キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

04.僕が再び漫画を描く理由、キッカケの裏側

 僕の知っている常識とは少し違った世の中。しかし、何の因果か死んだはずの僕は新しい人生を送れるチャンスを貰った。だからこそ、今度は突然の不幸が無いように注意しないと。

 新しい母親や姉妹よりも先に死ぬことが無いように、普通の人生を送って長生きをして人生を全うしようと決意した。だからまずは、漫画家を目指す事は止めようと強く決心する。

 そう心に決めた筈だった。なのに、僕の決意を揺るがす出来事が早くも起こった。それは、学校の図工の時間。教室から外に出て校庭にある風景を写生、描いたものを先生に提出して採点してもらうという授業。

 何気なく描いた絵が、クラスメートの女子達から絶賛されるような出来栄えとなっていた。

「タケルくん。その絵、すごく上手だね」
「ホントに? ありがとう」

 新しい人生では漫画家を目指すのは止めておこうと僕は考え、それから漫画に関わらないで居ようと一切何の絵も描いてこなかった。

 ずっと描いていなかったのだが、授業の時間で描かないわけにもいかず。そんな事情で久しぶりに描いてみた絵だったので、自分では納得できない褒めてもらえる程の作品とは思えなかった。けれども他の人には良い出来栄えに見えるようで、絵を他人から褒めてもらったことに嬉しくなる。

 男が少ない今の世の中で、無駄に何度も褒めてくる女子たちに僕は疑いを持って接することが多かった。

 頭が良いとか、運動神経抜群だとか、容姿が可愛いだとか褒められても僕は喜ぶことが出来なかった。

 なんだかご機嫌取りをされているようで、彼女たちの褒め言葉を素直に受け止めることが出来なかったから。

 世の中に居る男の数が絶対的に少ない世界で、少しでも好かれようと、近付こうと褒めまくられる。そう思ってしまって、僕のような人間が褒められるなんて思わなかった。

 前世の経験から小学校の勉強なんて楽勝だったから頭が良いと思われたし、身体の動かし方も構造を理解すれば運動なんてある程度は誰でも動けるようになる、感覚で動いて運動しようとする他の子に負けはしなかった。

 容姿に関して言えば、母親や姉達と比べてみれば僕なんかよりも彼女たちの方が可愛いと褒められるのに相応しい。

 そんな風にネガティブに受け取って、女子の褒め言葉に不信を抱くようになっていた。だがしかし、絵の事を褒められた時に僕は、素直に嬉しいと思えた。自分が思っている以上に気分が高揚して舞い上がっていた。

 久しぶりに描いた絵が褒められて、漫画家を目指すのは止めておく、という決意が揺らぐ。しかも、自分の絵が褒められたことで前世の嬉しかった思い出が蘇ってくる。

 初めて自分の作品が入賞した時、雑誌での連載が決定した時、単行本を出版できた時、アニメ化が決定して自分の絵に動きが加わったのを目にした時、その他にも漫画に関わる良い思い出が頭の中でグルグルと駆け巡っていった。

 もう一度だけ描いてみよう。そう思ったのがスタートになって、久しぶりに紙の上にペンを走らせる。表裏が真っ白な普通のコピー用紙に、学校て使っている普通の鉛筆で描いていく。

 すると、腕を動かしている最中に漫画のアイデアが次々と溢れるように湧き出てきた。この思いついてしまったアイデアを腐らせないよう、漫画にして表現せずには居られなかった。

 1ヶ月経った頃、気が付けば僕は32ページある一本の漫画を描き上げていた。漫画を作ったら誰かに見てもらいたい、評価してもらいたいと思うようになる。

 いつの間やら僕は漫画の新人賞の応募先を調べて、探し出し、自分の作品を送っていた。再び、漫画のコンテストに自ら応募する。

 こうして僕は、再び漫画を描く道を歩み始めてしまったのだった。


***


 その少年に、どうやって対応するべきか多くの女性が困っていた。厄介者だとか、迷惑だと思っているワケではない。むしろ逆で、嫌われたくないと思うから対応をとても慎重に。

 けれども、目標の人物は近寄りがたくて多くの女子達は少し距離を離した所から隠れつつ、チラリと目を向けることしか出来なかった。

 少年の名は、北島タケル。

 同じ学校に通う女子生徒達の全員が名前を把握している、全女子生徒の注目を集めている男子生徒だった。

 非常に希少な男子生徒というだけでなく、頭は良いし、運動も出来て、容姿も整っていて可愛らしい。男として非常に魅力的で抜群に優れている彼を、女子が放っておくわけもなく。

 クラスメートや他の学年に所属している女子学生、担任の女先生まで全ての女性がタケル君という魅力的な男子と仲良くなりたいと望んで、最初は積極的に話しかけていった。

 けれども、女子達がタケルに話しかけても無表情のまま短い言葉で返事をするだけ、褒めたりしても喜ばない。

 もしかしたらタケル君は人と会話するのが嫌いなのか、それとも考えたくはないが多くの男性と同じように、女性という存在が嫌いなのかもしれない、と思った女性たち。

 
 彼のことが好きで、いっぱいお話しをしてみたい。けれども、嫌われたくはないと思った女性の皆は、タケルと話をするのに躊躇するようになってしまった。

 そして、北島タケルという男子に付けられたあだ名が深窓の令息。一定の距離を保ちつつ、周りから様子をずっと見つめられいてる状況だった。

 その他にも、高嶺の花だったり、別世界の王子様というような呼ばれ方をされるようになったタケルは女子生徒からずっと距離を置かれていた。彼の様子を、離れた場所から女性ら全員が伺っていたから。


 そんな、ある日のこと。


 図工の時間で、北島タケルの描いた絵を目にした女子生徒がいた。あまりの絵の上手さに驚き、どうしても褒めたい、この感情の高ぶりを彼に伝えたいと女子生徒は思った。

 タケルが褒められたり、女子から声を掛けられるのを嫌っているかも知れない、という事も把握はしている。けれど、一か八か、話しかけて嫌われても仕方ないと思い切って、女子生徒は北島タケルと会話してみようとチャレンジした。

「ッタ、タケル、くん。そ、その絵、す、すごくじょ、上手、だ、ね」

 ただでさえ男子に話しかけるだけで心臓が口から飛び出そうなほど緊張するのに、それが北島タケルという深窓の令息なんてあだ名で呼ばれるような人物に、近寄りがたいと思っている人の名も呼んで話しかけるなんて。

 女子生徒は、緊張しすぎて言葉が滑らかに出てこない。喋り方も変になりながら、それでも言い切った。

 その瞬間、周りの雰囲気が一瞬だけ止まった。男に、しかも北島タケルという近寄りがたい存在に声を掛けた女子生徒の勇気と無謀さを讃えつつ、無茶をしたなと憐れむような感情を、声を掛けた彼女に向けていた。

「ホントに? ありがとう」

 女子生徒は、初めてタケルが褒め言葉を素直に受け取ったと驚いていた。そして、恥ずかしそうな表情の中に嬉しそうな笑顔を浮かべている彼の顔を見て、心臓が苦しくなるほど興奮していた。

「「「(か、かわいい)」」」

 周りで様子を伺っていた他の女子生徒たちも、普段は無表情が多くて初めて見る北島タケルのレアな表情を目の当たりにして、胸をときめかせていた。

 そして、そんな表情を彼から向けられている、最初に声を掛けて彼の事を褒めた女子生徒にジェラシーを感じていた。もっと早くタケル君に声を掛けて、自分があの表情を向けられたかったと、多くが後悔していた。

 

 

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