キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

25.午後に向けての昼食時間

 アシスタントの萌水に用意してもらったコーヒーをゆったりと飲み、朝から優雅な時間を過ごすタケル。寝起きで朝食をまだとっていなかった早百合に、自分の食べる分も用意して二人で朝食を楽しんでいた。

 朝食の時間も終わって、英気を養い作業を始める準備が整った。

 「それじゃあ、作業を始めましょうか」というタケルの一言で、三人が動き出す。彼は作業分担の仕方や指示の出し方が非常に慣れていて、彼の下でアシスタントをするのが非常に楽だと早百合と萌水は思っていた。

 かつては連載を持って描いていた早百合、誰かの下でアシスタントをするのが初めての経験だった早百合は、人から指示されて動くのが非常に集中できることを知って、指示を受ける時も理論的で漫画を描く技術に関して色々と勉強になっていた。

 萌水は、色々とアシスタントを経験してきたけれども、まるで何十年も漫画家を続けている熟練のような慣れがタケルにあると感じていた。これが、まだデビュー目前の新人だというのが驚き。咲織の話しによれば、今まで一人で描いてきたのでアシスタントをお願いしたという経験も無いという。天才だとか、末恐ろしいとはこの事だという印象を受けていた。

 それから黙々と作業を続ける。タケルはスケジュールに沿って、少しづつ修正を加えながら確実に1ページを仕上げていく。

 早百合は、指示された通りに背景を描いたり、シーンの場面に合ったカバンやコップ、電話といった小物を書き加えていったりする。

 少しでも疑問があったなら、その都度尋ねてください、というタケルの言葉通りに早百合は作業を中断して何度かタケルと話し合ったりもしていた。それは、指示された背景に矛盾がないか、書き加える小物に問題はないかどうか、時には話の内容についても突っ込んだりする。そして、聞かれたタケルも真剣に答えたり、間違いを認めたりしていた。その議論を通して、新しいアイデアが生まれたりもして助けにもなっている。

 一方、萌水はトーン貼りに消しゴムがけという下書きの線消し、ベタという指定された箇所を黒く塗りつぶすという作業、更にホワイトと呼ばれるペンで書いたところを修正液で消す作業などを行っていた。一見すると地味だが、これをしないと漫画が完成しない必須作業でもある。そして、業界ではメシスタントとも呼ばれる食事を担当してくれている。何気に、この食事担当が一番活躍していたかもしれない。

 休憩を入れつつ作業を進めていると、午前中の時間はあっという間に終わる。

 20分ほど前に作業を終えて、食事の準備に入っていた萌水の昼食が完成。部屋の中に美味しそうな匂いが漂ってきた所で昼食の時間だと分かる。

 レトルトで簡単に済ます時もあるけれど、基本的には食材から調理していってアツアツの美味しい料理を用意する。昼食でも手を抜かず、前日の夜や朝から事前の準備を済ませておいて昼の時間に仕上げるという方法で料理を作っていた。

 萌水が初めて男性であるタケルに料理を振る舞った時、「これ、すごく美味しいですね!」と笑顔を浮かべて作ったものを褒めてくれた。この瞬間に、なんとも言えない達成感と満足感を得た萌水。

(男の子に自分が作ったモノを食べてもらって、喜んでもらえるなんて。こんなに嬉しいことはない!)

 そのタケルの言葉がキッカケとなって、食べて喜んでもらうという目標も出来て更に趣味である料理に深くのめり込んでいく萌水だった。

「今日のメニューは、サラダと春キャベツとベーコンのクリームパスタ、あとはオニオンスープ」

 昼食をとるのにダイニングテーブルへ移ってきた、タケルと早百合の二人の目が輝く。視覚だけでも美味しそうと思える。そして、お腹が空腹で鳴る。

「さぁ、食べよう」
「いただきます」

 席について、すぐに食事を始める早百合とタケル。二人の顔を見て、満足げな萌水。特に、タケルの嬉しそうに食べる姿を毎回目に焼き付けるようにじっくりと見ていた。

「ちょっと肉っ気が足りないかも」
「ほら、これ」

 肉好き早百合の趣向を把握していた萌水は、前日夕食に作って残りだったフライドチキンを提供する。

「ありがとう、萌水さん」
「どういたしまして」

「僕も、ちょっと一口もらえますか?」
「もちろん、どうぞ」

「こら、食べ過ぎると体に悪いから程々にね」
「最近は師匠としっかり運動もしているから、大丈夫」

 そんな会話をワイワイと繰り広げながら、皆で仲良く昼食をとっていた。

「ほら、デザートにイチゴのヨーグルトを作ってみたから食べて」

 整腸作用のあるデザートを食後に用意してくれる。ランチの最後まで、タケルに喜んでもらおうと、至れり尽くせりで準備をしてくれている萌水だった。

 

 

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