キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

19-6.目にした事実

 咲織から詳しい説明もされずに、怪しそうなアシスタントの仕事をお願いされてから数日後。顔合わせを兼ねた面接をするという事で、私は新人漫画家の作業場へ来るように言われていた。

 話を聞いても教えてくれない。どうも怪しいと思った私は、直接自分の目で確かめてやるためも、呼び出しに素直に応じた。ヤバそうだったら、急いで友人を連れ帰る。そう心に刻んで。

 目的地へと行く前に、もうひとりのアシスタント候補をお願いしたという二階堂早百合という人物と待ち合わせをしていた。自分以外にもうひとり、アシスタントとしてお願いしている人物の存在について、私は直前に聞かされていた。

「あ」
「こんにちは、貴方がもう一人のアシスタント候補の子ね。よろしく」

 しばらく駅前で待っていると、約束の時間になってやって来た長身の女性。私は知り合いであった彼女に声を掛けて合流。

 二階堂さんとは、何度か一緒に仕事をしていて顔見知りというような関係だった。しかし仕事をする時以外は交流がなかったので仲良くなる機会もなくて、短期間の仕事だったし会うのも久しぶりぐらいの関係。

 なので、ほぼ初対面とも言えるような感じだ。だからだろう、二階堂さんの態度には少しぎこちなさがあった。

 二階堂早百合さん。デビューしたばかりで、このまえ無事に1作目の連載を無事に終えた。

 かなり漫画家として技術力の高い人だと思うけれど、人と会話をしたりコミュニケーションに関しては少し不得意なようだった。噂によれば担当の編集者と揉めて、次回作の連載予定を白紙にされた、という話も聞いたことがある。

 アシスタントに付いていた時に感じた彼女に対する印象から、人に嫌われたり、性格が悪いという訳ではないと思う。

 だから編集者と揉めて仕事をダメにしてしまったのも、もう少し意思疎通に気を配れば次回作の予定を無しにされる、という失敗は無かったんじゃないだろうかと私は予想していた。噂に聞いた話だけの判断だから、実際はどうなのか知らないけれど。

「よ、よろしくおねがいします」
「じゃあ、早速行きましょう」

 二階堂さんに関して考え込んでいた私に、彼女は恐縮した様子で頭を下げてきた。会話もそこそこに早速目的地へと向かうことに。

 そして、二人でやって来たアシスタントの面接が行われるという高層マンション。

 このマンションの一室を作業場にしていると聞いていたが、かなり家賃が高そうだ。一緒にやって来た二階堂さんも、高層のマンションを仰ぎ見て、スゴイと驚き声を上げている。

 これから会う人物は、かなり金回りがよさそうな人らしい。やはり詐欺ではないだろうか、という疑惑が深まる。

 防犯カメラが何台か設置されているのが見えて、ドアもオートロックになっている防備が完全な場所。インターホンでやり取りをしてセキュリティが厳重なエントランスを抜けると、エレベーターに乗り込んで目的地に到着する。

 私はその間をずっと、どんな人物だろうかと予想を立てていた。一体どんな人物が咲織と一緒に待っているのだろうか、と。

 そわそわして落ち着きがない二階堂さんと玄関扉の前に並んで立って、インターホンを鳴らす。

「どうぞ、中に入ってください」
「ごめんくださ……い……」

 そして開かれた扉の向こうに立っている男の子を見て私は驚いた。咲織から話に聞いていた新人漫画家を目指していると思われる人物が、目の前に何の警戒心もなく姿を現した事に。

 詐欺だと疑っていた私は、男性が目の前に何の気負いもなく現れたことに対して、混乱した。あれ、じゃあ咲織の言っていた話は本当?

 話に聞いていた男性漫画家というのは姿を表さず、色々とだまし取ろうとしているんじゃないかと考えていた。そんな私の予想は完全に外れ。

 咲織が事情を詳しく話したがらないのも、実は顔を合わせたことが無かったり、男性漫画家なんて存在していない嘘の話だからだと疑っていた。

 だがしかし、私の目の前に普通に立っている。それも、容姿が非常に優れている可愛い男の子だった事に私は驚いていた。

 彼の姿を見て、咲織が必死になってお願いしてきた理由も分かった。以前、彼女が語っていた男性の好みに、どストライクだったから。

 

 部屋の中に案内されてお互いに自己紹介を済ませると、これからアシスタントの面接が行われようとしていたが、その時にちょっとした騒動が起こった。

 一緒に来ていた二階堂さんが、アシスタントの仕事を拒否するという。

 話し合いの結果、なぜか二階堂早百合さんと北島タケル君の二人が、漫画家としての技術力で競い合う勝負対決をするという事になっていた。

 私は二人の張り合いから少し距離を取って、黙って二人の様子を見ていた。その時にはもう、男性の漫画家という存在に疑う気持ちは薄れていた。後は、漫画家としてどれくらいの技術があるのか見たいと思ったから。

 ただ男女間で起こった揉め事に決着がどうなるのか少し心配になって、同じように様子を見守っている咲織に問いかけた。

「止めないでいいの?」

 北島君の実力は未知数だが、二階堂さんの技術を評価していた私。その後の展開を予想して、二人の勝負は止めたほうが良いんじゃないかと咲織に聞いてみた。彼女が夢中になっている、彼が困るんじゃないかと思って。

 すると咲織は自信満々な表情を私の方に向けて「止めなくても大丈夫」と断言していた。

「知らないまま対戦を受けた早百合ちゃんには悪いけれど、タケル君の実力を手っ取り早く知ってもらうのに一番の方法だと思うから」
「んー、そうなの」

 まるで北島タケルという男の子の勝利を確信している咲織の口ぶり。私の心配している事と違っていたけれど、咲織も止める気配は無いみたいだし私は巻き込まれないように、とりあえず状況を見てみようと黙った。


 そして二人の勝負は北島君の圧勝、という結果に終わっていた。

「これは、凄い」
「ね? 騙されてたんじゃ無いでしょ」

 私の目の前で男の子であるはずの彼が描いた、間違いなく男性の手によって描かれたというセクシーな絵を見て私は驚く。

 アレだけの技術力を、彼は一体どこで身につけてきたのだろう。咲織に詳しく話を聞いてみれば、同人活動を三年間続けてきたらしい。ただ、それ以前から既にずば抜けた技術を身に着けていたらしいが。男性なのに、これほどに魅力的な絵を描けるのは驚きだった。

 そして、最近ずっと忙しそうにしていた咲織の事情をようやく知ることが出来た。なるほど、あの男の子が咲織の好みのタイプであり、しかもコレほどの実力を持っている人物ならば入れ込んでも不思議じゃない。

 咲織が騙されている、という可能性も薄そうだった。三年間もの長い期間を費やして一人の女性を騙そうとする、そんな馬鹿な男も居ないだろう。

 彼のように可愛らしい容姿を駆使すれば、他にもっと効率の良い騙し方や詐欺の方法があるはず。

 本当に漫画家として活動するつもりの男の子だという事が判明した。

 そして私はリアルの男の子って、こんなものなのかと少し興味が出てきた。是非、アシスタントの仕事を受けて関係を築くことは出来ないかと、自然と積極的になっていた。

 

 

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