キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第06話 皆の能力

 堀出学園にもともと野球部が無くって、立ち上げから行えて良かったことの一つは先輩部員が居ないという事だろう。上級生や下級生という年齢の違いはあるけれど、皆が一斉にスタートに立てた。

 

 先に部活に入った先輩として偉そうに指示されたりすることがなく、皆で自由に自分たちの考えで活動することが出来る。

 

 そして、まず最初の話し合いが行われた結果により俺が部長に任命された。甲子園出場を目指すというアイデアを提案し、嶋岡先生に相談して野球部を立ち上げようと率先して動いたのが俺だったから。クロマキーのリーダーに引き続いて、野球部の部長という大役を仰せつかる事になった。誠心誠意頑張ろう。

 

「それじゃあ、最初に皆のポジションを決めていこうか」

 

 今日から始まる野球部の活動。

 

 用意して持ってきた新品のグローブをはめて、グラウンドに走っていく部員達。まずはノックを行って守備の適正を見極めようと考えていた。

 

 しかし、グラウンドにはまだ野球ベースは用意されていない。白線すら引いていないし、当然マウンドもまだ無い。スコアボードも無い。ユニフォームも無くて、今は全員が堀出学園の体操着を着て守備位置に立っていた。傍から見たら体育の授業時間に野球をやっているように見えるだけで、野球部が練習している風景とは思えないだろう。でも、皆が本気で野球に取り組もうという気持ちはあった。

 

 とりあえず、最低限だけ野球をするのに必要なボール、バットとグローブなどの道具だけ用意してある。徐々に野球する為に必要な設備を整えていく予定。今はまだまだ、準備不足だった。

 

「じゃあ、ノックいくよ」
「オーライ」

 道具は無いし、時間も無い。だから早速ノックを行う。

 技術や知識がどうとか言う前に、まずは守備のポジションに付いて実践してみる。ショートの位置に立った部員がひとり。見よう見まねで腰を落としてグローブを構えて、すぐ横に動けるよう反復横跳びの姿勢を取る。見た目はなかなか様になっていた。彼に向かってノックを始める。

 

 

 ブン、キインと鳴り響く金属バットの音、鋭く低く飛ぶ打球。内野で止めないと外野まで行ってしまいそうな勢いのあるゴロを正面に立ち塞がって、危なげなくグローブで止めた。

 

「よし」
「オッケー」
「ナイス!」

 一発目から取りそこねる事無く、しっかりとボールを止めて守備を成功させた。その姿に、同じように守備位置に付いていた部員たち皆から褒める言葉が飛ぶ。なかなか順調に行きそうな予感がした。

 

 野球の経験は無いが、野球の動きがしっかり出来そうだという才能を感じる。流石ここに居る部員達は、芸能界で活躍しようとして頑張り身につけた一芸に秀でた者たちばかり。あるいは、全国模試で上位を狙えるぐらいに頭がいい人達。

 

 一芸に秀でる者は多芸に通ず、とはよく言ったものだ。みんな学習能力が高い、という事だろう。

 

 次々とノックを続ける。ボールを受ける彼らは、ノックを行っている間に誰に習うわけでもなく自然と野球を行う動きを学んでいった。それは、守備の才能がある彼らの素質。

 

「赤井、お前ノックが上手だな。クラブチームか、どっかでやってたのか?」
「先生の目から見て、上手く行ってますか? ノックするのは初めてですよ」
「うん。初めてとは思えないな」

 野球部の顧問として、練習を見学していた嶋岡先生が褒めてくれた。しかし、俺がやっているノックは本当に自慢するほどじゃなくて、なんてこと無い。

 

 自分で放ったボールにバットを当てて、ボールを狙った所に落とすのは剣を振って魔物を倒すのに比べたら、とても簡単だった。

 

 鍛えてきた動体視力を持ってすればボールの芯を見逃す事は無いし、鍛えた腕を駆使すれば金属バットだって軽々と振れる。

 

 次々とボールを打って、取らせて守備の能力を見ていく。

 

「次!」
「はい」
「次!」
「どうぞ!」
「次!」
「ばっちこーい」

 

 ノックを続けて場所を内野から外野に変えて、彼らの適正を見てポジションを決めていく。守備の姿勢に無理はないか、いい感じに動けているかどうか慎重に観察を続ける。

 


 次にバッティングの能力も見ておこう。ピッチングマシンという上等な機械はもちろん無いので、剛毅にバッティングピッチャーをしてもらい、俺がキャッチャーをしながら後ろで皆のバッティングの適性を見ていく。

 

 バッターには自由に打たせてみて、手の空いている者には引き続き守備位置につかせる。守備練習もあわせての打撃練習を行う。

 

 皆、全体的に球を遠くへと飛ばすパワーはないが球の見極めやミート力が高い。コンパクトなヒッティングを得意としている部員が多いように思える。どうやら俺達のチームの作戦としては、つなぐ野球というのがメインになっていきそうだった。

 

 1日かけて、皆の野球をする才能を見極めていった。色々と指導する必要がありそうな点はいくつかあったけれど、事前に見込んでいた通り皆の能力が高かった。

 

 集まった部員はアイドル志望に、俳優志望、モデル等など個性豊か。アイドルだったらダンスや歌のレッスンでトレーニングを積んでいるし、俳優も演技をするのに体力が必要だったりで日々トレーニングしている。

 モデルの場合も体作りで毎日のトレーニングを欠かさない。ということで、なんだかんだで皆が身体を動かす基礎ができあがっていて、身体能力は高い。

 

 ボールを怖がったり、バットに当てられないぐらい致命的に下手だったり、野球をする才能がなくて無理そうだ、と思うような部員はひとりも居なかったので一先ず安心だった。

 

 とりあえず仮決定ということで、ポジションと打順は次のように決めた。


1 右 舞黒 優人 (アイドル)
2 補 赤井 賢人 (アイドル)
3 遊 緑間 拓海 (アイドル)
4 一 宗崎 路彦 (モデル)
5 二 阿宮 達志 (俳優)
6 左 松山 湊  (進学組)
7 三 安部 悠真 (俳優)
8 中 浅黄 龍二 (アイドル)
9 投 青地 剛輝 (アイドル)


 まず1番手の舞黒優人は、守備がまだ拙いものの最初から打撃が非常に上手かった。長打力は無いものの、バットコントロールが頭一つ抜けるぐらいに上手。

 ボールに逆らわないバッティングが最初から自然と出来ていた。打ち返し、流し打ち、引っ張りといった各方向に打ち分けることが出来て、打球を飛ばす方向をコントロールするというセンスがあった。

 

 クロマキーのメンバーとして人物をよく知っているから、作戦や戦術の意思疎通にも問題ないだろう。ということで先頭打者を任せることに。

 

 そして二番には俺。剛毅の球を受け止めて、相手のバッターに打たせないように注意深く観察を続けるキャッチャーとしての役割。

 打者としても、多くの打席に立って優人と同じように相手の情報を収集してからチームに指示する作戦を考える、という仕事を担う予定だ。

 

 三番手には同じくクロマキーメンバーのひとりである、緑間拓海を据える。広い守備範囲に、グラブさばきにスローイングも初めから上手かった。まさに遊撃手としてピッタリだったと言えるだろう。身長は低めだが意外と足が早いので、ホームに生還する走力も期待できる。

 

 そして四番打者には宗崎路彦(そうざきみちひこ)というモデルの子を据えた。守備に関してはまだ未熟だが、180センチを超える長身を活かしたバッティングでボールを遠くへ飛ばす長打を狙える、強打者として活躍してくれそうだった。ということで彼には四番を任せることにした。

 

 五番手をお願いするのは、俳優の仕事をしている阿宮達志(あみやたつし)だ。守備も打撃も非常にバランスが良い選手。舞台役者としても活躍している彼は、本番に対する勝負強さがあるので、走者をホームに返すチャンスの場面に活躍してくれるだろうという考え。

 

 六番手の松山湊(まつやまみなと)には素早い判断のプレー、レフトへ飛んでくる難しい打球でも冷静に処理してもらおうと守備に期待している。下位打線で行う作戦の指示を出して動いてもらう、戦術の要としての役割も考えていた。

 

 七番手を任せる安部悠真(あべはるま)は動体視力が良いようで、ボールのバウンドの判断がピカイチに上手い。ということでサードを任せる事に決めた。ミート力も高いので、バッティングで上位に繋ぐ役割を期待している。

 

 浅黄龍二には八番打者を任せる。本来なら、この打席には守備重視の選手を置くやり方がセオリーだと考えられているらしい。だがしかし、ここを任せる龍二はチームの中で二番目に長打力のあるという、大穴選手だった。

 ノビノビと自由に打たせて得点を稼ぐ、意外性のある打者として活躍してもらう予定。意外と足も早いし、守備範囲が広くて外野守備の中心でもあるセンターを任せている。

 

 そして投手を任せる青地剛毅には、九番打者をお願いした。ピッチングに集中してもらって、体力を消耗しないように打順があまり回ってこない最後尾に置いた。本人はバッティングもやりたいという希望だったが、彼のピッチャーとしての役割はチームが勝つため絶対に必要だったので、説得をして九番手という打順を任せることに。

 

 

 ということで、こんな感じで守備のポジションと打順を決めた。残り12名の部員は控え選手として、相手チームの能力を見て直前にスターティングメンバーを変えたり、試合の流れを見て交代する予定だ。

 

 レギュラーメンバーにクロマキーのメンバーが5人全員入っていることに関して、部長としての職権乱用だと感じるかもしれないが、しっかりと実力や才能を見ての判断だと明言しておく。

 

 それに、まだまだ大会に向けて控え選手とのレギュラー交代も積極的に行っていくつもり、なので今の時点ではレギュラーにすると決めたとはいえ油断しないよう練習に励んでもらいたいと思っている。

 

 

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