キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第04話 売れるための第一歩

 俺達が通っている堀出学園は大きく分けて、タラントコースと呼ばれる芸能関係を目指している学生が所属するコースと、進学コースと呼ばれる大学受験に向けて日々勉強をしている2つの課程に分かれている。

 

 そしてタラントコースの生徒には、もう既に仕事を始めているような子も多く居て平日の昼間にも予定が取られることが有る。学校の授業が受けられなかった時の為の補習に、放課後の時間や休日を割り当てることもあって、部活動をするような時間が取れなかったりする。

 

 タラントコースの中には、将来プロスポーツ選手を目指すような生徒も居るけれど、彼らは個人でコーチを雇ってトレーニングを積み重ねている。わざわざ学校の部活動で練習する必要性を感じない。

 

 進学コースに在籍する生徒も、放課後の時間は勉強していて部活動するような時間が無い。

 そういった理由によって、堀出学園にはニーズのないスポーツ系の部活動は存在していなかった。そして、もちろん野球部もない。

 


 野球部のない学校に通いながら、俺は甲子園を目指そうと皆に提案したのだった。だが、部活が無いのなら作ればいい。ゼロからのスタートになるが、不可能という訳でもない。

 


「嶋岡先生」
「ん? どうした赤井」

 俺は早速、野球部を作るために職員室で仕事をしていた今の担任でもある男の先生、嶋岡先生のもとへ直談判しに来た。呼びかけると手を止めて、先生は親しみ深い笑顔を浮かべながら振り返ってくれた。

 

「ちょっと相談したい事があって。お時間いいですか?」
「いいぞ。なんだ、改まって」

 嶋岡先生は、授業以外の時間にも積極的に生徒と交流を持ってくれるような人だ。正しい行い、人としての振る舞いやあり方についての話を好むような先生で日常生活に関しても情熱を燃やし、自分の価値観を生徒である俺達ぶつけてくるような先生でもあった。そんな人だから、今回の事についても頼れるだろうと確信して、相談しにやって来た。
 
「実は、新しい部活動を作りたいと思って」
「ほう、部活動か。それは良いな。それでどんな活動をするつもりだ?」
「野球です。新しくこの学校に野球部を作りたいんです」
「ウーン、野球、か……」

 野球部を新たに作りたい、と俺が言うと腕を組み眉をひとめて難しい表情になってしまった嶋岡先生。やはりスポーツ系の部活だからだろうか、難色を示す先生。

 

 もしかして、スタートから計画は頓挫してしまうのか。

 

「ダメですか?」
「いや、先生は大賛成なんだが。堀出学園の校風がな」

 仕事に勉強に忙しい堀出学園の生徒に、部活動をするような時間を捻出させるのが難しいと説明する嶋岡先生。

 

「それに何より、活動するのなら抜群な実績を示さないと認められないだろう」

 堀出学園というのは芸能界を目指すような学生向け、進学率の良い学校として名が世間に知れ渡っている。そこに、部活で下手な実績を残してしまって堀出学園の名に傷が付くような事になれば大変だろう。そこを心配されているらしい。

 

「部活動が大丈夫な生徒を選んで協力を頼んでいます。そして彼らと一緒に今年の夏、必ず甲子園に行きます」
「こ、こうしえん? 本気か?」

 タラントコースに在籍している生徒は仕事があると言っているが、その多くはまだ売出し中の若手。ずっと仕事で引っ張りだこという訳でもない。俺達のように仕事が無い生徒も多く居たりするので、スケジュールを調整すれば部活動をする時間をなんとか確保できるだろう。それに、彼らに合わせたトレーニングメニューを組み立て、短い時間で最大限に技術向上を目指せるようにすればいい。それを可能とする俺の知識がある。

 

 そんな彼らに協力をお願いして回っている所だった。いま、剛毅達が声を掛けて回っている最中だ。

 

 実績に関しても、甲子園に出場するという大きな目標を掲げて自信満々に宣言した。実現したなら誰も文句を言えないぐらいの十分な実績だと思う。

 

「もちろん、本気です」
「いやいや、なんでお前はそんなに自信満々なんだ?」
「剛毅、青地剛輝のピッチングなら誰にも負けない自信があるからです。彼が居れば、甲子園出場も間違いなしだと思います」

 勝算のひとつ、幼い頃からキャッチボールをして鍛えてきた青地剛輝のピッチング。今までに試合に出たり対戦した経験も無いけれど、密かに指導して鍛えてきた彼の力は尋常じゃないと思う。

 まさか、甲子園出場を目指す事になるとは予想していなかった。だが、幼い頃から俺と剛毅はキャッチボールをして遊ぶという事を習慣にしていて、今もずっと続けている。

 

 ただキャッチボールをする、だけでは無くて球速を上げるために腕や腰回りの鍛え方を教えて、変化球のキレを上げるためにとフォームを独自に二人で勉強した。

 

 勇者としての俺の知識も駆使して、長年かけて彼をピッチャーとして鍛えいていた。今や、プロ野球選手に匹敵するんじゃないかと思えるぐらいにピッチングが上達した青地剛輝が完成していた。

 

 今回、甲子園を目指す理由の一つに青地剛輝の今までに披露する場も無く隠されてきた才能を世間に知ってもらおう、という目的もあったりする。本人には説明していないけれど。

 

 ともかく、強力なピッチャーが既に存在している。そして高校生相手になら技術はともかく身体能力なら絶対に負けない自信のあるキャッチャーも居る。バッテリーが揃っているから、勝つ見込みは十分にあると思えた。

 

「なるほど、分かった。お前がそこまで断言するのなら本当に自信があるんだろうな。野球部の顧問は俺が引き受けよう。学校との折衝も任せておけ」
「ありがとうございます、先生!」

 こうして、難航するかもしれないと思っていた野球部立ち上げの話し合いに関して予想していたよりもスムーズに事が進んでいった。次は、部員となってくれる生徒の確保だ。

 

 

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