キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

15.実際問題の話

 約束をしていた喫茶店へとやって来た時、メールを送ってきた人物は彼女だろうと一目見て分かった。

  店内で彼女は清潔感のある綺麗なスーツを身にまとい、座る姿勢がとても良くて見ていてカッコいいと思えるような女性だったから。

 大手出版社の編集者をしていると聞いていたので、事前に僕はイメージしていた女性というのが、彼女のような見た目から仕事が出来ると思えるような人物だった。なので、その女性が約束している人なのだろうとすぐさま確信して、僕は彼女に声を掛ける。

 落ち着き払った様子だった彼女が、まさかいきなり、僕が自己紹介をしただけで大声で叫ばれるような事態になるとは思っていなかった。

 騒ぎになって飛んできた店員に僕から問題は一切無かったと説明する。そして、今はこの場から離れてもらいたかったので飲み物の注文をお願いする。

 その後、席についてから改めてお互いに自己紹介を行った。仲里咲織と名乗った彼女は、話し合いをしている間に徐々に落ち着きを取り戻していく。そして、次第にしっかりとした見た目通りの人になっていった。

 先程までの慌てふためいた様子と、今の落ち着いて話し合いをしている彼女の姿は、同一人物とは思えないぐらいギャップのある人だった。

 そんな彼女と自己紹介を交わした後、実力を示して同人誌の作者だと信じてもらった。

 そして今はエロ漫画の話を繰り広げている。次に描こうと予定している同人誌のアイデアについて、彼女に内容を聞いてもらっていた。

 仕事に関するような話だからなのだろう、咲織さんはエロの話は一切恥ずかしがらず、色々とアドバイスをしてくれた。

 美人である彼女に対して、性的な妄想を話している僕のほうが恥ずかしく感じてしまうぐらいだった。でも、相手は真面目で一生懸命に話を聞いてくれているので、僕も恥ずかしさは覆い隠してアドバイスを受けていく。

 そんな話し合いも終わった後、話題は咲織さんの要望に関して。今回、僕に会いたいと言ってきた彼女の目的について詳細が明かされた。

「今回テンセイさん、というかタケルさんにお声をかけたのは雑誌で連載を持ってもらおうと思っていたから……なんですが」
「それは、どのくらい計画が進んでいる話なんですか?」

 咲織さんは話している途中で言葉に詰まって、口を閉じてしまった。やはり、僕という存在は想定外だったのだろう。そんな彼女に質問をしてみる。もしかして、かなり話が進んでしまっている状況なのか。

「いえ、まだ連載枠も決まっていない状態です。というか上司には、これから話を通すつもりだったんですが、未成年の男性漫画家だとは想定しておらず」
「やっぱり、エロ漫画を描くのに未成年ってマズイですか?」

「そうですね……。女性だったら全く問題にはならないです。男性でもエロ漫画を描いちゃダメという決まりは今のところ無かったと思います。ただ、男性身分保護法によって規制される可能性があるかもしれないですね」
「そうなんですか?」

 同人誌の委託依頼を出そうと考えた時に調べた通り、この世界では、未成年でもエロ漫画を描く事に関しては特に問題はないらしい。ただ、僕の性別が男であるということで別の法律によって規制されてしまう可能性があると、咲織さんは言う。

「男性身分保護法という決まりの中には、未成年の男性に対してわいせつな行為を強要すると罪に問われる可能性があるので、それが適用される恐れがありますね。仕事とは言え、エロ漫画を男性に描かせるというのが、どういう判断されるのか。なにしろ、今まで前例がない事ですから一度調べてみないと怖いです」
「なるほど」

 エロに寛容ではあるものの男性という身分に関しては、強く守られているらしい。今まで未成年で男性のエロ漫画家というのが前例のない事だから、容易に判断を下すべきじゃない。色々と調べてから、動く必要があると彼女は僕に説明してくれた。

「とにかく今は、エロ漫画家としてデビューするのは辞めておいた方が良いです。話を持ってきた私が言うのもなんですが」

 そう結論付ける咲織さんだった。

「同人誌に関しても、エロは辞めたほうがいいですか?」
「いえ、同人誌は自由に描いても大丈夫だと思います。個人でやっている活動なら強制ではなく、自主的な活動だということが明らかですから。でも、わざわざ性別を明かすこともないです。今まで通りに、性別は隠したまま活動するのがベターな方法だと思います」

 そんな話し合いが続いて、その後にも漫画新人賞に関してもアドバイスを貰うことが出来て、出会ったばかりの僕に対しても親切に意見を交わし合ってくれる咲織さんだった。

 

 気が付けば約束していた時間もかなりオーバーして、そろそろ僕は家に帰らないと母親や姉たちを心配させてしまうような時間になっていた。

「今日は有難うございました」

 数々の有意義なアドバイスをしてくれた咲織さんに対して、頭を下げて心の底からのお礼を伝える。

 わざわざ、会いに来てくれたのに彼女の要望に応えることが出来なくて、それなのに親切に接してくれて、飲み物代まで奢ってもらった。

「これから先、一緒に仕事をしていく事ができるようになれば私は満足ですから。今日、貴方と知り合えた事が私にとって大収穫です」

 そう言う彼女と連絡先を交換して、将来一緒に仕事をすることを約束してから僕たちは別れた。

 編集者という人と長時間の話し合いをして、前世の漫画家生活を思い出していた僕は少し昔が懐かしくなった。

 

 

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