キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第06話 薬の行方

 家へ訪れたのは2人の男。真面目な顔をしてキッチリとした黒のスーツを着て装飾品は何も身に着けていない30代後半ぐらいの年に見える律儀そうな男性と、グレーのスーツを着て左腕に高そうな腕時計を身につけていて、正直言って胡散臭い雰囲気で笑顔を浮かべる40代後半ぐらいに見える中年男性。

 彼らは今話題になっている薬についてと、マスコミの動きについて話をしたいと父さんが連絡を受けたので、面談の約束をして今日は家に来てもらったという。

「今日はわざわざ時間を頂き、ありがとうございます」
 応接室へ案内すると黒のスーツの男が頭を少し下げて挨拶をした。そして、2人の男と父さんとの名刺交換が始まる。そして、今回の面会に関係があるということで私も訪問してきた2人から名刺を渡され、彼らの名前を知ることが出来た。

 黒のスーツの男性は政府の審議官をしていて名前は長岡拓真さん。グレーのスーツを着た男性は聞いたことのある有名な製薬会社の社長をしているらしい西海健介さん。
 そして部屋には私と父さんが居て計4人の男が2人組づつに別れて向かい合って座っている。僕の前には長岡さんが座って居た。
「それで早速、今回の面会の内容についてなんですが。お父様にはお電話で少しお話致しましたが明くんにも説明すると」
 長岡さんが話しだして、状況を知ることになる。彼によると、今日ここへ来た理由は話題になっている薬について交渉しに来たとのこと。
 何故そんな経緯になったかというと、取材拒否していたマスコミの1社が政府に情報をリークしたらしく、私の作った薬について知ることとなり問題になったらしい。というのも、薬事法という決まりによって薬を作って個人利用をする分には問題はないが、他人に譲渡すると薬事法違反となって取締の対象となる可能性があるとのこと。

「と言っても、今回の場合は未成年の子どもが作ったものを近所という狭い範囲に配っただけで金銭のやり取りも発生していないとなると、普通は厳重注意処分で済ませられる事です」
 一旦言葉を止めた長岡さんだが、深刻そうな顔で言葉を続ける。
「ですが、問題になっているのはテレビや新聞などのマスコミが取り上げる程に効果が現れているという点です」
「実は僕も話題になっている薬を少し分けてもらって効果を調べたんだけどビックリしたよ! なんと1日で効果が現れて、見ただけで違いが分かるなんて驚いたよ。そんな美容薬品は世界中でも初めてだろうね」
 長岡さんの言葉をついで、私の作った魔法薬の事について語り心底驚いたよと笑顔で語る西海さん。更に長岡さんが続ける。

「それで今政府では薬の取り扱いをどうするべきか議論されています。一部の過激派は明くんから薬についての情報を全部奪い取ろうと躍起になっていと聞いています。そして、彼らの考えでは明くんを世間に引っ張り出してきて薬の製作者として大々的に公表するだろうと思われます。そして多分マスコミがリークしてきた目的は、明くんを世間に晒して話題作りをしようとしているのでしょう。聞いた話だと取材拒否を繰り返しているらしいから、その仕返しの意味も含まれているかもしれないでしょう」
 長岡さんは会話を一旦止め、私を見る。
「だけど、君のような子どもから一方的に知識を奪い取ろうとするのは間違っている。ソレに私は子どもが世間に晒されるのも問題だと思う。まだ成長しきっていない子どもが何も知らないままに世間に注目されてチヤホヤされると、今後の人生に大きな影響を与える。もしかしたら、ソレはいい結果となるかもしれないが、私には悪い結果しか考えられない」

 なるほど経緯はわかった。私の中身には転生により大人の精神が入っているが、彼らから見たらまだ子どもである。そんな子どもが注目を一身に集めると人生に大きな影響を与えるのは明らかだろうと私も思う。
 前世の記憶でも天才賢者が現れたと言われて、まだ子どもの時分に期待を集めてチヤホヤされていたが、その後彼は特に活躍もせずに消えていったのを覚えている。

「お話はわかりましたが、今日の長岡さんと西海さんの交渉の目的は何でしょうか?」
 子どもの私に代わって父さんが話を進めてくれる。相手の要求を明確にして交渉をスムーズに進める。そのために長岡さんと西海さんの目的を聞き出したのだろう。

「えぇ、私達の目的は今回話題になっている薬の製法を譲渡していただきたいのです」
「薬の製法を教え頂き、ウチの会社で生産と販売を請け負いたいんですよ」
 2人の目的はわかった。

「それで明がそちらの提案を受けるメリットは何でしょうか?」
「コチラの提案を受けて頂いた時のメリットは2つあると考えます」
 長岡さんは内容を整理して詳しく説明をしてくれた。
 メリットの1つは、今回話題になって問題になっているマスコミの動きを封じること。製薬会社が生産を請け負うことで、製作者である伊藤明から製薬会社へ興味を惹きつけるように動くことを約束。製作者の情報は出さないように政府からマスコミに厳重警告することで情報を漏らさないように動く事を約束するとのこと。

 もう1つは金銭的な事。
「製法の情報にはこれだけの報酬を払う準備ができています」
 小切手をテーブルの上に置く西海さん。私はその紙に書かれた金額を見て驚いた。おおよそ、サラリーマン5人分の生涯賃金程の金額が書かれていたからだ。
 私は腹の底から驚いたが父さんは冷静に返事を返していた。

「権利をそちらに渡す金額にしては、これでは安くはありませんか?」
「そうですね、私もこの金額は少し安いと思いますが今回の問題はマスコミの動き。これ以上支払うとお金の動きが明らかになります。そんな大金を受け取ったという子どもに、マスコミは注目するのは言わずもがなでしょう」
 父さんと西海さんがやり合う。
「しかし、この商品が生み出す利益を予想すると、今回受ける報酬と吊り合わないと考えますが?」
「おっしゃる通り金額が吊り合わないかもしれませんが、今回は明くんの事が問題でもあります。マスコミの注目を逸らすことも考えると……」
 父さんと西海さんはしばらく話し合って一応の決着をつけた。報酬は最初に提示した金額のままになり、加えて報酬には父さんの経営する商社が販売市場を担当することに。父さんは私の利益を奪い取る形になってすまないと謝られたが、父さんの利益になるなら問題ない。
1 そして、提案を受けるか受けないかという決断を迫られた。

「製法を渡すか渡さないかは明が決めることだ。だけど父さんは今回の話を受けたほうが明にとってメリットになると考えるよ。受けた時のこと、受けなかった時のことをよく考えてみて判断しなさい」
 父さんに助言される。
「急に話し合いに来て、判断を迫るのは心苦しいが今決断してもらいたい。もちろん先延ばしにもできるが、先に伸ばしただけ事態が逼迫して問題が増えるだろう」
 長岡さんに決断を迫られる。

 そもそも私はこの魔法薬について執着していない。なぜなら、前世の知識があったから製法を見つけ出すことができたのだし、執着するほどに難しい知識でもない。それに魔力成長薬よりも効果の高い魔法薬の製法も知識にあるので、手放すのには惜しくない。ソレよりもこの知識を固持することで両親や知子さん、近所の人たちに迷惑をかける可能性があるので、そちらのほうが問題だった。
 私は内容を改めて整理し考えてから、彼らの提案を受ける事を承諾。製法を西海さんに渡すことにしたのだった。

 

 

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