キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

07.徐々に波紋は大きく

 北島タケルは、テンセイというサークル名で同人活動を開始していた。その名の由来はもちろん、転生した自分の境遇を密かに表した名前である。

  もう一つの理由というのが、絵を描く天性がある事をアピールしたりしている。絵に関してならば自信があるぞ、とこっそり表している名前であった。

 それから画竜点睛という故事から学んで、作品の最後の仕上げにまで気を抜かずほんの一手間を加える。という事を、意識して忘れないようにする為に点睛の部分をカタカナにして名前に使った。

 色々な意味を持たせて決めた、サークル名だった。

 そんな彼の同人活動の目的というのは、本を売ってお金を稼ぐことや名をあげる為では無い。あくまでも自分の描いた漫画を、他の誰かに読んでもらい褒めてもらうという欲求を満たすため。

 最大の目的は、漫画新人賞を受賞できるような漫画を描くこと。なので同人活動に関して言えば、タケルにとって意外と優先度が低い。だから、彼が初めて制作した同人作品の委託販売を申し込んだ時に、ショップ側から大量の発注が来たにもかかわらず、当初の予定通りに少数しか納品を請け負わなかった。

 それで困ったのが、同人ショップ側だった。


「五十冊しか、駄目だったのか?」
「はい。作者の要望でして」

 同人作家テンセイから委託販売の依頼をお願いされた担当者と、彼女から状況を聞いた女上司が眉をひそめながら、その問題に頭を悩ましていた。

 上司はもっと大量にテンセイ作の同人誌を納品してもらいたと希望していたが、やり取りをした担当者は、作者の要望に応えるしか出来なかったと語る。

 無理を言って委託をキャンセルされても困ると、上司は担当者を責めることは無かった。けれども、やっぱり納品される冊数の少なさに不安が残る。

「話してみたんですが、そんなに売れるとは思えないからと言って、納品は五十冊でお願いします、と言われてしまいました。自己評価が低い方のようです」

 担当者は一応、納品数を増やしてもらえないかと相談したが断られてしまった、という事実を上司に詳しく説明。

 あれほどクオリティの高い絵を描くことが出来て、初めて作ったにしては完成度の高い同人誌を用意しておきながら、五十冊ぐらいしか売れないだろうと作者は予想している。今まで世に出てこなかったのも、自己評価が低かったせいだろうと考える担当者。

「仕方ないか。まだ無名の新人だから徐々に大きくしていくしか無い、という事ね」

 彼女らも今までに名を知らなかった新人。いきなり、何千冊なんてもの大量発注を出したとしても躊躇してしまう、というのは理解できた。

 だから、断られてしまうのも予想はしていた。だがしかし、五十冊は少なすぎる。たったこれだけしか納品してもらえないとなると、ショップとしては色々と問題が起こる可能性があった。

「とりあえず、最初は商品ページの公開をひっそりと行ってから、成果を出しつつ納品数を増やしていってもらうような感じで、進めていきます」
「あぁ、それしかないか。よろしく頼むね」

 絶対に売れるだろうと、信じて疑わなかった。だからこそ、売れ行きが良すぎて次の入荷まで問い合わせが殺到する、という問題が起きそうな予感があった。新人でありながら非常に商品としての魅力が高くて、商品入荷と販売のバランスを整えるのが大変そうだった。

 だから最初はこじんまりと同人ショップのサイトに商品ページを掲載して、ひっそりと売りつつ状況を見極めようと販売計画を立てた。


 それから、同人作家テンセイ初の同人誌は予定していた通り何の宣伝も無いまま、ひっそりと売り出された。


 ひっそりと商品ページを公開したはずなのに、すぐに十冊も売れるという事態になっていた。

 実は、同人ショップのスタッフが事前に情報を入手していて買っていたのだ。

 スタッフがお客様よりも先に買うなんて、なにかルール違反をしているような気分もあったが、それでも買いたいと熱望していたスタッフ10人が密かに、黙ってお客として買っていた。

 そして販売の担当者や、彼女の上司も誰にも言わずにテンセイ作の同人誌を自分用に購入して手に入れてた。

 それはともかくとして、その後に売り出された残り四十冊も、比較的すぐに売り切れとなっていた。新人で、しかも宣伝なんて無かった中で一週間も経たない内に売り切れてしまったのだ。こうしてテンセイ初作品である同人誌は、購入者の手元に送付されていった。


 それからしばらく経ったある時、数少ない同人誌購入者の一人がテンセイ作の同人誌から中盤の一ページをスキャンした画像を、ネットの掲示板に貼ってしまった。今まで知られていなかったモノが、この事態をキッカケにして大きく知られることになる。

 画像一枚から騒動は徐々に大きくなっていき、騒ぎが大きくなってく状況に恐れて貼った人物は何も語らず黙ったまま去っていった。

 掲示板の住人により画像に関しての様々な予想が立てられて、調査が行われた。そして、同人誌を販売していた同人ショップにたどり着く。

 連絡を受けたテンセイ同人誌の担当者は、やっぱりかと少し予想していたけれど、起こって欲しくはなかった事態が起こったと、苦虫を噛み潰したよう顔をして対応することになった。

 ちょうどその頃、テンセイという名で同人活動をしていた北島タケルもタイミングが悪かった。彼は間近に控えた学校の定期試験に集中していて、同人ショップから送られてきた増刷依頼のメール連絡を放置してしまっていた。

 まさか、そんな事態になっているとは露知らず。五十冊も納品したのだから、売り切るのには、少なくとも一ヶ月はかかるだろうと勝手に予想していたから。

 タケルの同人ショップへの返信が遅れて、同人ショップの担当者も独断で動くことは出来ない。だから、できる限りの説明をホームページ上に掲載するぐらいしか出来る行動は無かった。再入荷の予定は確認できず未定だし、作者の情報を教えることは当然出来ない。

 注目度が非常に高い中、行動が遅れたことによって情報が謎のまま。だから代わりに、掲示板上の住人が様々な憶測を立てる。

 新人とは思えない、非常に高いクオリティの謎。それなのに、今まで何故世に出てこなかったのか。

 作者の情報を公開できない理由は、もしかして既にデビューしている漫画家だから?

 入荷の予定が未定なのは何故? 新人とはいえ、あれほど上手い作家の同人誌を宣伝しなかった理由は?


 北島タケルは試験明けに事態をようやく知って、パソコンの前で頭を抱えてどうするべきか悩んでいた。

「まさか、こんな事態になるとは……」

 とりあえず、まずは無視してしまった同人ショップへ謝りのメールを送ろうとキーボードを叩いたのだった。

 

 

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