キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

05.姉弟の関係

「やっぱり、バシッとストレートに聞かないと!」

 「でも、あの年頃の男の子って複雑なんでしょう? 何をしてるのって聞いたりして、嫌われたりしないかしら。雑誌にだって、年頃の男の子に構いすぎると嫌われるって書いてあったわ」

 キッチンで夕食の準備に料理をしている涼子に向かって、リビングのテーブルに座りながら話しかける佑子。二人が話題に会話しているのは、自分たちの弟であり、とても可愛がっているタケルという子についてだ。

「でも、聞かないと何も分からないままだよ。それに部屋の中で何をしているのか、早い内に探っておかないと。後々になって大変なことになるかも」
「まさか、タケル君がそんな……。学校の勉強が大変だから、家でも勉強してるんじゃないの?」

 涼子と佑子の二人は、友人などから家族の中に男の子が居るという状況を羨ましがられていた。けれども、実際は一緒に生活をしていると色々と悩みながら嫌われないように接しないといけない、という問題がよく有った。

 そして、今回も最近ずっと引きこもりがちのタケルにどう対処するべきなのか、弟に嫌われないように対処するにはどうするべきか、という話し合いが二人の間で行われている。

 学校が終わってすぐ帰ってくると、部屋の中で一人になって何か悪い事でもしているんじゃないか、と危惧している佑子。そんなはずはないと、料理の仕上げをしながら反論する涼子。

「それにしたって、部屋に引きこもりすぎじゃない? 中学の勉強ってそんなに大変?」
「うっ……。そ、そうよねぇ」

 部屋の中で一体何をしているのか姉として把握していおいたほうが良い、というのが佑子の意見だった。

「部屋の何をしているのか……。そうね、思い切ってタケル君に聞いてみよう」
「姉さんに任せる」

 万が一のために、真実をはっきりさせようと気合を入れて望むことを決意した涼子。佑子は、全て任せると言い切った。

「もう! いつも私が悪者にされる」
「お願い。姉さんの読んでる雑誌には、決断力が有って堂々としている女らしい人が好かれるって書いてあったから。タケルも何してるか聞かれたぐらいで嫌いにはならないって。……たぶん」

 こうして、食事中に聞いて調べるのは長女である涼子の役目に決まった。そんな彼女を矢面に立たせて、上手く立ち回る次女の佑子。

 身内である二人が見ても、タケルは可愛いし男として非常に魅力的な子だった。いつも変な女に誘拐されたりしないか心配になるほど。一緒に外出する時は周囲を常に警戒して目を光らせている。そんな家族に嫌われたくないと、心配になる涼子だった。


***


「タケル君、ご飯の準備ができたよ! 下りてきて」
「わかった。今行くよ!」

 階下から、姉弟の中で一番年上である涼子姉さんの呼ぶ声が聞こえてきた。その声を耳にして、僕は描いている手を止める。

 学校が終わったらすぐに家へ帰ってきて、今までずっと集中して作業していたら、気が付けばこんなに時間が経っていたのかと驚く。

 まだ中学生の僕は、放課後の時間が有り余っていた。勉強も問題なく着いて行けているし、予習復習で少し勉強するだけで学年トップの成績を維持できていたので十分。後は漫画を描く時間に充てている状況だった。

 すぐに行くと、涼子姉さんに向けて大声で返事。そして急ぎ机の上に出していた漫画を描くための道具を片付けた。机の引き出しの中にではなくて、クローゼットの奥にひっそりと隠して置いてある金庫の中に道具を仕舞った。

 母親や、二人の姉が僕の個人部屋に入ってくることは絶対に無かったが、念のために誰にも見つからないようにペンや原稿用紙などの道具は隠していた。僕が漫画を描いている、という事を家族に知られない為に。漫画を描いているのを彼女達に知られるのが、少し恥ずかしかったから。

 まだ漫画家を目指すとか、連載を目指すというような気持ちは無い。ただ、趣味程度に描いて、評価をもらう為だけにコンテストへ応募しているだけ。デビューは目指していない。

 なんだか、そんな考えもあっさりと覆って思い余って突き進んでしまいそうだったが……。

 ともかく、漫画を描いているという痕跡を隠してから自分の部屋を出て行く。するとリビングにはエプロン姿の涼子姉さんが、完成した美味しそうな料理の数々をテーブルの上に並べている最中だった。

「あー、お腹減った! 早く食べたい」
「もう! 行儀が悪い、タケル君が席に着くまで待ちなさい!」

 既に席についていた次女の佑子姉さんが、腹ペコなのを訴えていた。そんな態度を厳しく叱る涼子姉さん。待たせてしまったことを申し訳なく思いつつ、僕は急ぎ席に着いた。

「さぁ、夕食の準備したから食べて」
「うん、ありがとう。いただきます」

 佑子姉さんに接する態度とは打って変わって、僕に向けては優しい口調で話しかけてくれる涼子姉さん。

 仕事が忙しい母親に代わって、姉の二人が当番制で夕食の準備をしている。僕も手伝いを申し出たけれども、過保護な家族は包丁を持つのが危ないだとか、火を扱うのが危険だと言って許可してくれない。でも男性は、これぐらい過保護にされるのが世の中の常識でもあるらしい。

 でも手伝いぐらいはさせて欲しいな、という不満を抱きつつ、僕は姉が用意してくれた料理を食べ始めた。

「最近、勉強はどう? 大変?」
「え? そんなに大変じゃないかな」

 食事中に話しかけてきた涼子姉さんは、なんだか恐る恐るという感じでそんな事を問いかけてきた。いつもと少し違う彼女の様子に、何かあったのかなと心配になる。

「そう……。勉強は大丈夫なのね。何か生活で困った事とかある?」
「いや、特には無いかなぁ。どうして?」

 テストの点数は低くなっていないはずだし、成績も悪くなっていない。日常生活でも特に困ることは無いかな、思い当たるふしは無いし問題もない。すると、一緒に食事をしていた佑子姉さんが横から会話に割り込んできた。

「家に居る時、ずっと部屋の中にこもりっばなしだから」
「あ。ごめん」

 なるほど、そういう事かと納得する。放課後の時間を使って最近はずっと漫画を描いていたから、部屋に引きこもりがちになっていた。

「謝らなくてもいいのよ、タケル君。でも、避けられてるかもって思ってちょっと心配になっちゃって」
「うん、そう。もっと、タケルと一緒に過ごしたいかなぁ、って思ってた」

 姉二人の意見。そんな風に思われていたのか、と少し反省。部屋の中で一人きりになっているのは良くないな、これから家にいる時は姉さんと一緒に過ごそうと思った。

「わかった、なるべくリビングに下りてくるよ」
「いいの? 忙しいんでしょう?」

 僕の言葉に、涼子姉さんは迷惑じゃないかという感じの表情で心配してくれる。だが、問題なんて無かった。

「ううん、自分の部屋で暇つぶしに遊んでるだけだから。姉さんと一緒に過ごすほうが大事だと思うから、一緒にいるよ」

 そう言うと、ホッとした表情をする涼子姉さんと、嬉しそうに笑っている佑子姉さん達だった。部屋に一人でいた事で、二人の姉に少し心配をかけてしまった。

「よかった」
「じゃあさっそく今夜、この映画でも一緒に見るってのはどう?」

 その後、佑子姉さんがレンタルしてきた映画を三人並んで一緒になって見たり、おしゃべりを楽しんだ。途中から、仕事を終えて家に帰ってきた母親も合流して家族団欒の時間を過ごした。


***


 夕食の時間に話し合いをした結果、部屋の中で何をやっているのか調べるという目的は果たせなかったものの、部屋に引きこもりがちだったのを止めさせて一緒に過ごすという約束を取り付けることには成功した涼子たち。

「ごめんね、私がモタモタしてるうちに代わりに聞いてもらって」
「別にいいよ」

「ふぅ……。でも良かった」
「タケルは気のいい男の子だから、言ったら分かってくれるよ」

 本気で、嫌われなくてよかったと安堵する涼子。彼女に対して、弟と一緒に過ごせるという最良の約束を取り付ける事が出来たと、喜び笑みを浮かべる涼子だった。

 

 

<< 前へ  次へ >>     目次

【スポンサーリンク】