キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

11.決意の告白

 誰宛に送られてきたのか分からないエロ漫画の買い手探しが始まって、北島一家の女性側三人は誰も買ったと名乗りを挙げる者は居なかった。

  もしかしたら、送り先の間違いで家に届いたのかもしれない。しかし、宛名には北島としっかり記されていて間違いは無かった。名字がハッキリと自分たちのモノが記してあって、名前だけ書かれていない。この事から、隠れて買おうとした意図が見えるように思えた。

 その事実から導き出される結論は一つだった。自分たちは嘘をついてまで、息子や弟になすりつけるような事はしない。

 タケルの母親であり、北島一家の大黒柱を支えている北島|良子《よしこ》は、男の子の育て方がとても大変だと心得ているつもりだった。男の子は年頃になれば、女性という存在を避けたり嫌うようになったり、母親や姉妹なんかを無視するようになる家庭も多いと聞いている。

 そして最悪の場合は、家族の目の届かない所で非行に走ることもある。そうならならないためにも、男の子には常に注意を向けておかないといけない。

 そして、今回発覚したエロ漫画の購入は放置してはいけない出来事。しっかりと教えてあげないと。少し前にもタケルは家族とはいえパジャマ姿を晒すこともあった。男の子でありながら、性に対して注意が足りないように思っていた。

 もしかしたら、性に奔放な部分があるのかもしれない。それは自覚させておかないと、後々に大変なことになるかも知れないから。

 タケルを呼び出して、問いただす。これは貴方のモノ? と本人に質問して明らかにするのは、良子にとって大きな賭けだった。母親として嫌われてしまうかもしれないが、ここでばしっと言っておかないと間違った道に進みかねない。

 彼の考えを把握して、母親として指導しなければ。そんな親としての考えが良子にはあった。

 リビングに入ってきて、テーブルの上に置いておいたエロ漫画を目にしたタケルの表情を見て、やはりかと確信した良子。彼の表情は、男の子としてエロいモノを毛嫌いするような感じではなくて、バレたというバツが悪いような表情を浮かべていたから。

 そして、買ったかどうか問いただすと本人の口から確認が取れてしまった。自分のモノだという事。

 良子は言葉を選びながら息子のタケルが傷つかないように細心の注意を払いつつ、エロい事に興味があるのは良いと理解を示した。けれども黙って勝手に行動したら危ないことや、十分に気をつけるように警告した。

 しかし、タケルからはまさかの回答が返ってくる。

「それ、僕が描いた本なんだけれど……」

 その言葉を聞いた瞬間、良子の頭は混乱した。言葉の意味がよく理解できなかった。

「ちょっと待ってて」

 そう言って、リビングから出ていったタケルの背中を呆然と見送るしか出来ない良子。

「描いたって、どういう事?」
「わかんない」

 涼子と佑子の娘二人も、母親である良子と同じように混乱して二人でどういう事なのか、理解しようと努めているが分かっていない。

 というか、タケルはなぜ部屋を出ていたのかも分からないまま、未だにフリーズを続ける良子だった。

 そして、リビングに戻ってきたタケルの手には何かの紙の束。それを女性達三人の目の前に掲げた。

「これが、僕の描いた漫画だよ」

 そう言って、テーブルの上に広げて置かれた紙の束。絵が書かれているソレを見ても、良子はまだ混乱していて何が何やら訳がわからない状態だった。

 しかし、涼子と佑子は次第にタケルの言っている事を理解し始める。なるほど、そういう事かと柔軟に事態を飲み込み始めた。

「すごい、タケル君が描いたの?」
「こんな絵をタケルが描けるなんて、知らなかったよ。凄いじゃん!」

 涼子と佑子がテーブルの上に置かれた紙から、一枚取って眺めたりして大絶賛する。

「え? え?」
「ほら、母さん。タケル君が描いた絵なんだって」
「こっちも、うわっ、こんなのも!」

 混乱が続く良子に向かって、弟の描いたという絵の数々を確かめていって、気になる一つ一つを手にとっては母親である良子に見せていく姉妹。

「えへへ、ありがとう」

 二人の姉妹から嘘のない賞賛を感じて、嬉しくなったタケルは笑顔を浮かべていた。そして、母親に姿勢を正して向き直る。

「ちょ、ちょ、ちょっと、待って!? え?」
「母さん。僕、ずっと前から皆に黙って漫画を描いてたんだよ」

 母親の混乱もそっちのけでタケルは、姉妹から褒められた嬉しさをエネルギーにしてバレた勢いも合わさって、隠して漫画を描いているという活動についてを改めて打ち明けた。

「迷っていたけど、この際だから決めたよ。僕、漫画家を目指そうと思う」
「私も応援するよ、タケル君」
「頑張れ! こんなに凄いんだもの、絶対なれるよ」
「ありがとう、涼子姉さん、佑子姉さん!」

 勇気を振り絞ってタケルは将来の夢を言葉にして語っていた。明るい様子で涼子と佑子の二人がエールを送っている。そんな三人の雰囲気から取り残されてしまった、良子。彼女に向かって、タケルの視線が向けられる。

「えっと……、その、がんばって?」
「うん。お母さんも、ありがとう。僕、がんばるよ!」

 漫画を描いていることを初めて知った。その流れのまま、漫画家になる事を応援することになった良子。

 事情は明らかになって把握することは出来たけれども、まさかエロ漫画家を目指していたなんて。そんな男の子についての前例を良子は聞いたこともない。親としてこれからどうしたらいいのか、彼女にとって大きな悩みのタネとなった。

 改めて北島良子は、息子を持った母親として子育てについての大変さを実感することになった。

 

 

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