キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

23.商業作家への道

 作業場を用意しアシスタントを雇って、同人作家から商業作家になるために僕らは着々と準備を進めていた。

 ハッキリ言って今のところ同人誌が十分に売れているので、今の状況で商業誌に移るのは得策とは言えないかもしれない。

 だが咲織さんには昔からずっとお世話になっていたので、彼女に少しでも恩返しをする為。それに学校を卒業した今のタイミングで、僕は商売として漫画家の活動に本腰を入れるのも良いんじゃないか、という考えがあった。

 それに同人誌には手を出していないが商業誌なら買う、というような読者も多いだろう。雑誌に作品を掲載させてもらい出版市場にも売り出して知名度をアップ。読んでもらえるキッカケを増やして今まで以上の読者数獲得を目指す。それにより今よりも更に有名になる事が出来るだろうと考えていた。

 あわよくば、雑誌での連載実績を認めてもらって人気を得ることが出来たならば、全年齢向けの作品なんかも描かせてもらえる機会を得られる、かもしれないと僕はまだ諦めず密かに狙っていた。

 

「それじゃあ二階堂さんは、こっちのデスクと部屋はココを使って下さい。そして甲斐さんはこっちをどうぞ」

 作業場に用意しておいたダークブラウン色のワークデスクを、これからアシスタントとして作業を任せる二人に割り当てる。

 ちなみに部屋の中にある机や椅子、家具やインテリアは全て咲織さんが選び配置まで請け負ってくれていた。とても漫画家の作業場とは思えない、ごちゃごちゃした感じのない綺麗にスッキリと見える統一感のあるハイセンスな部屋になっている。

 僕だったら、作業場をこんな洗練された場所に仕上げることは出来ないだろう。そして普通の編集者なら、そこまで手伝ってくれることもない。本当にありがたい人だった。

 いつも手助けをしてくれている咲織さんに、僕は感謝してもしきれない程の恩があると感じていた。いつか返しきれるだろうか。全て返すまでには一生掛かりそうだ。

「本当に良いんですか、師匠?」
「先生が借りた部屋なのに、私たちが使うのは勿体無いんじゃないですか?」

 二階堂さんは、僕の事を完全に師匠と呼ぶようになっていた。そして甲斐さんも僕の事を名前じゃなくて先生と呼ぶように。まだデビューもしていない漫画家が偉そうに、と思うと呼ばれる度に恥ずかしくて何度か呼び方を変えるようにお願いした。だが、二人は直してはくれなかった。そして、僕は諦めれた。

 まぁ尊敬してくれている呼び方なので、恥ずかしいと感じる僕の感情以外には特に何の問題も無いから。敬われているのも内心では嬉しく思っているし。……尊敬、してくれているんだよね?

 そんな二人が、割り当てられた部屋を本当に使って良いのかどうか、心配そうな表情で何度も聞き返してくる。

「大丈夫ですよ。ここは使ってない部屋なんで、二人が自由に使ってもらった方が有効活用になりますから」

 部屋の広さが6畳あって、ベッドに小さなテーブルと収納棚、必要最低限のモノが置いてある。あとは、テレビと座椅子を持ち込んで置けるぐらいの余裕があった。ここで一人暮らしをしても全然問題ないぐらいの、十分な部屋の広さがある。

 そんな部屋を彼女たちに休憩部屋として提供する。作業中に疲れた場合や、一息つく時、なるべく無いようにしたいが締切間近で泊まり込みが必要になった時にも仮眠をとったりできるような、プライベートルーム。

 家主である僕と、編集者である咲織さんには既にそれぞれ割り当てた部屋が決めてあった。そして今度からアシスタントをお願いする二人にも別け隔てなく、同じように部屋を提供する。

 

 咲織さんとは部屋決めの時に少し揉めて、休憩部屋を一つ用意してくれれば後は布団でも並べておけば十分、と言っていた。こっちの世界の価値観で言えば、そうなんだろう。

 もしも咲織さん、二階堂さん、甲斐さんの三人が男性、もしくは僕も女性だったならばソレで十分だと思った。

 けれど、どうも異性がいる環境の中で女性をひとところに集めて休憩させたり、疲れて仮眠を取らせるのに、一つの部屋に並ばせて眠らせるという事について抵抗を感じていた。

 なので僕の感情を納得されるためにも、皆には一人一部屋を割り当てることに決めた。どうせ部屋は十分なほど余っているんだし。まだ使ってない部屋も有るから、せっかくなら払っている家賃分に見合うぐらいには無駄なく有効に活用したい。

「ありがとうございます!」
「本当に良いの? 大丈夫? 無理してない?」
「この家の決まりです。皆、一人一部屋でどうぞ」

 素直に受け取る二階堂さんと、まだ遠慮している甲斐さん。これが、この家のルールだと急遽決めた規則を盾にして、強引に部屋割りを決めた。

 

「それじゃあ次は、今後のスケジュールについて軽く説明します」
「「「「はい」」」
 そう言って僕は咲織さん、二階堂さん、そして甲斐さんの三人からの返事を確認して今後の予定についての説明を始める。

 咲織さんが用意してくれた、成人向け漫画雑誌の連載枠。それが2ヶ月後の連載開始予定だった。いきなりの連載枠。予定では1年ほど続ける計画だった。締切を厳守して、しかし忙しくなりすぎないように。それを目標にして早速活動を始める、という事。

 実はもう数話分のネームを考えて下書きも少々進めていた。アシスタントの二人にも、すぐ作業に入ってもらえる準備ができている事を伝える。

 前世での経験から学んだ僕は、なるべく仕事を受けすぎないよう忙しくならないよう注意すること。スケジュールは十分なぐらい余裕を持たせること。それから、二ヶ月先という余裕があるうちにどんどん進めておいて後に余裕が持てるようにと考え、先んじて仕事に取り組んでいた。

「そんなに早く、流石師匠ですね。見習わないと」
「本当に早いわね」

 尊敬するような目で僕の姿を見てくる二階堂さんと甲斐さんの二人。そんな二人と違って、心配そうな表情をしているのが咲織さんだった。

「大丈夫ですか? 本当に無理は、してないですよね」
「もちろん。スキマ時間でちょこっとずつ進めてたから、徹夜も夜更かしもしてないよ。ありがとう咲織さん、心配してくれて」
「何か体に異変が感じられたら、必ず言って下さいね」

 実を言うと、こんなに早くアシスタントの人が来てくれるとは思っていなかったので、連載を始めてしばらくは一人でも大丈夫なように準備していた結果だった。

 そんな早くに準備を進めているという事を咲織さんに伝えたのは、アシスタントを雇うという話を持ってきてくれた時だった。連載に向けて、こんなに早く動き始めているとは思っていなかったらしくて咲織さんには驚かれた。

 そして無理をしているのではないかと、何度も疑われている。なにかあるごとに僕の体調面に気を配って、あまり無理しないようにと顔を合わせるごとに毎回心配されている。

 無理はしていない、と嘘は言っていない。僕も無理のないように疲れのない程度で、早め早めを意識してネームを作ったり、漫画を描く作業しているだけだった。

 僕自身も無茶は絶対にやめようと思って、かなり慎重に失敗しないようにと心がけていた。それほど前世での締切と過労という体験にトラウマを持っていたから。だから咲織さんからの心配もありがたかった。これは、絶対に倒れたりするような無理はできない。

「なので、早速明日から作業お願いします」
「え? もう今から始められそうだけど」

 まだスケジュールには十分すぎるほどの余裕がある。やる気を出してくれている甲斐さんには悪いけれど、今日から早速作業に入るとは言わなかった。

 漫画家と言えば多忙というイメージも払拭したかった。また過労で死にたくはないからね。

「いえ、まだスケジュールには余裕があるんで。今日は二人にアシスタントをお願いした記念に歓迎会でもしようと思います」

 スケジュールには十分余裕を持たせてある。余裕があるうちに進めるのが良いと考えつつも、いま優先するべきなのはチームとして連携を良くしていく事。給与や仕事内容の計画については、後々の話し合いになるが二人にアシスタントを任せることは僕の中で本決定だった。

 そんな彼女たちとは今後も、長く漫画家の活動を続けていく為にも早々に、良好な関係を築けるよう働きかけていく事が必要だろう。

 そして、仲良くするために僕が思いついた方法。それは、アシスタント二人の歓迎会というイベントを催して交流を深める、という方法だった。そんな思いつきを口に出して、早速行動へ移すことにした。

 今日出会ったばかりの二階堂さんと甲斐さんの女性二人、それから咲織さんとも食卓を共にすることで、最初の交流を深めることが出来るだろう。

「わかりました。それじゃあ準備しましょう」
「マジですか!?」
「至れり尽くせりね」

 早速、僕の思いつきに付き合ってくれる咲織さん。突飛な行動を始めた僕に驚いたのだろう二階堂さん。呆れた感じで呟く甲斐さん。

 今日ここに北島チームとも呼べる集まりが結成された。そして、まず最初に僕らの活動となったのが皆で一緒に夕食を楽しむ、という事だった。

 

 

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