キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

19-1.二階堂の事情

 今にして振り返って考えてみれば、この頃の私というのは少しばかり天狗になっていたんだろうなと思う。

 
 私は、他の女性に比べて身長が高い。それなのに運動神経は今ひとつで、長所を活かせず男性からはデカイ女と怖がられるだけ。だから室内に籠もっては、男性に縁の無い私は妄想ばかりしていた。それから絵を描くようになり、漫画家を目指すようになっていった。

 念願だった漫画家デビューを果たした私は、週間漫画雑誌での連載を1年間休むこと無く続けることが出来ていた。人気作品にも負けずコミックス化もされて、出版した単行本も順調に売り出されていた。そして、物語も完結する予定通りに事は進んでいた。

 問題が起こったのは、次の連載に関しての話し合いの時だった。完結する予定も決まっていたので、今の作品が無事に連載の終わる前に既に次の連載をどうするのか、という話し合いをしておいて準備する必要があった。

 次の連載に備えて、私の中に温めてある構想はあった。なのに、担当の編集者である人と折り合いが悪くて次期連載に関する話し合いは終始険悪なムードで行われて、その結果は私の知らぬ間に私の次の連載予定を無しにされていた。

 連載が続いている間、担当の編集者からは毎週のようにダメ出しをされて具体的な改善案の一つも提案してくれない。そこでまず、編集者への不満と不信感が募ってきていた。

 そして、次の連載に向けてに関しても消極的だった編集者の女性。いくら私がアイデアの提案を繰り返してみても、ことごとく反応が薄い。

 もしかしたら、彼女は私という新人漫画家を潰そうとしているんじゃないか、と疑いの気持ちが日に日に大きくなっていた。だって、否定を続けるだけで何の意義もないような話し合いが続いていたのだから。

「そんなにワガママを言うんでしたら、ウチではなく他所で好きなように自由に描いて下さい。ウチには必要ないですから」
「わかりました」

 ついには、そんな言葉まで吐き捨てられた。私は何も言い返すこともなく返事をする。

 一体、何がワガママなのかを理解はできなかった。私はアイデアを沢山出してきたのに、それを否定されて再び新しいアイデアを出してきて。それの繰り返し。しかし編集者に対して、そんな反論をしたところで状況は変わらないことは明白だった。

 それで、次に編集者と顔を合わせた時には次回作の連載予定は無くなっていた。

 担当の編集者との話し合いに望む気持ちは既に無くなっていて、むしろ厄介払いと思っている彼女から離れられるのなら望むところだ、という気持ちで担当編集者の言葉を受け止めた。もう、この出版社では絶対に描いてやらないと強い気持ちを秘めて。

 連載していた作品が、無事に完結した。そして今後は、私の作品が載ることは二度と無い雑誌となるだろうと思っていた。言われた通り他所の出版社に行って、新しい連載を持とうと私は考えていたのだった。

 

 そんな時に出会ったのが、仲里咲織さんだった。彼女は私の描いた漫画が連載されていた雑誌の出版社に勤務している編集者だ。つまりは、私の担当編集者が居た所と同じ。

「一年間の連載、お疲れ様でした二階堂さん。ところで、次の連載の予定はどうなってるのでしょうか。ウチの雑誌には次回作の掲載予定が見当たらなかったのですが、別の出版社で描く予定なのでしょうか?」
「アンタがソレを聞く? 嫌味?」

 咲織さんとの出会いは、最後の打ち合わせだと思ってやって来ていた本社にて。向こうは私の事を知っているようだったが、私は数多くいる編集者の中の一人だというぐらいの認識だった。担当編集者だった女性の仲間だろうという先入観から、刺々しい態度で返事をしていた。

「えっと……?」

 後に知ったが、咲織さんは私の事情を全く知らなかった。編集者内で情報が共有されていなくて、私を担当していた編集者は特に情報を隠すような人だったらしい。

 嫌味ではなく、本当に次の連載の予定についてどうしても知っておきたかったから直接質問してきただけ。咲織さんは私の描く作品を気に入ってくれていたから、情報収集をしようとしていただけだった。

 そんな彼女に対して、私は宣言する。

「アンタの出版社では、今後ぜったいに描きません」
「ちょ、ちょっと待って下さい。どういう事ですか?」

 さっさと立ち去ろうとした私を、強く引き止めて事情を聞きたそうにする咲織さんだった。そして私は、担当編集者だった女性の悪業について若干誇張しつつも、今までにあった出来事について説明した。

 連載中は、ずっと作品を否定されていたこと。次の連載について、担当編集者は新作アイデアに異議を唱えるだけ、邪魔するだけ。最後は、私を連載していた雑誌から追い払うようの言葉を面と向かって吐かれてしまったので、その通りにするだけだ、と話し終えた。

 最後まで黙々と話を聞いてくれて、私の話を否定せずに一緒に怒ってくれた咲織さん。だから少し信用できる人だと、短い間で考えが改まった。

「大至急、状況を確認します。二階堂さんには雑誌での連載を持ってもらっておきながら、不快な思いをさせてしまい誠に申し訳ございませんでした」
「え? う、うん。まぁ、えっと……」

 咲織さんは、全力で頭を下げて謝罪してくれた。その姿勢に押されて、少し出版社に対しての態度が柔らかくなったと思う。悪いのは、あの担当だった編集者だけなのかもしれないと。

 それから、二度と作品を描かないという言葉は咲織さんの謝罪に免じて撤回した。しかし、残念ながら次期の雑誌連載枠は埋まっている状況だったらしくて、新作を描くことは出来ないと咲織さんからは再び謝罪されてしまった。

 だから、今後は描かないという言葉は撤回したが、今は他の出版社に移って雑誌の連載を持てないだろうかと持ち込みをしてみた。

 デビューして、描いた作品もそこそこの人気も得られていた。だから、他の出版社に移ったとしても、すぐに雑誌で連載を持たせてもらえるだろうと甘い考えだった。なかなか、私の作品は受け入れてもらえなかった。

 そうこうしているうちに、貯金は少しずつ減ってアルバイトが必要な状況に差し迫っていく。そんな時に、助けてくれたのが咲織さんだった。私が困っている状況を知って、イラストを描いたり、短編の漫画を描いてお金を得られる仕事をわざわざ紹介してくれたのだ。

 本音を言えば、雑誌での連載をさせてくれるような仕事を持ってきてくれたのなら万々歳なのだが贅沢は言えない。漫画を描くぐらいしか能がない私には、絵を描いてお金を得られるので十分。

 咲織さんから仕事を紹介された仕事をこなして生活費を稼ぎ、雑誌で漫画の連載を持てないでいる期間が一年ぐらい続いた頃。新たな仕事について、咲織さんから紹介された。それは漫画家のアシスタントをするという内容だった。

 

 

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