キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第02話 やる気、不十分

 テレビには出られないしイベントに呼ばれる事も無く、今ではイベントを自主的に開催しようとしても難しくなっていた。

  デビューライブ以後、ライブ会場を確保しようとして連絡を入れると必ず既に予約が入っていると断られて、プロモーターとの交渉も上手く行かず、活動の場を作る事すら出来ていなかった。

 

 大手芸能事務所から敵視された結果、各方面から完全に孤立させられていた。

 

 これからアイドルグループとして活動を始めるぞと動き出すより前から、いわゆる芸能界を干されているような状況に立たされていた俺達。

 こんな状況で、アイドルグループとして成功するためにどうしていけばいいのか、話し合いの場を何度か設けてはいるものの、答えは一向に出てこない。

 

 

 これというのも、人生の全てを掛けてでもアイドルグループとして芸能界で成功してやる、という強い意志が特に無い俺達だったから。

 

 もしクロマキーのアイドル活動が駄目だったとしても、まだ自分たちは学生だし年も若いしでアイドルを辞めて別の仕事を探しながら人生を送るという選択肢もある。
生きて行く為に必ずアイドルじゃなきゃ駄目、という信念はまるで無かった。

 

 そもそも、俺がアイドルになったというのも親がアイドルのオーディションに応募した事から始まり、状況に流されるまま今に至った。色々な人と出会うことが出来て、様々な経験をさせてもらい、楽しかったのは確かだ。だがしかし、これから先ずっとアイドルを続けていきたいという気持ちは薄い。


 同じようにメンバーのひとり青地剛輝も、トップアイドルを目指して努力し芸能界で成功したい、というモチベーションの持ち主ではない。

 彼がアイドルとなった目的は自分の家が母子家庭であり、子供でも家族を養う為に働けて稼げる仕事がアイドルだったから。今ではお金に困ること無く生活も安定して、苦しくない程度に彼らの家族は暮らして行けていた。

 そして今なら、剛輝も年齢を重ねて年齢制限の基準も満たし働けるようになった。仕事をするなら、必ずしもアイドルじゃなきゃ駄目という状況じゃなくなった。


 実家が財閥である浅黄龍二もアイドルを続けるのに必死という訳ではなく、浅黄家の会社を盛り上げるための手段、話題作りに自分がアイドルとして有名になり、宣伝広告塔となろうという考えでのスタートだった。

 アイドル活動が駄目だったら別の方法で企業宣伝の方法を探していけばいい。まだ学生で年齢は若いし別の方法でチャレンジする時間もたっぷりある、実家が金持ちだから早々に困ることもない。


 緑間拓海はどうだろうか。俳優から転向してアイドルとしてデビューしたけれども、こっちが駄目になったとしても演技に関して天才的な才能がある彼。簡単に俳優として復帰できそうだ。

 少なくとも、俳優を辞めた後にも続けてファンとして居てくれる多くの人達が居る程の人気がある。ファンを続けている人達になら、彼の俳優復帰も歓迎されるだろうなぁと思う。

 まぁ、アイドルが駄目だったとしても別の方法によって芸能界で生き残っていく、という望みある未来が残されている。精神的な余裕もあるだろう。


 アイドル活動を辞めたとして、一番将来の予想がつかないのが優人だった。

 そもそも、彼は何の目的で三喜田社長のスカウトを受けて、アイドルを目指していたのかよく分からない子だった。

 優人と俺が出会ったのは、いざこざに巻き込まれ不良達に拉致られていたのを助け出した、というのがキッカケだった。その後、三喜田社長にスカウトされ彼はやって来た。そんな彼から、アイドルを続けていきたいという気力をあまり感じない。

 俺と同じように、流れに身を任せていたらアイドルになっていたという経緯のようにも思える。しかし、何らかの目的があってアイドルになったと本人は語っていた。その目的が何なのか、今の所は分からないけれど。

 ともかくまぁ、彼は中学の全国模試でトップを取った経験もある程の知力に優れた人だから。アイドル活動がダメだったとしても、頭が良いから別の何かで活躍できるだろう。どうなるか未知数だけども、裏を返せば何でもできる可能性があるという事。

 

 こんな風にクロマキーのメンバー5人が全員、アイドルを無理にでも続けていこうという気持ちが無い。続けていく意味も、そんなに無い。

 ファンが居て芸能界でも成功できれば一番良いけれど、ファンが減りアイドルとして失敗したのであればサッと見切りをつけて、あっさりと未練も無くアイドルを辞められるという気持ちがあった。

 そんな訳で、アイドルとして活躍をするためのアイデア出しも順調とは言えなかった。

 全員が今のアイドル活動が成功しても失敗たとしてもどっちでもいいかも、という低いモチベーションのまま解決方法を考え出そうとしているから。

 こんな状況で、現況を一変させるような良いアイデアも出る可能性は低いだろうと思う。

 

 そんなこんなで沈黙が続く会議室、解決方法が出ない話し合い、無為な時間が過ぎていく。

 

 ただ俺は考え直す。本当にこのままクロマキーというグループを失敗に終わらせて良いのだろうか、と。

 芸能界で頑張ろうにも、その芸能界で大きな権力を持っている大手芸能事務所から妨害されて俺達は思うように活動することが出来ない。

 そんな大きく立ちふさがる困難が目の前に有るから、失敗だと言ってコレで全てを放り出し逃げて良いのだろうか。


 勇者とは、困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者の事を指す。


 俺は前世を思い出す。いくつもの困難を乗り越えて、勇者と呼ばれるまでになった頃の記憶を。

 かつての自分を思い出し、同じように困難に見舞われている今の自分を見つめる。

 そうしているとクロマキーのリーダーとして、この困難を乗り越えてみようという気持ちに自然と切り替わっていた。

 まずは自分と同じように皆のやる気を奮い立たせる必要がある。そのために、何か大きな目標を掲げる必要があった。そして考え、思いついた秘策。

 

「なぁ皆、聞いてくれ。グループが有名になるために一つ、良いアイデアが閃いた」
「なんや?」

 停滞していた話し合いの場で、俺は突然に声を上げた。それは何だと聞き返す剛毅、皆の注目を一身に集めてから今までに無い突飛な方法を俺は口に出した。

 

「みんなで甲子園出場を目指そう!」
「「「「はぁ?」」」」

 そんな俺のアイデアを皆が耳にした瞬間、全員が同じように口をポカーンと開けて理解不能という表情を浮かべていた。

 

 

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