キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

06.そうなった経緯

「やっぱり、駄目だったか」

  漫画新人賞に応募した作品の原稿と、不合格の通知が家に送られてきた。これで、自分の作品が残念ながら落選してしまったのが三度目になるという事。結果は散々だった。

 前世で漫画家をしてきた経験もあった僕は、実のところ一度目では駄目だったとしても、二度目か三度目には合格できるだろうと多少の自信があった。

 けれど実際は、そんな経験なんて関係ないというように入賞することは出来ず、佳作という評価すら得られずに不合格という結果。

 僕が応募した作品には寸評が付けてあって、そこにはこう書かれている。画力は非常に高いけれどもキャラクターやストーリーが致命的に駄目、というような厳しい評価である。

 どうやら、世界が違うから今までやって来たように、男の子を主人公にした少年漫画のようなストーリーだと受け入れられないみたいだ。なので、やっぱり駄目だったかという言葉を、僕は小さくつぶやいた。

 この世の中の大半は女性であり、男性の数は少ないのだからターゲットは女性であるべきなのだろう。ストーリーの作り方を変える必要がある。

「しかし、なぁ……」

 ペンを右手に持ち、原稿用紙を目の前にして僕は悩んでいた。

 対策を講じて主人公を女の子にすると、新たなストーリーを描こうとアイデアを考えてみるけれど、思考が止まってしまう。自分が男だから、やっぱり描くのも男が慣れているからなのだろうか。

 今までに描いたストーリーや設定を色々と調整してみて、主人公を女の子にしてみて、登場キャラクターも練り直して変えてみたけれども、なかなか納得が行かない。主人公の性別を男から女に変えるだけと言っても、それは大きな修正だった。

 ここで前世の記憶が色々な障害となって、困難な壁になっていた。世界が違って、どうやら僕は世間とズレている、という感覚の違いが漫画を描く上で大きく影響してしまっているようだ。

 これは、この先も漫画を描いていくのに大変そうだ。

「いやいや、違うか」

 あくまでも僕が漫画を描いているのは、絵を描くのが楽しいと思ったから。漫画のコンテストに応募するのは、描いた作品が他人に評価されてモチベーションを高める為に、あくまでも楽しむため手段の一つとして。

 漫画を描くことが目的であって、コンテストに応募するのは手段でしかない。

 いつの間にか、コンテストの入賞が漫画を描く目的になっている。手段が目的化してしまったら、それでは駄目だ。

 ……けれども、かつてヒット作も生み出したことのある漫画家としてのプライドもある。漫画新人賞を受賞できないという現状は、とにかく悔しい!

 だから、コンテストに応募するのを中途半端に止めたりはしない。入賞できるまで頑張ろう。以前も今の僕と同じように、何度も挑戦を繰り返して不合格の通知を受けていたけれども、最後には入賞することができたのだから。

 ならば今の自分も同じように諦めなかったら、いつかは新人賞を受け取ることが出来るだろう。

 ただ、僕は生み出した作品を多少は褒めて欲しい。不合格が続くと、やっぱり気分が落ち込んでしまう。

 そこで思いついた方法が、同人誌の創作だった。

 自分でお金を出して、本を作る。寸評で言われた通り、ストーリーが駄目でも絵ならば評価されているようだし多少の自信もある。

 作品の内容は、エロいモノにしよう。

 内容をエロにしたら、言い方は悪いがストーリーが薄かったとしても絵で勝負ができる。それに、どの世界であってもエロの需要が尽きることは無いと考えたから。同人誌として作るのなら、売り上げを見込む必要もある。

 それに僕の居るこの世界は、どうやらエロにかなり寛容らしい。わざわざ、絵にモザイクや黒塗りを入れる必要がないみたい。写真や映像の場合は男性身分保護法により男性の裸姿を記録に残すことが許されていないようだが、絵の場合は実在の人物を扱わない限りにおいては、特に規制もされていなくて問題ないという。

 それから、未成年でもエロ漫画を買って問題無いし、売っても問題無いみたい。調べた限り描くのに関しても、未成年が描いちゃダメという規制は無いようだ。

 コンテストに応募する用の作品を仕上げる合間に、同人誌で売り出すエロ作品も描いていった。それだけに夢中になりすぎないよう、家族とのコミュニケーションも取りながら。

 そして、かなりの時間を要してようやく同人誌として売ってみようと考えた作品が完成した。早速、同人誌の委託販売を請け負っているインターネットショップを探して、良さそうな一つを選び出し申し込みをする。

 申請には特に問題もなくて、少し危惧していた年齢確認は無かった。申し込みを終えた後、それから暫くの間はショップからの返信を待つことになった。


***


 その日、委託販売の申し込みで送られてきた作品の見本を目にした担当者は驚愕した。そして、自分だけでは抱えきれない大きな仕事になるだろうと考えた彼女は、女上司に相談しに向かう。

「それじゃあ、この作者は初めての作品でこんな素晴らしいモノを生み出したの?」

 相談を受けた上司は、委託の申し込みとして送られてきたというサンプルの絵を目にして、担当者と同じように非常に驚いていた。

 今まで世に出ていなかった、新人と言われて信じられないような作品の出来栄え。しかも、その絵は女性のエロい心をうまく捉えていて、これは売れると確信できるほどのクオリティだったから。

「はい、そのようです。少し調べてみましたが、今まで世に出ていない作家のようです」

 初めに連絡を受け取った担当者はその後に色々と調べてみた結果、絵柄や画風が似たような作者が他には見当たらない。今までに見たこともないような斬新な表現方法だったので、新人の絵師であると判断した。

「それじゃあ、もしかしたら一般誌とかでデビューの経験がある人かもね」

 これほどの技術を持った作者なのだから、実は有名な漫画家だったと言われても驚きはしない。しかし、なぜ同人誌を作り委託して売り出そうとしているのか理由が分からない。ただ、分かるのはコレをショップで売り出せば非常に話題になるだろうという予感。

 だからこそ、この作者とのやり取りは注意して取り組みを進めるべきだと担当者に忠告する。

「今すぐ作者に返事をして。必ず、うちで売り出せるように交渉は慎重にね」
「はい、わかりました」


***


「へっ!?」

 委託販売の申し込みをして、見本の絵を送った翌日に早くも返信があった。そして、その内容に僕は驚き声を上げる。

 申し込みは無事に通ったらしいのだが、希望で出した委託の納品数にプラスして千冊という大量の発注が来た。いやいや、そんなに売れるはずがない。

 同人誌即売会に参加するつもりは無かったし、全て委託販売に任せようと考えていた。そして万が一、売れなくて返本されてしまったら大量の在庫を抱えることになってしまう。これでお金を稼ごうなんて商売のつもりも無いし、失敗はしたくなかった。

 メールでやり取りをした結果、とりあえず最初に納品する予定だった五十冊だけ送る事に。

 こっちではまだ誰も知らない無名の作家だし、コンテストにも未だに入賞できていない。だから五十冊でも刷る数が多いかもしれない、売り切れたら万々歳だと考える。

 そんなこんなで、とりあえずは販売の結果を見てから今後どうするのかを決める、という感じでショップとの話し合いの決着はついた。

 


 まさか後に、初めて売り出した少数の同人誌が伝説と噂されるまでネットを騒がせるような事態になるとは、この時の僕は考えもしなかった。

 

 

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