キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

20.エロ漫画家のプライド

 アシスタントの面接に来てくれた、二階堂さんと甲斐さん。二人は、部屋の中に入った後とても大人しくしていた。僕が、男の漫画家だと知って驚いたからだろう。

 「申し訳ありません、北島先生。もっとシッカリ、彼女たちに理解してもらうよう話しておくべきでした」
「いえ、信じないのも無理ないと思います。咲織さんのせいでも無いと思います。だから、気に病む必要はありませんよ」

 咲織さんが、普段よりもずっと丁寧な言葉で申し訳なさそうにして正式に謝ってきた。しかし、彼女が説明不足だったからだとは思わない。心苦しく思う必要も無いと、返事をする。

 今までの同人活動では性別を隠してやってきていたし、今も僕という男性漫画家が存在している事を公表はしていない。知っているのは家族や咲織さん、それから今回からの連載に関わる出版社の少数の人達ぐらい、ごく一部だけ。

 世間的にも男性のエロ漫画家なんて存在しているなんて話を、僕以外には聞いたことが無い。だから、話を聞いただけでは信じられないというのも無理のない事だろうと思った。

「改めて初めまして北島タケルです。近々、雑誌で連載の予定があるので、お二人にはアシスタントをお願いしたくて今日は来てもらいました」

 場の雰囲気を仕切り直すように僕は、アシスタント候補である二人に向かって頭を下げて自己紹介の挨拶をした。

「は、初めまして、甲斐萌水と申します。咲織から話は聞いていると思うけれど、私は十年ほど色々な漫画家さんのもとでアシスタントの経験があって、技術には自信があります。どうぞ、よろしくお願いします」

 慌てつつも、きっちりとした自己紹介を返してくれた甲斐さんだった。そして、彼女が言う通り、咲織さんから聞いて知っていた内容をアピールしてくれる。能力にも自信を持っていて、すごく頼りになりそうな人だった。

「……」

 しかし、二階堂さんの方は黙ったまま僕をジーッと見つめてくる。どうしたのだろうと思って見つめ返していたら、しばらくして彼女が口を開いた。

「咲織さん、申し訳ないけれどアシスタントのお話は無かった事に」
「え!? どうして?」

 二階堂さんは、アシスタントの面接する前に辞退すると口にした。咲織さんは、そんな彼女の言葉に驚いて何故そんな事を言うのかと理由を問う。

 僕も断られるとは思っていなかったので、何が悪かったのか理由が分からず内心ではビックリしていた。

「断る理由を教えて下さい。もしかしたら、改善できるかもしれない問題だから。話し合いましょう」
「えっと、その……」

 僕も理由について問いかけてみると、彼女は口ごもって説明しづらそうだった。かなり重大な問題なのだろうか。

 二階堂さんは、アシスタントするのが男の漫画家だと分かったから断ったように思える。だから多分、僕の性別に関係が有る事なのだろうと考えていた。そして、その考えは当たっているようだった。

「まさか、男の人だとは思っていなかったから」
「それは私の説明不足で、ごめんなさい。でも男の漫画家だからと言って何か問題が有る?」

 僕ではなく、咲織さんに向かって二階堂さんは説明する。しかし、全てを話していないという様子、まだ何か理由がありそうだった。それに気付いていたのだろう咲織さんが、理由を追求する。

「それはだって、男なんかにエロを理解できるとは思えない。エロ漫画を描けるとは思えないよ」
「でも、彼の描く作品は素晴らしいわ。私が保証する」

 ようやく二階堂さんの本音が聞こえた。どうやら僕の実力に疑問を持っている、ということが分かった。咲織さんは僕の実力は確かだ、という説明もしてくれた。しかし、二階堂さんは続けて口を開く。

「話を持ってきてくれた咲織さんには申し訳ないけれど、仕事とはいえ男のもとでエロ漫画を描くためのアシスタントなんて納得出来ない。だから私は今回の仕事、断らせてもらう」

 二階堂さんなりに漫画家としてのプライドを持っているのだろう。だから彼女は、アシスタントの件を断ってきた。しかし解決できる問題だと分かる。

 プライドを持っている、という事は悪いことではない。ただ言われた通りにアシスタントの仕事をする訳ではなくて、漫画を描くことに責任感を持っていているからこそ、仕事も納得できないとキッパリと断ってきた。

 だから、断られたとしても不快ではなかった。むしろ、僕はより強く彼女に対してアシスタントとしての仕事を任せたいと思えた。

「二階堂さんは僕が男だからといって、実力を疑問に思っている。だから、アシスタントの仕事も断るという事ですか」
「はい」

 僕の言葉に、二階堂さんは表情を暗くして申し訳なさそうに、しかしハッキリと答える。ならば、彼女に対して漫画家としての実力を見せて納得させようと思った。

「それなら僕と二階堂さん、どっちがより魅力的な絵を描けるのか、今この場で絵を描いて勝負をしましょう」

 そして、ただ僕の絵を二階堂さんに見せて納得してもらうだけではなく、連載を持ったこともある実力のある彼女には、漫画家として絵で対決をしようと勝負を挑んだ。ここは作業場だから当然、漫画を描くための道具が揃っている。なので、今すぐに描いて比べる事が出来る。

 審査員は、咲織さんと甲斐さんの二人にお願いする。

「もし、僕が勝ったらアシスタントのお話を引き受けてもらいます」

 そもそも、アシスタントの面接とは言っても二人の実力に関しては既に信用していた。咲織さんが選んで持ってくれた時点で、それから過去の経験も聞いてアシスタントをお願いしても大丈夫だろうと判断していた。

 だから今回の面接は顔を合わせて性格的に問題がないか、一緒に漫画を描いていけるかどうかを判断するためのもの。僕は二階堂さんにアシスタントを任せたいと思ったから、勝負を挑んで僕が勝った時の条件にアシスタントをしてくれるようにお願いする事を決めた。

「わかった。じゃあ、私が勝ったら一度私と、で、デートして下さい!」
「うん。いいよ、勝負だ」

 僕の提案を受ける二階堂さん。そして、彼女からも条件を出される。なるほど、勝負をするにあたって僕だけが勝った場合の要求を出すのも不公平か。

 突然飛び出てきた彼女からの条件には、ちょっとビックリした。けれども、一回デートするぐらいなら別に問題は無いからと思って、僕はすぐに彼女の要求を受けて立った。それに負けなければ、良いのだから。

 

 

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