キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

02.前世のお話

 死んだと思ったら、生きていて何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。そんな転生という経験をした僕は、新しく生まれ変わった人生では普通の人間として生きていこうと考えていた。

  少なくとも新しい人生では漫画家という仕事をするのは止めて、普通のサラリーマンとしての人生を歩んで生きていこうと考えて、赤ん坊の頃には既に人生設計を立てていた。すぐにその計画は破綻するのだけれど。

 僕がそんな風に普通に生きていきたいと考える理由に、前世で漫画家として仕事をして生活していた経験が有るから。しかも、僕が前世で死んだ原因はおそらく過労。漫画を描いている途中で記憶が途切れていたから、おそらくそうだろうと思う。

 

 前世の、僕に関するお話だ。

 自我が目覚めるよりもずっと前の幼い頃から、絵を描くのが趣味だったらしい僕。小さい頃から他の子と比べて絵を描き続けて経験を積んでいった結果、他の人よりも多少は絵を描く才能が有ると自負していた。

 そんな自信と誇りを持ちながら僕は高校生の頃には漫画を描くようになっていて、漫画家になるための登竜門と言われている、新人漫画賞を受賞することを目指して作品の応募までしていた。

 家族の誰にも語らなかった将来の夢として漫画家になりたい、という望みを持って挑戦してみた新人漫画賞。

 少年漫画というジャンルで選ばれる賞を目指し、そのコンテスト一本だけに的を絞って僕は漫画を描きチャレンジした。

 一度目の応募では何の音沙汰もなく落選。かなりショックを受けたが、数日後にはまた挑戦してみようと立ち上がり、次のコンテストへの準備に入って漫画を描き始めた。

 二度目のコンテストでは選考になんとか残ったらしいけれども、結果的には入賞することは出来ず。けれど僕の描いた作品は審査員の目に留めてもらったらしくて、次に期待しているというような連絡を頂いた。一度目よりも進歩していると実感して、モチベーションが大いに高まる。

 そして高校生も卒業が近くなって大学入試で忙しくなる頃、将来の進路を決めないといけない、夢を突き進むか諦めるかの瀬戸際に立っていた僕は、この挑戦を最後にしようと決意して望んだ三度目の新人漫画賞。

 審査の結果、僕はようやく念願だった入選することが出来た。そして、編集者の人からも雑誌で連載しないか、というお声がけを頂いた。

 その後、大学に入学、そして卒業してすぐに漫画家としてデビューできることになった。大学生活を送っていた頃に描いた作品がデビュー作となり、それからずっと専業で漫画を描き続ける人生となる。

 僕は有名な週間少年漫画の雑誌で連載を持てることになって、毎週のように締切が設定されては漫画を仕上げる為にアシスタントを何人か抱えて、一歩一歩順調に大きな仕事をこなせるように、漫画家として成長できていたと思う。

 原稿料と出版物の印税を頂いて、アシスタント代をしっかりと支払い、ソコから残ったお金でなんとか生活をしていけるような、ちゃんとした専業漫画家として生きる手段をしっかりと保っていた。

 僕の描いた作品の中には、過去アニメ化されるほどの爆発的な人気を得ることになった作品も一つある。なので、世間でもそこそこ名の知られている漫画家だった筈だ。

 けれども僕が漫画家として活躍できた時代は、その頃がピークだったのだろう。その後から注目も薄れていって、僕の描いた漫画も売れなくなっていった。

 アニメ化までされてヒットした漫画は一作品のみであり、他の作品はあまり良い評価を得られず。いわゆる一発屋と言われるような漫画家として、一部の人達に僕の名は有名になってしまう程だった。

 それでも過去の栄光のお陰で漫画を描く仕事の依頼は途切れること無くて、常に漫画の連載を持たせてもらっていた状況なので、専業漫画家生活を続けることが出来ていた。

 ギリギリのところでなんとか漫画家として食っていけていた僕は、仕事の依頼を断ることは出来ず、毎日15時間ぐらいは漫画を描いて仕事をしている日々が僕にとっての日常になっていた。

 仕事の締切が迫ってきてスケジュールも厳しくなってきたら、元から長かったと言えるような労働時間は更に伸びていった。文字通り寝る間も惜しんで机に向かい、不眠不休で漫画を描き続けなければいけない時もあった。

 僕の自慢の一つとして、今まで締め切りに遅れたことはなくて原稿を落とした事がなかった、という事がある。後になって考えてみれば、かなり無理をして積み重ねてきたような実績だったが、コレが大きな間違い。悪い結果を招く大きな原因だったと理解できる。

 長年そんな効率も悪く無理を利かせて、なんとか漫画家生活を続けてきた結果。老いてきた自分の身体をしっかりと自覚出来ていなかった、というのも悪かった。

 ある日突然、いつものように漫画を描いている途中で視線がボヤケて原稿が見えなくなった、と思ったら視界が急に暗く狭まっていった。

 身体からも力が抜けて僕は机に倒れ込み顔をぶつけるという未来を予想しながら、体は動かないし机の上に倒れ込むしか出来ない。回避できず、声を上げる隙もないまま意識がフッと途切れていた。

 そして、目覚めた時には赤ん坊になっていた、という訳だ。

 

 それが僕の前世の話。漫画を描いていたお陰で生きてこられたが、漫画を描いていたせいで死んでしまった、とも言える。

 最期にはスケジュールを守ろうと必死になって、漫画を描きながら死んでしまうなんて、僕は元の世界でなんと言われているのだろうか。生まれ変わって、違う世界にやって来てしまった僕には、もう知る由もないが。

 ともかく、だからこそ僕は新しい人生では漫画家として働くのは止めておこうと考えていた。そう心に決めたはずなのに、僕は再び漫画を描いていた。

 

 

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