キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第11話 甲子園出場への道

 横浜中央高校との練習試合、俺達は本来予定に無かった二試合目を行っていた。向こうチームは先程の試合に出ていた選手を全員交代していて、本気だと思われるメンバーを揃えて対抗してくるようだった。

 

 

 交代して試合に出てきた彼らこそが、甲子園出場を目指すレギュラーメンバーという事なのだろう。

 

 選手のユニフォームや身体つき、見た目からして日頃から練習を積み重ねて野球に向けて仕上げているという事が分かる。野球を経験してきたであろう時間だけで比べて見れば、うちのチームよりも向こうの方が圧倒的に上だろうと思う。

 だがしかし、今回の試合でも彼らに負けるつもりは一切無い。チームの皆も気持ちは一緒だろう。ただし、そう簡単には勝たせてくれないかもしれない、という事も分かった。

 

 1回表、先攻だった俺達は残念ながら得点を決められず。試合のスタートは0点に抑えられてしまって、攻守交代となってしまった。

 先程の試合と違って1点も得ることが出来なかった。勢いづいていたチーム皆の気持ちが萎えているのが分かる。けれども全く対処できていない、という訳でもない結果である。

 

 ストレートと変化球の巧みなピッチングで、芯は外されたもののバットに当てて打ち返すことの出来た1番打者である優人。

 

 拓海は初球から打ち上げたものの飛距離が足りなかっただけ、あのままもう少しだけ当たりどころを調整できれば先へ飛ばすことが出来る。ホームランもあり得る打球だった。

 

 俺も打席に立って見たが、剛毅の投げる球に比べるとストレートが遅いと感じる。警戒するべきは変化球だろう。少しの観察を終えて打ち、ヒット。攻略は可能だ。

 

 4番打者の宗崎くんが出ていくと、相手に警戒させる働きを見せた。警戒されるほど脅威と感じてくれている。ならば、付け入る隙もありそうだった。

 

 そしてなにより、試合は始まったばかりだ。まだ諦めるには早すぎる。

 

 1回裏。攻守交代となり今度は俺たちのチームが守備側に立つ。相手の選手が、バッターボックスに入る前にバットを素振りする動作を横目でひっそりと観察する。

 相手バッターの実力は、バットの振り方をちょっと見ただけで、やはり一試合目の選手に比べるとレベルが格段に違うという事が分かった。けれども対抗できないという訳じゃなさそうだ、とも感じていた。

 

 侮っている訳でもない、ピッチャー剛毅の能力を鑑みて冷静に判断した結果だ。

 

 もしかしたら相手は俺の知らない、何か切り札のような技術を隠し持っている。なんて可能性も有るので、続けて警戒は必要だろうが。けれど、必要以上に怖がることもない。

 

「………」

 俺は黙々とピッチャーマウンドを整えて集中する剛毅に視線を向けて中腰になり捕球姿勢を取る、バッターボックスに立つ選手を視線の端に捉えて敵の観察を続けながら。

 

 左バッターのようで、素振りを終えた後は静かに1塁に近い打席に立っていた。堂に入った姿でバットを構える。

 

 内野安打狙い。バッターの待ち構えているボールは、おそらく内角低めだろうというのが視線と身体の動きやバランスから見て分かる。だがしかし、単純に狙いのコースを外したとしてもミートして当ててくるだろうな。

 

 なら打たせて取るのはどうか、とも考えてもたけれどバッターは走力もありそうだった。下手に走らせたら内野安打でセーフになる可能性も高そう。

 

 ならば、ここは真っ向勝負で剛毅に挑戦してもらおう。彼の今までに鍛えてきた実力なら抑えられるだろうと信じて。

 

 キャッチーミットを正面に構えて、投げ込んでもらいたいコースをココだと指定する。ストライクど真ん中に、力を込めた単純な直球ストレート。

 

 俺の要求を見てニヤッと男らしく笑い、セットポジションに入った剛毅。

 

 バッターの呼吸も感じ取ってバットを振らせる。相手の求めるタイミングを外す為に、剛毅にはミットに投げ込むタイミングまでキャッチーの俺から指示を出して従ってもらっている。

 

 絶妙なタイミングでボールをミットに投げ込んでもらう。先程の試合では見せなかった、剛毅のもう一段階上のピッチャーとしての力を見せつける。俺達も本気を出して今回の試合で勝つために、全力で相手との対戦に挑む為だ。


「ストライク、バッターアウト!」

「くっ……!」

(よし、通用するな)


 ボール三球をストライクゾーンに投げ込み、相手バッターを三振に打ち取る。ミートを外して振り遅れ。

 

 まずはワンナウト。剛毅の表情には緊張が見られない。むしろ楽しそうに笑顔を浮かべているので問題ないと安堵する。俺も、キャッチャーマスク越しに笑みを浮かべているだろう。頬が緩むのを感じた。

 

 そして試合は続き、次のバッターが打席に立つ。

 

「ッ!」

「セカンドッ!」

 今度は、打たせて取る守備。

 相手バッターが打った球を丁寧に捕球したセカンドの阿宮くんは、危なげも無く捕球したボールをファーストへと送球する。俳優業をしている彼だからだろうか、ボールを取り投げる姿は洗練された動き、プロの選手を思わせるようなスマートな動作で守備を完了していた。今の所、彼の守備に関する実力に問題は無さそうだった。

 

 可能ならば、今回の試合で選手たち全員の守備を実践した場合の振る舞いも見ておきたい。普段行っている練習試合でなら、特に問題もないが実践においてはどうだろうか。普段と変わらず実力が発揮できるかが心配だった。

 

 とはいうものの、ここに居る堀出学園の選手は芸能界で色々と経験している特殊な人物達だ。野球の本番でも、実力を出すという事に慣れているような人たちだろうから心配無いと俺は考えていた。

 

 ワンナウト、ツーアウトと危なげなくアウトを取って、3人目のバッターも特に語る事も無くスリーアウトを取りチェンジとなって交代となった。

 

「調子はどうだ?」

「フッフッフッ……。絶好調や!」

 攻守交代でベンチに戻る途中の剛毅に声を掛けてみると、強豪校で甲子園出場を目指す本気のチームとの対戦だと言うのに余裕綽々という表情で返された。先程の練習試合で圧勝出来たという結果から、今も続けて良い調子で勢いに乗っているようだった。守備にも問題は無さそう。

 

 今度の俺たちが攻撃する番。

 

「相手ピッチャーはコントロールが巧みで変化球は鋭いけれど、ストレートは剛毅に比べるとそれほど驚異じゃない」

「変化球は無理に狙わなくていい、直球を中心に投げてくれるのを狙い撃ちだ」

「大きいのじゃなく、小さいのをコツコツ当てて繋げていこう!」

「うぃ」「分かった」「了解」

 1回表で俺が観察し得た相手投手の情報をチームの皆に共有して指示していく。練習の時から俺達は剛毅の投げる凄い球を目にしている、それと比べてみれば相手ピッチャーのストレートは貧弱にも見える。だから打てるだろうと、それを狙うという作戦。

 

「よし! それじゃあ、一致団結して反撃開始だ」

 次の打席に立つバッターに向けて、リーダーとして鼓舞する。

 そして始まった2回表の俺達の攻撃。1回表では打てなくて、一瞬だけ軽く自信を失いかけていたチームの皆だったが、少しのアドバイスを聞いただけですぐ実行。指示した通り動いてくれて上手く打順が繋がり、相手チームを攻略して崩し始めた。

 

「スリーアウト、チェンジ!」

「惜しかったやん」

 グラウンドに響く審判の声を聞いていると、横で試合を見ている剛毅がつぶやく。2回表の攻撃も残念ながら得点に繋がらなかったが、2本のヒットを打って出塁に成功していた。相手ピッチャーの攻略は順調に進んでいる。

 

「相手の投球について情報は取れている。スタミナも徐々にだが削れていっているたろうから、後は回を重ねて攻撃を続けていけば得点も取れる」

「まぁな、俺は相手に得点を取られないよう投球に全力を注げばいいって事やな。それで勝てる。よっしゃ行こか、賢人!」

「あぁ、行こう」

 テンションが上って楽しそうにマウンドに向かって走っていく剛毅の背を見送り、守備につく。

 

 試合は進み、3回、4回、5回と回を重ねていった。そしてゲームが動いたのは、6回表の俺達の攻撃。

 カウントは2アウトでランナーが一塁と三塁に出ている場面で、回ってきた俺の打席。バッターボックスに立ち、木製バットを握りしめて構える。相手ピッチャーの警戒は予定通りに薄い。

 

 というのも俺は最初の打席こそヒットを打ったが、その後はすべて凡打でアウトになっていた。ピッチャーの投げるボールは全て見えていたし、ホームランを打とうと思えば打つことも簡単だった。なのだが、意識的に凡打になるようにボールをコントロールして、バットに軽く当てて終わらせていた。

 

 全ては、必要以上に相手チームに警戒心を持たれないようにする為に。バッターとして圧倒的だと、敬遠策をとられるかもしれない。そうすると、打てたとしても打たせてもらえなくなる。

 

 最高にタイミングの良い場面で打席が回ってくるのを待ち、ココぞという場面で打ってやるための布石。そして、今の場面でヒットを打ってやるのが非常に効果的だと俺は判断した。

 

 ピッチャーが投げてきたボールは、変化球。まずは自信のある球でストライクを取るつもりらしい。だが残念。その目論見を俺は崩してやる。

 手元で鋭く変化する球を、バットで芯を捉えて斬る。カキンと、木製バットなのに金属の鳴るような音を響かせて球が飛んだ。

 

「っ!」

「「「あぁぁぁぁぁ!」」」

「「「うぉぉぉぉぉ!」」」

 相手ピッチャーは俺が打った瞬間シマッタ! という表情を浮かべてグラウンドに膝から崩れ落ちた。そして、両チームの片方のベンチから悲鳴と、片方のベンチからは歓喜の声が上がった。

 

 そのまま俺の打ったボールは地面に落ちること無く、どんどん飛距離を伸ばしていく。横浜中央高校の柵すら大きく超える特大ホームランだった。

 

 一番打たれると精神的に厳しいだろう場面で、ピッチャーの自慢であろう変化球を容赦なく打ってやった。これで俺たちのチームは、かなり勝利に近づけただろう。

 


***

 


 6回表で試合は3対0となった。そして結局、そのまま相手チームに得点を許さず9回まで無失点に抑えた剛毅。練習試合とはいえ、彼は甲子園出場経験もあるような強豪校を相手取り、完封を達成することとなった。

 俺達でも甲子園の出場が可能だろう、というような大きな自信をつける事が出来た練習試合となったのだった。

 

 甲子園出場への道が夢ではなく、現実味を帯びてきた。

 

 

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