キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第07話 センセーション

 皆の守備ポジションを決めた後、野球の練習として試合を繰り返す日々が続いた。

 

 野球部だからと言って丸刈りを強制されることも無いし、初心者だからと言ってボールやバットを触らせてもらえない、ということも無い。伝統だからと言って、地道な練習を課せられることも無い。

 

 ということで、我が野球部では毎日放課後に一試合だけ行うというスケジュールで練習を行うことにしていた。

 

 ランニングをしたり、ノックを受けて守備練習をしたり、トスバッティングによる打撃練習をしたりという練習はポジション決めの時から以来、一切していない。

 

 ひたすら練習試合するだけ。野球の基礎練習をしていないのは、他の学校から見れば真剣になって野球に取り組んでいない、本当に大会に出場するつもりが有るのかと疑われるかもしれない。

 

 しかし、試合を繰り返していくうちに自然と学べる野球の技術は多かった。大会までの期間も短いので、実践の中でなんとか学習していく必要があった。

 

 毎日、授業が終わって野球部の部員達が集まってから行う10分程のウォーミングアップ。

 

 それから21人いる部員を、二チームに分けて公式戦と同じルールで対戦する。その日によってメンバーはシャッフルして、その日の試合の勝ち負けを競う。

 

 意外と言うべきなのか、やはりと思うべきなのか部員は全員が負けず嫌いだった。だから、毎日のように勝負を繰り返していたが、毎試合を全員が真剣に勝負していた。

 

 練習試合とはいえ負けたくない、相手に絶対に勝ちたいという気持ちが強くて、一試合を終えるごとにスキルアップ。驚異的なスピードで日々、皆の野球技術が上がっているのが分かるぐらいだった。

 

「今日は負けないぜ」「それはどうかな? 勝つのはこっちのチームだ」

 対戦が始まると気持ちをぶつけ合い、互いに一歩も引かないガチンコ勝負。それぞれのチームで作戦を考えて試合に取り組む。そして、その日のうちに勝敗が決まる。

 

「やったー、勝てた!」「くそっ、負けた!」

 勝てると勝利したチーム皆で歓喜、負けると敗者チームが本気で悔しがる。

 試合が終わったら、試合内容についての反省会を行う。その後、クールダウンをして疲れを翌日にまで残さないようにしてから、グラウンドの片付け。だいたい、堀出学園野球部の一日に掛ける練習時間は二時間から三時間程度だ。

 

 四時間も五時間も、日が暮れるまで野球漬けの練習を続けている強豪校と比べると練習時間は短めだと思う。

 

 ただ、みんな一斉にそんな長時間の練習時間を確保することはやはり出来ない。ということで効率を求めて、日々の練習試合を繰り返し行っていた。

 

 

「野球部の皆、頑張って~!」
「応援してるよ~」
「カッコいい所を見せて! 他の学校に負けないで!」

 次第に堀出学園の生徒たちからも放課後に行われている野球部の練習試合が注目を浴びるようになって、試合をしていると下校途中の女子生徒からの声援を受けるようにもなっていった。

 

「よっしゃ!」
「オーライ」
「ばっちこーい!」

 すると、試合をしている皆のやる気がグングン高まっていく。顔の整った俳優や、女性ファンも居るモデルなんかでも変わらず盛り上がっており、やはり身近である女子生徒からの声援を受けると彼らでもテンションが上がるようだった。

 

 観客の規模は更に広がり、近所に住んでいるおじさん、買い物帰りのおばさん達なんかも見学しに来るようになっていった。

 

 それだけに留まらず、保育園帰りのお母さんと子供、近所の野球少年達、営業で住宅地を回っているサラリーマンなんかも試合を見に来て、規模がどんどんと大きくなっていった。

 

 そして遂には、部員生徒の仕事関係のファンなんかも押し寄せてくるようになり、毎日の練習試合には何百人も観客が居るという予想外な状況にもなっていた。

 

「ボウズ! チャンスだぞ。打ち損じるなよ!」

 熱の入った応援をするおじさん。

 

「あの男の子達、ホントに凄いわねぇー」
「ワタシは、あの子に注目してるわ」
「いいわねぇ」

 買い物かごを提げたおばさん同士が集まって、会話を楽しみながらお気に入りの子を見つけ試合を眺めている。

 

「すげー! テレビの野球みたいだ」
「アッくんも、大きくなったら野球してみたい?」
「うん! やってみたい」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねて興奮する子供、それを優しく見守る母親。

 

「次はストレート」
「カーブじゃないかな? 高校生は変化球をどんどん投げていいんでしょ」

 練習試合を見学しながら、技術を学ばうと目を大きく見開いて注目する野球少年たち。

 

「路彦くーん! 頑張って!」
「負けないで、湊くん!」

 部員それぞれのファン達が何処から聞きつけたのか、駆けつけて試合を見に来ていた。彼女らは試合の間ずっと、大声援で部員の活躍を応援し続けている。

 様々な観衆が集まる中で毎日の練習試合を行うのは、なかなかに緊張感があった。それだけでなく注目を浴びることで皆のやる気もガンガンと上がっていく。そして、更に試合は白熱していった。

 

 俳優やモデルとして活躍しているようなイケメンの部員達が集まって、そんな彼らが練習試合とはいえ真剣になって勝負をしている。それは、ひとつのエンターテイメントとして成り立っていた。

 

 こうして甲子園出場を果たす前、公式戦に出る前から既に周辺住民、そして一部の熱狂的なファンの関心を集めて、堀出学園野球部の活動は注目を浴びて知られるようになっていった。

 

 

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