キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

19-2.気乗りしないアシスタントの仕事

「今回は、二階堂さんにアシスタントをお願いしたいのです」

  いつもの様に咲織さんから新しい仕事に関する話を聞く。しかし今回の内容が、今まで無かったアシスタントということで少し二の足を踏むような気持ちになる。

 私の描いていた作品については雑誌での連載が終わって、次の連載枠が決まるまでの間を漫画家として食いつなぐためにも、咲織さんから紹介されてきた仕事を受けて、こなしてきた。

 今までは雑誌の間に挿入されるちょっとしたイラストを描いたり、指定された内容に関する短編漫画を描いたり、という漫画家としての仕事だった。しかし、アシスタントとなると私はメインでは無くなってしまう。それは、漫画家としてどうなのだろうかという疑問によって、今回の仕事を受ける事を躊躇ってしまう。

「詳しくは説明できないんだけれど、新人の男の子なの」
「はぁ、新人の……」

 しかも、アシスタントをする相手というのが新人の子だという。それなのに、詳しく説明を出来ないと申し訳なさそうに言う咲織さん。それは、何とも不可解なお願いだった。

 しかし、まぁ仕事を受けるのを嫌だと思っても断ったら生活するのが困難になっていく。貯金も減りつつあった。残念ながら、次の連載枠が決まるという予定もない。

 それに、日頃から咲織さんにはお世話になっていた。どうやら今回の話は彼女も困っているようだったから、少しでも恩返しをする気持ちで受けようという選択肢しか無い。

「わかりました、今回もよろしくおねがいします」
「ありがとう! 詳細は追って連絡します」

 私が受けます、という返事をすると嬉しそうな表情を浮かべた咲織さん。そして、本当に詳しい説明もされずに、彼女は帰っていった。本当に受けても良かったのだろうかと少し心配になるが、とりあえず連絡があるからということで待つことに。


 そんな話し合いがあった数日後、アシスタントの面接があるということを聞かされて、私は咲織さんから指定された場所へと向かった。

「あ」
「こんにちは、貴方がもう一人のアシスタント候補の子ね。よろしく」

 私が住む家からは少し遠い、電車を乗り継いでようやく到着した指定された場所。そこに向かってみると、見覚えのある背の小さな女性が着飾った姿で待っていた。

 そんな彼女に気付いた私が声を出すと、その女性が振り返って私を見上げながら挨拶をしてくれた。彼女はたしか、甲斐萌水さんというアシスタントをメインに活動している女性だ。

 私の描く作品にも、何度かアシスタントをして来てくれた事もある人だった。だから見覚えがあった。

「よ、よろしくおねがいします」
「じゃあ、早速行きましょう」

 彼女は年上で、アシスタントとしては先輩だろうから私のほうが下手に出る。ただ、背も小さくて男受けしそうな容姿が私と正反対で、少し苦手意識も有った。

 甲斐さんがスイスイと迷いなく先を歩いていく。背の小さな彼女の後ろに付いて歩いていくと私の背が高い事が目立ってしまうような気がして、なるべく目立たないようにと猫背になって甲斐さんの後ろをついて歩く。

 そんな無駄な努力をしながら到着した先は、立派なマンションだった。新人の漫画家だと聞いているが、本当にこの場所なのかと不安な気持ちが湧き出る。思わず、甲斐さんを頼るような視線を向けて聞いた。

「ここ、なんですか?」
「たぶん、そうだと思うけれど……?」

 私が困惑したような感じで質問してみるが、甲斐さんも今回の内容について話をそんなに聞かされてはいないようで、確証が無い様子だった。

 確証はないけれども、約束して聞かされている指定された場所には間違いない筈だからと甲斐さんは思い切って、指を伸ばしインターホンを鳴らすボタンを押し込んだようだった。

「こんにちは」

 今日の面接についての約束をして、待っている筈の咲織さんとは違う人の声で返事があった。私は急いで自己紹介をした。

「すみませーん、アシスタントの面接に来た二階堂です」
「同じく面接に来た、甲斐です。よろしくおねがいします」
 
 甲斐さんが率先してインターホンを押してくれたので、返事は私が先にと思って声を出す。その後にすぐ、甲斐さんが礼儀正しい挨拶をしていた。すると、インターホンの向こうから再び返事があった。

「はーい。今、扉を開けます。エレベーターで上ってきて下さい」
「……えっと」

 アレ? なんだかインターホンからの返事が、男の子の声だったように聞こえた気がした。そう思ったが、横に立っている甲斐さんは何も言わない。私の聞き間違えだったのだろうか。

「はい。すぐに向かいます」

 とにかく今は急いで返事をする。待っていると、エントランスのドアが開かれた。セキュリティのシッカリとしているマンションだった。

 そしてエレベーターに乗り込み、上階へと移動。アシスタントの面接なんて初めてなので、少し緊張してきた。横に立っている甲斐さんは余裕そうだったので、私だけ落ち着かない様子を見せるのも恥ずかしかったので、何とか平静を保ったように装う。しかし、私の緊張を察してか話しかけてくる事も無くエレベーターの中で私たちは黙ったまま。

 長めに感じたエレベーターが、ようやく目的の階に到着する。再び甲斐さんが先を歩いて目的地へと向かうので、私が後をついて歩く。目的の部屋の前に到着すると、すぐに玄関扉のノックも甲斐さんが行っていた。

 そして、扉の向こうから人が走り近寄ってくる音と気配。多分、出迎えてくれるのは咲織さんではなく、インターホンで応答していた人物だろう。つまりは、アシスタントをお願いしてきたという新人漫画家だろうという予想を立てる。

「どうぞ、中に入ってください」

 玄関の扉が開いて、部屋の中から咲織さんとは別人の、インターホンで耳にした声が聞こえてきた。さて、新人の漫画家というのが一体どんな人物なのか見定めてやろう、という風に私は意気込んで扉が開ききるのを見ていた。

「ごめんくださ……い……」
「お待たせしました……ああっ!?」

 開いた扉の向こう側には、予想していなかった男の子が立っていた。背が小さく、まだ若い。可愛らしい男の子だった。

 なぜ男の子が現れた? どうして、こんな場所に居るのか?

 

 

<< 前へ  次へ >>     目次

【スポンサーリンク】