キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第01話 転生

 私は転生者である。


 よくある小説や映画の題材として目にする事はあるけれど、実際に体験した人は少ないんじゃないかと思う。それを体験している私は、生まれてからしばらくは、物語にあるように前世と今世の様々な違いに大いに混乱させられたのだった。

 私の前世は賢者であった。

 王国の東にある小さな村で次男として生まれた私は、幼少の頃より畑を耕しては汗を流して過ごす日々だった。それから父親が亡くなると土地は長男へ相続され、私も財産として長男の所有物となった。男である私は、子供を生むために誰かに嫁ぐことは出来ず、資産も無いために自分を買い取る事もできないので、長男の奴隷となった。一生を村で生きて死ぬのだろうと考えていたのだが、私が12歳になってしばらく経った頃、ある出来事が私の人生を一変させる。
 後に私の師匠となる、アルク様が村へと訪れたのだ。

 師匠は近隣の魔物被害の調査に駆り出されていて、私の住む村にも聴きこみ調査のために立ち寄ったのだった。そして、私と師匠が出会い、私の才能を見出して下さると、師匠は私財を使って、私を長男から王国金貨三枚で買い取って下さった。晴れて私は、奴隷という身分から脱却したのだった。

 それから10年程を師匠と一緒に生活し、学び、そして王国と師匠の為に働いた。実力をメキメキと伸ばした私は、王国でも有名な賢者の一人となっていた。師匠は様々な知識を私に授けて下さり、私は知恵を身につけたのだった。そして、師匠は教育を終えたと言い残し、私に後を託し隠居したのだった。
 王国での私の仕事ぶりは、無難だが確実の一言だったろう。与えられた任務は失敗なくこなし、部下の教育もつつがなく進めた。

 それからしばらく後に、突然魔王が復活したのだった。魔王軍に対抗するために、王国軍が組まれて、訓練され、実戦に投入された。しかし、敵は強大であった。魔王軍は人間たちを皆殺しにしては、王国領を占領していった。もうダメかと思われた時に、王国に勇者が現れた。
 勇者は、仲間を探すための旅をしながら村や街を魔王軍から助け、王国に辿り着いたそうだ。

 王国一番の賢者と成っていた私は、またもや師匠に見出された時のように、勇者に見出されたのだった。そして、王国から勇者のお供として任命され旅に出ることとなった。旅は苦難の連続で、何度も窮地に陥り死にかけたが勇者と二人で生き残るための努力と根性を見せて遂に魔王討伐を果たすのだった。魔王が死亡したことにより、魔王軍は瓦解。そして、王国領土から殆どの魔物は駆逐されていった。

 魔王を滅ぼし、世界が平和になったのを確認しながら王国へ帰った勇者と私は盛大に迎え入れられた。しかし、私を称える声はあまり長くは続かなかった。
私の功績を王国は大きく語ることが無かったからだ。勇者の偉業が華々しく語られる一方で、私は王国の臣下であったため、王国側は賢者としての功績は王の功績であると喧伝し、「勇者に臣下を付けた王様すごい!」と功績は変質して注目されてしまったからだ。まぁ、魔王軍に蹂躙された国を復興するために、国王の権威を大きくみせる必要があったのだろう。仕方のない取り得ざる手段だったと思うように自分を納得させるくらいしか道は無かった。
 死ぬほど頑張ったのに……。

 さらに私を落胆させたのは報酬についてだった。功績の報酬は、旅に出ていた期間の給料に色を付けた程度(王宮勤めの給料の1.5倍程度の金額)と、私にとっては意味のない王国勲章を一つのみ。勲章には金銭的な価値は一切ないのである。それを授かった時には、久しぶりに本気で怒った。あの旅は、あの戦いは、こんなはした金の価値しか無かったのか!そんな私を見て、とても驚いていていた勇者を思い出す。

 ともかく、そんな事もあり少し王国不信になった私は、魔王討伐で受けた傷を治すためと言う表向きの理由を持って、師匠から譲り受けた役職を育ててきた部下に任せた後、師匠と同じように隠居することにした。さらに、王国の影響から逃れるように人里を離れて生活するようになった。たまに遊びに来る勇者以外には訪れるものは居らず、ひっそりと趣味と研究に没頭し人生を楽しんだのだった。そして、人々は私という賢者が居た記憶を風化させていっただろう。

 過ごすこと数十年。魔王という脅威が世界から無くなったために、隣国である帝国と王国との戦争が過激化したり、王国が二つに割れる大きな内乱が起こったりと、様々な事件が起こったようだが、それを横目に見ながら私は無関心を貫き、世間とは関わること無く研究を続ける日々だった。

 時間が経つごとに、私の能力は衰えていった。体力が落ち、魔力が減って、知恵が衰えていった。そして、とうとう最期の時。一人、長い時間を過ごした家のベッドの上で横たわる。研究と趣味とを思う存分できる良い人生だったなぁと霞む目を閉じると、身体の熱が急速に失われて行くのを感じとったのだった。そして私は死んだ。


 これが私の前世の話。
 そして、これからが私の今世の話。


 朦朧としていた意識が不意に呼び起こされ、さらには目を閉じているのに眩しい光を感じた私。その光を遮ろうと思い右手をかざそうとしたが思うように動かない。目をぎゅっと固く閉じるが一向に小さくならない光りに、仕方なく目を開けると、先ほどまでは霞んでいた目がしっかりと見えるようになっており、視線の先には巨人が一人。おかしいと思いながら首を回そうとしたが、やはり身体が思うように動かない。状況を把握しようとするが聞こえてくる声は、聞いたことのない言語。数人が話し合うのを聞き言葉を理解しようとするがダメ。
 しばらく目だけを使い状況把握に努めると幾つか分かった。私を抱き上げている女性や周りに立っている男女達は巨人ではないようだ。どうやら、私が小さくなっているようだった。

 周りは見たことのないものが一杯。天井には太陽を近づけたように眩しい光を放つ何か。王城でも見たこともないような清潔で真っ白な壁と床。そして、王座のように造りのしっかりした椅子に股を広げて座る女性。女性は大量の汗を流しながらも、私を見て微笑んで何かを語りかけてくる。
 後に知ったことだが、私は転生し出産されたのだった。これは、私が出産された時の記憶。この世界へ生まれ認識した最初の出来事だった。

 再び、赤ん坊からの生活を強いられた私は今世を十分に楽しんでいた。見たことのない数々の品物に、信じられないくらい質の高い生活用品。宮廷料理すら凌駕する食事。目に飛び込んでくる見たことの無い数々の風景に感嘆の声を上げる。こんな文化レベルの高い場所ならば、さぞかし高名な賢者が居るに違いないと喜び、教えを請いたいと思った。後に私は、この世界には賢者は物語や空想のものだと知り、愕然とする。魔法使いすら居ない事を知って残念に思うのだった。

 今世の両親は本当に良くしてくれる。前世に比べると、しっかりとした食事を与えてくれて、教育も受けさせてくれる。更に、愛情をタップリと与えてくれる。もちろん、子育ては使用人である女性に任せる事もあったが、なるべく多くの時間を自分に割いてくれていることを知っている。
 私は、そんな両親に自分の前世についての事や、魔法について話せない事を申し訳なく思っており、それに対して無償の愛を与えてくれる両親には心から感謝していた。

 私の今世の名前は、伊藤明という。明という前世には無かった独特な音や、漢字の形がすごく気に入っており、名付け親のお祖母様には何時か直接お礼をしに行くつもりである。
 今世の私の顔は、不思議なことに前世の記憶にある幼い頃の私の顔とあまり変わりのない顔立ちをしていた。それは、少し白髪に近い金髪で、平均の日本人に比べて彫りが深く鼻が高い。純粋な日本人である母様や、日本人の血を色濃く残す日本顔の父さんに比べて、髪の色が違って日本人顔から大きく離れた造りになっている。
 なので、よくイギリス人やフランス人等の外国の人だろうと間違われる事が多かったりする。先ほど話した名付け親のお祖母様がイギリス人であり、彼女の遺伝子による隔世遺伝が原因だろうと言うのが医者の話である。まぁ、突然自分の顔が他のものに変わるよりかは、前世と自分の顔が変わりないということで戸惑いはなくラッキーだった程度にしか気にしないようにしていた。しかし、両親と似ていない事には不満であり、両親に似てない事で疑問に思われるのでは等と少しばかりの恐れはあったが、母様は天使のようで可愛いと褒めちぎってくれて、父さんはお祖母様を思い出すと私に語っており、私の顔を褒めてくれるので安心している。

 今世に生まれてから一年ほど経ったぐらいで、何とか日常会話程度の言葉を理解できるようになった。しかし、まだ発育途中の幼児の口では日本語を上手く発音できなくもどかしく思っていたのを覚えている。
 私の初めてこの世に放った言葉は「ママ」であった。私の発した言葉を聞き、飛び跳ねるようにして喜ぶ母様と、がくっと手を床につけて項垂れる父さんが印象的だった。すぐその後に「パパ」と言ってみると、床に付けていた両手を天に向けて突き立て「ウォォォ」と喜んだ。
 それから、少しのことなら話せると認識した両親は私に絵本を読み聞かせたり、文字の書き方指導をしてくれたりと、言語学習を熱心に行ってくれた。

 学習指導に大いに刺激されて、知識欲が再び熱を持ち始めた私は、今まで疑問に思っていた前世と今世の違いについての齟齬を穴埋めするために、両親や使用人達に数々の質問を投げかけて知識を補完していった。

 家の中でも、外に行っても、「あれ、何?」「これ、何?」と聞きまくる子供だったため、かなり迷惑を掛けているだろうとも思ったが、加速し始めた知識欲を満足させるために質問しまくった。そんな私に、両親も使用人も嫌な顔を一つもせずに丁寧に説明してくれるので、それはもう楽しすぎた。そして、前世の師匠との生活を少し思い出してちょっぴり憂鬱にもなった。

 それからしばらくして分かった事がある。父さんは、結構有名な商社の社長らしいのだ。母様もその会社で、父の補佐として働いている。家には使用人が居り、生活も豪華なのでかなり身分の高い人達なのだろうと予測をしていたが、当たっていたようだった。

 

 

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