キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第38話 身から出た錆

 呼び出された理由は分かったが、理解は出来そうになかった。そもそも、あれは向こうから仕掛けてきて思わず避けてしまったら、勝手に転んで怪我をした。身体は接触していないし、ダンスの邪魔をした訳でもなかった。俺の所為だと言われても、納得はできない。

 3年前のライブでの出来事を思い出しながら、心の中で整理していると彼は語りだした。その後の人生とやらを。

「俺はあの時、お前のせいで大怪我しちまった。それから事務所の人間から信用は失うし、仲間からもハブられた。俺の居場所を奪ったんだよ、お前は!」

 彼は俺を力強く指さして大声で叫び立てるように怒っているが、やはり俺の心には響かない。

「そもそも、あの時は自分から倒れて怪我をしたじゃないか。それに事務所の人達から信用を失ったのは、怪我が治った後からレッスンに行かなくなったからだろう。それも自分が行かなかったから悪いんじゃないの?」
「クッ! 口答えするなッ! テメェ、今自分の立場が判ってんのか!?」

 思ったことをそのまま指摘してみるが、話の通じないイケメン不良。そして、暴力に訴えかけてくるつもりらしい。後ろに控えている数十人の不良達を、俺にけしかけるつもりだろうか。

「ヘッ! アンタ、今売り出し中なんだろう? その顔と身体に傷ついたらどうなるか分かるだろう? そうなりたくなかったら、金を用意しろ」

 今度は脅迫に金の要求をしてくる。しかし、結局は金の要求なのかと落ちる所まで落ちた感じがして気の毒にすら思えてしまう。

「この3年間で俺の代わりに大活躍したんだろう? 一千万円ぐらい稼いだんじゃないのか。それを全部オレに寄越せ!」

 過去に執着した怒りによって何やら妄想までしている。あそこまで憤怒していては説得にも応じないだろうし、コチラが折れたとしても何度も脅迫してくる事は明らかだと思う。ここで決着を付けないと。

「そんなの、出すわけないだろう」
「てめぇ」

 単刀直入に断ったら、彼は興奮して抑えられない怒りで震えているようだった。彼が怒っている様子を見ながら、後ろの不良達の様子を伺う。人質にされている舞黒くんが、どうなっているのか。

 どうやら不良達は舞黒くんに危害を加えようとしている動きはない。まだ大丈夫だろうと、目の前のイケメン不良から対処しようと再び集中する。

「おい、お前らコイツをボコるぞ」
「新道くん。俺らは手出ししないぜ」

 イケメン不良が仲間の不良たちに指示を出すが、誰一人として動こうとはせず何故か控えていた不良達は指示に従わなかった。

「はぁ?」
「ソイツと因縁があるのは新道くんだけ、俺たちは関係ない。場の用意はしたんだからタイマンを張るんなら、アンタ1人でやんな」

 想定していない状況になったのか、新道と呼ばれていた不良は呆けた顔になって唖然としている。というか、向こうは向こうで何やら揉めだしている様子だった。

「チッ! 使えない奴らだ。せっかく仲間にしてやったのに、金だって分けてやるのに……。いいぜ、俺一人でやってやる」

 加勢を断られた彼は、独り言のような小声で愚痴を言いながら俺に立ち向かってきた。指をポキポキと鳴らして威嚇してきている様子だったが、あまり脅威には感じない。

「オラッ!」

 問答無用で声を上げて殴り掛かってきた彼のパンチは、腕だけ伸ばしたような力だけのガチガチなパンチだったので、軌道が読み易くスキだらけだった。

 威勢よく躊躇いもなく顔を狙ってきたので喧嘩慣れはしているのかもしれないが、それでは当たりはしない。

「フッ、クッ、ッア! 避けんじゃねえよ!」

 コチラが避け続けて手を出さないことを良いことに、彼は防御なんて無視して攻撃を当てるだけに集中したような超積極的な連続攻撃を繰り出してくる。

 それでも、動きはバッチリと見えてるので当たりはしない。俺が避けに徹していると、彼はハァハァと息切れして勢いが衰えてきた。しかし、どう決着を付けよう。あまり暴力でやり返すのは良くないように思うけれど、なんとかして彼を止めないと終わりそうにない。

 すると、息が上がって体力の限界を向かえたのかイケメン不良は立ち止まった。しかし、止まったのは体力が限界に来たわけでは無かったみたいだ。

「ハァハァ、テメェが悪いんだぜ。フゥ、テメェが素直に殴られてたら許してやったのに!」

 そんな気は全く無いだろうに、呆れるような言葉を放ちながらポケットから鉄の棒を取り出した。ソレを片手に持って、ブンと腕を降ると鉄の棒から刃が飛び出してきた。どうやら、あれはバタフライナイフと言う凶器のようだった。

「死ねぇ」

 まさか殺意まで抱かれているとは。しかも、顔を目掛けてナイフの刃を一直線に向けてきている。武器まで持ち出されてたのなら、戦いだろう。手加減は無くなった。

 向かってくる刃を避けて、顔が上がって丸見えになっているイケメン不良の顎の先端を殴る。すると、予想していなかった俺からの反撃だったからだろう、アッサリと失神する。

「おっと、危ない」

 そのままコンクリートの地面に倒れ込みそうだったので襟を掴んで引っ張り、倒れて頭を強打しないようにする。流石に殺そうとされたとしても、殺し返すのは良くない。

 そして、彼の手から離れて落ちたバタフライナイフは靴で踏み抜いて刃を砕く。とりあえず危険は1つ無くなった。

「これで、人質は返してくれるかな?」

 

 

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