キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

19.アシスタント候補

 雑誌に連載を持つためには必要なんだと、咲織さんが準備してくれていたというアシスタント候補の中から選んだ人が今日、面接に来てくれる。

  僕は咲織さんと一緒に、約束した人物が作業場へやって来るのを待っていた。

 ちなみにこの作業場というのは、僕が漫画家として活動するにあたって借りる事にした部屋だ。何人かのアシスタントに入ってもらって作業机を並べて置いても、十分なスペースのある広いマンションの一室。ここは作業場として使うので、まだ実家での暮らしを続けるつもりだが、ベッドルームも有るし一泊する事も出来る。

 この辺りでは一番にセキュリティ設備が良いと言われている物件らしくて、高校卒業した後すぐの若者が借りたにしては、結構な家賃代のする豪華な場所だった。

 同人活動で稼いだ自分のお金があったので、僕は問題なく自分で家賃を払えていた。家からも歩いて徒歩十分もしない近所なので、通うのも楽。

 ただ、もう少し小さめの部屋でも良かったのではないかと思っていた僕だったが、デビューすればすぐにお金を稼げるようになるという咲織さんの将来の見通しがあったのと、男の子なのだからセキュリティには十分すぎるぐらいに注意しておいたほうが良いという母親からのアドバイスによって、この部屋に決まった。

 アドバイスしたからと言って、家賃の支払いを申し出た咲織さんや母親の説得が実は大変だった。気を抜けば、僕の世話を焼こうとしてくる二人。あまり甘えすぎるのも良くない。とは言っても、世話になりっぱなしなので今更な話ではあるが。とにかく、この作業場について家賃の支払いは全額、僕が行っていた。

 そして約束していた時間の直前になって、ピンポーンというインターホンの音が部屋の中に鳴り響く。来客の知らせだった。

 マンションのエントランスに設置された、来訪者を確認するカメラから送られてきた映像。インターホンのモニターには、二人の女性が映っていた。

 彼女たちが、今日の面接に来てもらうように約束をしていたアシスタント候補の女性たちだった。事前に僕は咲織さんから、彼女たちの情報を教えてもらっていた。

 一人は、二階堂早百合(にかいどうさゆり)さんという名前の、連載を持っていた経験もある漫画家。しかし今は、雑誌での連載を持てていないという女性だった。僕と同じように高校卒業した後すぐにデビューした人らしい。年も若そうで背が高く、ショートヘアの活発そうな女性だった。

 そして、もう一人は甲斐萌水(かいもえみ)さんという女性。アシスタントを専門にして、色々な漫画家のもとで多くのアシスタント経験を積んでいる、という人だった。二階堂さんとは反対に、女性にしては背が低めで髪も長いロングヘア。少し年上そうな見た目で、短い時間見ただけで分かる仕草の美しい人。

 なんだか容姿が対照的で、デコボココンビという言葉を思わせる二人の女性が、カメラを覗き込んでいる様子がモニターに映っていた。

「こんにちは」
「すみませーん、アシスタントの面接に来た二階堂です」
「同じく面接に来た、甲斐です。よろしくおねがいします」

 インターホン越しに僕が挨拶する声を掛けると、すぐさま彼女たちからの返答が戻ってきた。二階堂さんの爽やかな声と、甲斐さんの女性らしい高く澄んだ声。

「はーい。今、扉を開けます。エレベーターで上ってきて下さい」
「……えっと、はい。すぐに向かいます」

 エントランスのオートロックを解錠してから、僕は彼女たち指示を出す。すると何やら二階堂さんからの返事に妙な間があったのが気になった。しかし、特に突っ込むことも無くそのまま作業場のある階まで上がってきてもらった。そして、一分もしないうちに部屋の玄関扉がノックされた音が聞こえてきた。

「どうぞ、中に入ってください」

「ごめんくださ……い……」
「お待たせしました……ああっ!?」

 僕が走って行って、玄関の扉を開けて二人を部屋の中に招き入れようとした時、扉の前の廊下で待ち構えていた彼女たちの顔には予想していなかったという風な、驚愕ととまどいがいっぱいに宿っているという表情を浮かべていた。

 甲斐さんは僕の顔を目にするなり段々と声が小さくなり、二階堂さんは扉を開いた後、言葉の途中で驚きのあまりなのか口を大きく開いた顔で固まってしまった。

 二人の視線が、僕の顔に向かっている。どうやら僕が、男だと見てびっくりしている様子だった。けれども、さっきインターホン越しに一度会話をしたのに、声では気付いていなかったのか。

 というか、アレ? そもそも咲織さんは事前に僕の性別について説明してくれていなかったのか。普段は性別を隠して活動しているから、アシスタントの面接に来てくれた彼女たちにも言っていなかったのかも。

 色々と疑問に思って考えていると、一緒に部屋の中で待っていた今は僕の後ろに立っている咲織さんが答えてくれた。

「おはよう二人とも。けれど先生の顔を見て驚くなんて、事前に説明はしておいた筈でしょう? 今回アシスタントをお願いする漫画家は男の人だって」
「いや、でも、そんな咲織さん。本当だなんて思わなくて。男の漫画家が居るなんて……」
「私も咲織の言っている事って、何かの冗談だと思っていました」

 信じられないという風な目を向けてくる二階堂さん。咲織さんと向かい合いつつチラチラと視線を向けるのを隠すようにしながらコチラの様子を伺う甲斐さん。

 前もって話はしてあったけれども、二人は咲織さんの話を信じていなかったから本当だと分かって驚いていたのか。そして、居るはずないと思い込んでいたから声を聞かれても、男だとは気付かれなかったのかもしれない。

「とりあえず、中に入って下さい」

 玄関の扉を開けたままの僕と、廊下に立っている二人。ソコに居ては邪魔になるかもしれないと思い、色々と話し合う前に先に彼女たちを部屋の中に迎え入れる。

「あ、え、っとお邪魔します」
「失礼します……」

 部屋の中に入るよう声を掛けると、ビクッと身体を反応させて身を縮こまらせてしまった二階堂さん。その後に、かすかに聞こえる小声で返答する甲斐さんが続いた。なんだか、申し訳ない気持ちになってくる。

 男の漫画家であるという事が判明した瞬間に先程の様子とは一転して、よそよそしい態度に変わってしまった二人。これから、アシスタントをお願いする事になるかもしれないが大丈夫だろうか、彼女たちと仲良くやっていけるのかと、僕は心配になった。

 

 

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