キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

39.ゲームの世界(最終話)

 元の世界へ戻ってから1ヶ月が経った。俺は、現実世界での何時もどおりの生活をしていた。

「田中! 会議始めるから準備しといて」
「あっ、はい。分かりました!」
 課長に言われて、進めていた仕事を中断し、会議の準備を始める。資料のコピー取りと、会議室の準備を進めて、課長に報告。

 

「準備出来ました」
「あ、ごめんごめん。会議リスケになったから、片付けておいて」

 ある日にも、
「田中!頼んでいた仕事、必要なくなったから。とりあえず止めといて」
「……わかりました」
 なんて、かなりの量の資料整理を任されていたのに、課長の一言で止められたりする。

 

 こんな風に無駄になるような仕事を何度も頼まれていて、これはちょっと勘弁してほしいなぁと思ったりしながらも、仕事を進める。

 

 そして、仕事をしている間や、就寝する前に異世界のことについて良く思い出す。あの頃は、ただひたすらに帰りたいと思っていた現実世界が、思いの外色あせていて自分の思っていたような世界じゃなかった。

 

(本当はこんな世界に戻りたいんじゃなかった……)

 普通の生活が、こんなにも退屈で辞めたいと思う連続の日々。これならば、向こうの異世界で生活したほうが、ドキドキしたし、こちらの世界よりも毎日が楽しく感じていたように思う。

 

 何故、あんなにも帰りたいと思っていたのか。あの世界で、自分の居るべき場所はここではないと感じていたのか。今は、こちらの世界でそう思ってしまう。

 

 1ヶ月が過ぎて、思い知った。俺は、この世界で居るべきじゃないと。

 

「戻りたい……」
 自然に口に出た言葉が、思った通りの事だった。異世界へと戻りたい。今はそう思ってしまっていた。

 ヘッドマウントディスプレイを頭に装着する。専用のベッドに横たわって、ゲームを始める。これで、戻れるとは思わなかったが、最初の時と同じように、同じような体勢で、同じソフトを起動すれば、もしかしたらなにか起こるんじゃないかと思った。

 身体の感覚が、薄ぼんやりとなっていく。眠りに落ちる、少し前の状態のようだ。

 

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 目を覚ますと、ベッドで横になっていた。周りを確認する。木で出来た建物の中。最初に目を覚ました所で間違いなかった。

「戻ってきた……?」

 俺は、ベッドから下りると、木の建物から出る。

「お? 坊主、久しぶりじゃないか」
  最初の日と同じように、恰幅の良いおじさんにいきなり話しかけられる。

「久しぶりです、おじさん」
「いつの間に帰って来ていたんだい?」
 おじさんは、俺の顔を覚えてくれていたようだ。そして、この世界が、俺の求めていた異世界だと分かった。

「いえ、直ぐに旅立ちます」

(戻ってきたんだ!)

 俺は、最初の村から旅立ち、皆が待っているであろう王国へと目指し歩き出した。

 

 

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