キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

19-5.甲斐の心配

「本当に大丈夫? 騙されてるんじゃないの?」

 友人である咲織から、新しい仕事をお願いしたいと呼び出されて向かった喫茶店。テーブル席で向かい合って、そのお願いしたいという仕事に関しての話を私は聞かされていた。

 彼女から説明された内容というのが、新人の漫画家のアシスタントをお願いしたいということ。そして、その漫画家の性別が男性であるということ。

 話を聞いて真っ先に思い浮かんだ言葉は、疑い心配するような感想だった。

 そのまま素直に、思ったことが私の口からは出ていた。騙されているんじゃないの、という言葉。本当に大丈夫なのだろうか、という心配もある。

「いや大丈夫、だと思う。……うん、絶対大丈夫。だけど、ごめん。本当は色々と話したいけど、うかつに話せない内容ばかりなの」

 私の問いかけに対して本当に悩みながら、大丈夫だと答えた。しかし、答える声のボリュームは若干小さくなって、彼女も自信が無いように私の耳には聞こえた。心配だった。

 咲織は、事情を話せないという事を申し訳無さそうな表情をしながら、頭を下げて謝ってくる。

 騙されているのでは、というのは彼女を心配して出た言葉だったけれども、咲織が不安そうな表情を浮かべるのを目にして、もう少し言葉を選ぶべきだったと後悔。それから申し訳なさそうにする友人である彼女の表情に、私の心は痛んだ。

 それに加えて、私が強く問いただしても事情は絶対に話さないぞ、という決意の満ちた顔もしている頑なな咲織だった。これは、直接彼女から事情を聞き出すことは不可能そうだった。

 一度決めたら意見を変えようとしない咲織の頑固な性格を知っている私は、それ以上の事情を聞き出すことを諦めて、詳しく状況を知ることも出来なかった。不安な気持ちになってくる。

「うーん」

 どうするべきかを悩んで、言葉にならない低い声で呻く。

 咲織は今日、アシスタントとして私に新しい仕事の話を持ってきてくれた。報酬が良い仕事をよく紹介してくれる咲織だったが、彼女が処理に悩んで協力を求めてくるような話を持ってこられる事も多かった。そして、今回の内容は処理を悩んで協力を求めてきた、という仕事だろう。

 だがしかし、仕事内容を詳しく聞こうとしても何故か詳細を話せないと言って、教えてはくれない。しかも、ほんの少しだけ聞けた話も胡散臭かった。だから今回の話は、断るべきだと思う。

 けれど、彼女が困って協力を求めてきたのなら友人として助けたいという気持ちもあった。受けるべきかどうか、判断に悩む。

 アシスタントをする漫画家について教えてくれたのが、たった二つの情報だけ。一つは新たにデビューする新人らしいという事と、性別が男性の漫画家だという事。

 男性で漫画家をしているという、そんな人物の話なんて聞いたことが無かった。男性漫画家だという本人が情報を隠しておきたい、という人らしくて詳しく話せないという咲織からの回答を聞いて、より一層強い疑念を抱いていた。

 編集者として、業務に関係する話も有るだろうし友人同士では全てを説明できないかも知れない、という事情があるのも多少は理解できる。

 だがしかし、アシスタントを頼みたいと言っておきながら漫画家に関しての情報を明かせないというのは納得がいかない。

 そもそも本当に男性の漫画家なんて存在しているのか、その話が疑わしかった。私は、今回の話が新手の詐欺ではないかと疑っている。

 男性に絡めれた詐欺の手口というのは、よくある話だった。そして被害が多いのも、男という餌に飛びつくような女性が多くて咲織も被害に遭っている最中なのではないかと怪しんでいる。

「萌には、本人と顔を合わせてアシスタントの面接に受けてもらいたい。そこで、詳細は説明できる……と思うから」

 再度、咲織から熱心にアシスタントの仕事を受けてくれないだろうか、と願いをされる。

「男性の漫画家。アシスタントの依頼、ねぇ……」
「お願い!」

 咲織は両手を目の前で合わせて、お願いのポーズをとって懇願してくる。ここまで必死に、熱心にお願いをしてくる彼女は珍しかった。

 咲織と私は、小学校の同級生になった頃からの友達だ。実は家も近所だと知って、子供の時から親しくしている幼馴染でもある彼女。非常に長い付き合いで仲も良い関係だと思っている。だからこそ、そんな彼女を見捨てることは絶対にできない。

「わかった。アシスタントの面接を受けてみるよ」
「ありがとう! 私も立ち会うから、待ってるよ」

 私が面接に行くと了承すると、パッと表情を明るくさせて喜ぶ咲織。

 もしも彼女を騙すような詐欺だったならば、友人として咲織を助けねばならない。咲織の手を強引に引っ張ってでも止めさせる必要がある。それが出来そうなのは、事情を相談された私だけだ。そう理解していた。

 それに、彼女の今までに見たこともない必死さや、事情を詳しく話せないという苦悶の表情を見て、私は信じて欲しいと願う彼女の気持ちをビンビンに感じていた。

 もしかしたら、万が一、ありえないかも知れないけれど男性の漫画家というのが本当の話である可能性があるのかもしれない、と思うようになった。いや、それは私の願望なのかもしれない。それこそ、漫画にあるような話だったから。

 嘘か本当か、それを見極めるためにも一度まずは自分の目で確認せねば。顔合わせでアシスタントの面接に行くと、私は咲織と約束を取り付ける。

 

 

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