キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

21.万歳

「負けました」

  二階堂さんは審査を行う前、僕の描く絵を目にした瞬間に自らの敗北を認めた。そして、負けを認めた彼女は床に手を付き、即座に潔く土下座の姿で謝ってきた。身体が大きい女性が、頭を下げて謝る姿はとても迫力があった。

「まさか、こんな凄い人だったなんて。男性だからと侮って、自分なんかが勝負を挑んで勝てると思ったのが間違いでした……しかも勝負にかこつけて男性をデートになんか誘うなんて……自分は最低です……最低の人間です……」
「いや、ちょっと、止めて下さい。二階堂さん」

 急いで僕は彼女の腕を引っ張って、土下座を止めさせる。というか、自分を低く卑下するような態度を取る必要なんて無かった。彼女の絵を描く技術は、卑屈になる必要がない。むしろ、中々のモノだったから。連載を持てていないというのが驚きだったぐらい。さすが、咲織さんが選んできてくれた人だと分かる。

 けれども僕の予定では、勝負を経てお互いの腕を認めあって友情を深めるというイメージだったのに、全くもって想定外だった。

「これは、やっぱりタケル君の方に軍配が上がるかな」
「咲織、凄いですね彼。まさか、ここまでエロいモノを男性の方が描けるとは思いませんでした」

 僕が二階堂さんの謝罪を必死で止めさせようとしている後ろで、会話していたのは咲織さんとアシスタント候補にやって来た甲斐さん。二人は、どっちがよりエロいキャラクターを描けるかどうかという勝負で、僕らの描いた原稿用紙一枚の絵を見比べて審査していた。

 そして実は、甲斐さんも僕の実力について疑っていた様子。思いがけず、彼女からの評価も得ることが出来ていた。

 そんなやり取りを背中で感じながら、僕は落ち込んでいる二階堂さんをどうにか落ち着かせなければならなかった。腕を引っ張り座り直させて、何とか彼女に土下座を止めさせることには成功した。その後、僕は彼女に冷静さを取り戻してもらうよう言葉を掛ける。

「それで、二階堂さん。負けを認めたという事なんで、アシスタントをお願いできますか?」
「はい、勿論! ぜひ勉強させて下さい先生……いや、師匠!」
「し、師匠!? それは、ちょっと……」

 勝負の結果、二階堂さんはアシスタントを引き受けてくれることに決まったのだが、僕と二階堂さんで師弟関係という妙な関係にも発展しそうになっている。

「あのー、それで私はどうすればいいでしょうか?」

 恥ずかしそうに、手を挙げて主張するのは甲斐さん。僕と二階堂さんがやり取りしている間に、置いてきぼりを食らってしまった感じになってしまった。

 もちろん甲斐さんを忘れているなんて事はなくて、彼女の方もアシスタントとして採用することを決めていた。

「甲斐さんもアシスタントとして、これからよろしくお願いします」
「わかりました、よろしくお願いしますね。面白そうな現場になりそうで、楽しみです」

 僕の決定を伝えると、嬉しそうに笑顔を浮かべて喜ぶ甲斐さん。彼女の堅い態度も、先程の出来事によって良い感じに変化し和らいでいる様子だった。

 家の中に、二階堂さんと甲斐さんの二人を迎え入れた初めの頃は、どうなることかと心配に思った。けれど、何とか状況を収めることが出来たし、アシスタントもお願いすることが出来た。結果的には、何も問題は無く成功と言っていい出会いだった。

 ただ、僕が男の漫画家という事を隠している事によって、相手を驚かせたり侮られたりするかもしれない、という事が今回の出来事でよく分かった。咲織さんとの出会いの時も、多少そうだったと感じた。しかし、今までは大きな問題には感じていなかった。それに、男性身分保護法という決まりによって男性がエロ漫画を描いていることが知られると色々と不都合がありそうだからと思って隠していた。

 けれど今回は、僕の性別について隠していた事によって起こった出来事だった。咲織さんも僕の方針に従って、どこまで話していいのか考えながら注意して極力は隠して伝えた結果、あまりしっかりと二人に事実を伝えることが出来ずに、今回の騒動に繋がる結果となってしまった。

 咲織さんの調べによれば、男性がエロ漫画を描いていても特に問題もないようだし、これから雑誌で連載を持って活動していく。だから今後は、男性のエロ漫画家という事をあまり隠したりはせず、どんどんと公表していくべきなのかもしれないと僕は感じていた。

 二人のアシスタントとしての採用を決めた後、僕の経歴である同人活動について二階堂さんと甲斐さんに説明すると驚かれた。というか、二人はテンセイという名で活動していた僕の本を買ってくれている読者だったようだ。

 特に二階堂さんの方は、感激のあまり僕にサインを求めたりしてきて、また彼女を落ち着かせるのに苦労する事態となった。

 しかし、これでようやく漫画家として活動していく為の準備は整った。編集者の咲織さんに、アシスタントとして新たに知り合えた二階堂さんと甲斐さん、そして僕の四人で頑張っていこうと思う。

 

 

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