取りの遅くなったユウキ、その先をズンズンと歩いて行くオスキツ。路地の角をグニグニと曲がったり、入って大丈夫なのかと不安になりそうな道でも真っすぐ進んで行ったり。しっかりと道順を覚えていないと、たどり着けなさそうな場所にあるらしい。初めて来る人が迷ったりする、というのも納得できる。

 

「ここが、BARシモンだよ」

「え?」

 到着した場所。なのに表には看板が出ていないし、普通にある一つの建物の扉にしか見えない。外観を見てもお店、という感じがしない。誰か住んで生活している家なんじゃないのか、と思いそうな場所に連れてこられて困惑するユウキ。

 

 そんな彼の様子に気付かず、もしくは気付かない振りをしているのかオスキツは扉を開けて建物の中に入っていく。仕方なく、後ろに付いていくと中は確かに酒場のようだった。

 

 バーカウンターに座高の高いバーカウンター・チェアが置かれている。意外と中は広々としていて、テーブルも並べられていて大人数で食事ができるようだった。ユウキの想像しているような酒場よりも綺麗に配置されていて、掃除も怠ってないのか清潔に保たれている。見た目だけで言えば、今までで一番に良さそうな酒場であった。

 

「いらっしゃい」

 オスキツが開けた扉の向こう側、シンと静まった建物の中から男性の綺麗な低音ボイスが聞こえてくる。

 

「こんばんは、シモンさん」

「ようこそオスキツの、坊っちゃんか」

 建物の中に入ると早速、打ち解け合っているという雰囲気で和気藹々と挨拶するオスキツと、BARシモンのマスター。

 

「後ろを歩いている彼が、今回の新しい仲間かい?」

「そうだよ、今日この都市に案内して連れてきたんだ」
 ユウキをチラリと見て、BARのマスターが問いかける。隠すこと無く説明するオスキツ。二人のやり取りを見て、なるほど関係者なのかとユウキは納得した。

 

「彼がシモンさん。この店のマスターだよ」

「ユウキです、よろしくおねがいします」

「シモンだ。始めましてユウキくん、歓迎するよ」

 店に連れてきたオスキツが間を取り持って、互いに自己紹介をする。カウンター越しに手を伸ばしてきたシモンと、ガッチリと握手を交わしたユウキ。綺麗に整えられた髪と、汚らしさを感じないひげ、洗練された服装。

 

 ダンディな大人っぽい雰囲気のある人だな、と目の前の人物に対する印象を抱いたユウキ。

 

「シモンさんの料理は絶品だよ、期待して良い」

「腕によりをかけて、御馳走を用意するよ」

「おねがいします」

 ユウキは、まだ酒場に対しての悪印象が強い為に信用が薄かった。それに、営業中だろうに店の中には客が自分たち以外には、誰一人居ないようだったから。

 

 店がある場所は分かりにくいし、外に看板も出ていないから客が来ていないのだろう。それとも、マスターの出す料理が客を集めるほどの美味しさが無いのか。

 

 店の雰囲気は良さそうだし、酒場なのに静かなのが良い。マスターのシモンさん、という人も誠実そうで良い人みたいだった。万が一にも出された食事が不味かったとしても文句は言わないでおこう、と密かに誓うユウキだった。

 


***

 


「どうだい?」

「う、旨い……」

「それは良かった」

 ユウキの返答を聞いて、嬉しそうにニッコリと笑うシモン。そしてユウキの隣で黙々と食事を続けるオスキツ。

 

 料理を口にした瞬間、今まで酒場に対して抱いていた悪印象が関係無くなる、というぐらいに絶妙な味わいだった。

 

 食べる前の見た目から、ユウキはやられていた。というのも、この世界で初めて目にするが前世で見慣れた料理、カレーが出されたからだった。

 そして、隣でオスキツが食べているのは美味そうなハンバーグ。しっかりとしたデミグラスソースも掛かっていて、芳しい匂いを漂わせている。それも、コチラの世界で初めて目にする料理だった。

 

 それから、しばらくの間は会話も無くなり二人がモグモグと料理を口に運ぶ音。シモンが次に出す料理を調理する音が店内に聞こえているだけだった。

 

「あぁ、美味しかった。シモンさん、ビールおかわり」

「どうぞ」

 ハンバーグを平らげたオスキツが、酒を注文する。スッと出される酒をグビグビと飲み干していく。そして顔を赤らめて酔っ払っているのか、彼は上機嫌でハハハと楽しそうに笑っていた。

 

「ユウキくんも、おかわりどうだい?」

「あ、いただきます」

 お酒に関しても、外では味わったことが無い完成度の高いものだった。ユウキが今飲んでいるのは甘いワイン。カレーの辛味に刺激された舌を、心地よく癒やして
くれる甘口風味。料理にピタリとハマる、美味しい飲み物だった。

 

 今まで料理に関しては色々と苦労してきたユウキ。前世での記憶が有るからこそ、生まれ変わってから食べてきたモノにずっと満足できないでいた。そして、今日の料理に関して言えば大満足だった。

 

 これが食べられるのならば、自由都市に移住してくる理由になると思えるほど、ココの料理を気に入っていたユウキ。お店を紹介してくれたオスキツには感謝して、料理を出してくれたシモンにも感謝し尽くしていた。

 

「驚きました。まさかカレーを食べられるとは。しかも旨い。ココでは、この料理って普通なんですか?」

 そして疑問に思ったユウキ。まさか、この料理のレベルって自由都市では標準なのだろうかと。しかし、シモンは首を横に振って否定する。

 

「いいや、出している店は今の所ウチだけだな」

「そうなんですか。じゃあ、自由都市でも他の店では味わえないのか」

 

「そもそも、このお店って転生者とか関係者にだけ開放しているお店なんだよね」

「なるほど、だからなのか」

 オスキツの教えてくれた事実に納得したユウキ。

 これだけ絶品の料理を出すというのに、繁盛していない理由。れそは、一部の人だけしかこの店を利用できないから今も、他の客は入ってこない。

 

「でもシモンさん、最近では他の店でも食べられるようにってレシピを教えたり、技術指導したりしてるんですよね」

「そうだな。この世界の料理文化を壊さない程度に、少しずつ情報をオープンしていっている。しばらく時間は掛かるだろうが他所でも食べれるようになるだろう」

「へぇ」

 都市の名前や建造物なんかを見ていると、転生者として本当に色々と自由に行動しているんだろう、とユウキは思っていた。けれど、実は転生者として情報公開を制限したりもしているらしく、考えてやっているというのが分かった。

 

 しかし、惜しいな。ここに移住してくれば、これだけ美味しい料理を味わえる。でも駄目だと、ユウキは自由都市チキュウテンセイへの移住を躊躇していた。

 

 飯は美味しいし、他の国や土地に比べても住みやすそう。それに、転生者という理解し合える仲間も居る。それでもユウキは、移住してくるという選択を決める事が出来ずにいた。

 何故かと言えば、彼の過去の出来事、自分に対する自信の無さに関係していた。

 

 

<< 前へ  次へ >>     目次

【スポンサーリンク】