キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

第10話 初の対外試合(本戦)

 横浜中央高校の監督が、一回裏の攻撃が続く中でタイムを掛けて試合が中断した。何やら話が有る様子で向こうから歩いてくるので、こちらの監督を務めてくれている嶋岡先生がベンチから立ち上がって対応しに行った。

 

 試合が中断されて、困惑してグラウンドに立っている選手たちを待たせている中。バックネット裏で二人はしばらく話し合いを行った。そして話が纏まったのか嶋岡先生が笑顔を浮かべて、俺たちのベンチへと戻ってきた。

 

「この試合は、コールドゲームとして君たちの勝利となった。おめでとう」

 一回裏の攻撃でワンナウトも取れず打順が一周して点差が開いていく一方、この先も逆転の可能性が非常に低いので試合を打ち切りたい、という申し出が向こうの監督からあった。ということで、初の対外試合は俺たちチームが大勝という結果を得ることになった。

 

「よっしゃ!」「初勝利だぜっ!」「まさか強豪校を相手に勝てるなんて!」

 試合に出ていた選手、ベンチで待機していた控えメンバーも皆が勝利を喜んだ。いつもの学園での楽しんでやる練習試合では得られない、今回も練習試合とは言え本気で勝ち負けを掛けて挑んだ試合で戦い、勝てた。喜びもひとしおだ。

 

「話は、まだある聞け! もう一つ向こうから提案があった。選手を変えて、もう一試合したいとお願いされた」

 勝利を喜ぶチームの皆に向かって嶋岡先生が続きの提案について話す。それは、再戦の申し込みという話だった。

 

「さっき試合に出てきていた選手はみんな、横浜中央高校で育成途中である二軍のメンバーだったらしい。しかし、次はもっと強い子達を出してくると向こうの監督に言われた。さて君たちは、どうする? 再試合を受けるか、断るか」

 再戦の申込みを受けるかどうか。強豪校に勝てたという実績を得たまま、今日の対外試合は終わりにしたほうが良いんじゃないか、という考えらしい嶋岡先生。

 たしかに勝った経験を得たまま、初の対外試合を終わらせるのも一つの考えだと思う。しかし俺の答えは既に決まっている。せっかく練習試合を申し込まれたのだから、受ける以外に選択肢はない。

 

 向こうは本気のチームで挑んでくる。嶋岡先生は俺達のチームを案じて選択肢を示してくれたけれど、勝っても負けても良い経験に出来るはず。甲子園出場に向けて色々と体験しておきたい。

 

「もちろん、受けて立ちましょう。皆もいいよね」

「当たり前だろ」「次も勝とうぜ!」「本気を見せてもらいましょう」

 チームのキャプテンとして再戦を受け立つ、と答える。同意を求めてメンバーに意見を聞いてみれば、思った通り全員が再戦を受けようと積極的であった。

 

「わかった。もう一試合するということで、向こうの監督と話してくるよ」

 選手の意見を確認してから嶋岡先生はもう一度、横浜中央高校の監督と話し合いに向かった。そして対外試合は向こうの選手を一新してからもう一試合、行われることに決まった。

 コールドゲームということで、いま行われていた試合はこちらのチームが勝利という結果で終了。

 試合終了の挨拶でグラウンドの中央に整列する。向こうの選手からは、挨拶する際にも強く睨まれたり恨みを持つような視線を向けられたが、俺達は何も気にせずに勝利を満喫した。

 


***

 


 次の試合は10分後。再試合の準備が行われている間に、俺はピッチャーである剛毅と先程の試合について改めて話し合っていた。

 

「剛毅、さっきの球は最高だった」

「フフッ。今までにないぐらい調子が良かった、ってのが自分でも分かるんや」

 

「身体に違和感はないか? 肘の調子は大丈夫?」

「いつもと変わりはないぜ」

 

「なにか違和感があれば、隠さずにすぐに言うんだぞ」

「もちろん。賢人に隠し事はしいひん」

 

「じゃあ、次の試合も頼む」

「任せとけ!」

 剛毅は本番に強い。それはアイドル活動でのコンサートやライブの時にも感じていたけれど、野球の試合でもその持ち味が活かされている、というのがのが今回でよく分かった。

 

 彼の実力なら、そう簡単に負けることも無いだろう。唯一怖いのは怪我だった。調子がいいから、いつもと比べて飛ばしすぎで身体を痛めるのが心配だった。だが身体の様子を傍から見た感じでは問題無さそうだし、本人もシッカリと注意できているから大丈夫そうだった。怪我だけには用心して次の試合に挑もう。


 向こうの選手が準備しているのを待っている間に、先程の試合で得た経験を復習するために皆とも簡単に反省会を行う。

 と言っても守備は剛毅のピッチングだけで終わってしまったし、バッティングに関しても相手投手はそれほど脅威ではなかった。だから話し合えることは少ない。次の試合では、もう少し色々と経験できるだろうか。

 

「向こうの選手の準備が終わった。次の試合も頑張れよお前たち」

 監督である嶋岡先生からの激が飛ぶ。俺もキャプテンとして勝利に向けて、皆に呼びかけた。

 

「まず試合で一回勝つことが出来た。しかし次の試合に出てくる選手たちはレベルが違うだろう、油断せずに行こう」

「「「おう!」」」

 先の試合で勝てたことで、皆のやる気も十分。しかし、油断は禁物だと俺は皆に釘を刺してから試合に挑む。次も勝ちを狙おう。

 

 グラウンドに向かい合って並ぶ。さっきの選手と見た目から違って、よく鍛えられた身体をしているのが分かる。俺達と同じように甲子園への出場を目指していて、俺達以上の時間を掛けて日夜練習を続けているのだろう。

 

「二軍の奴らを倒したからって調子に乗るなよ。無様に負かせてやる」

「次も勝つのは俺達ですよ。宜しくおねがいします」

 向こうのキャプテンだろうか。試合開始前に握手を求められたので手を差し出すと、ギュッと強い力で握られた。何だと思ったら、ぼそっと俺にだけ聞こえるぐらいの小さな声でそんな言葉を口にする。

 

 調子に乗っている、なんてつもりはない。しかし先程の試合、一回裏でコールドゲームという事で試合終了と手ひどくやってしまった。

 

 向こうも負けたままでは面目が立たないだろう、本気で立ち向かってくる気だ。ただ、それは望み通りの展開だった。自分たちの力がどこまで通用するのか、今回の試合で確認してやる。

 

「プレイボール」

 そして主審の声で始まった本日二試合目の対外試合。今度は俺達のチームが先制となったので、バッターボックスには優人が立っている。

 相手投手が投げるボールを、俺はネクストバッターズサークルに立って素振りをしながら観察する。先程の一試合目に出てきた選手と比べて、やはりレベルが違う。球も速いし、キレのある変化球も投げてストライクを取ってくる。コントロールも良さそう。

 

 優人は慎重にじっくりと投手の投げる球を見極めていて、三球目に何とかバットに当てて打ち返した。

 

 けれども芯を外され、バットに当たったものの威力無く緩く転がっていった球はショートにキャッチされて内野ゴロの凡打に終わった。

 

 次にバッターボックスに立った俺は甘い球をカットして、ヒットを狙わずボールを見極めたりして粘った。

 

 ツーストライク、スリーボール。鋭いカーブがストライクゾーンギリギリに入るのを見逃さず、上手く打ち返してライト前ヒットとなった。

 

 俺は一塁に立ちながら、先の打席を振り返る。まず一打席を立って感じたこと、変化球は剛毅に比べると相手投手の方がキレがあって打ちにくかった。だがしかし、ストレートに関しては剛毅の方が威力があって球速もあるようだ。

 

 ワンナウト、走者一塁のみという状況で拓海がバッターボックスに入る。初球を打ち上げてしまい、センターが楽々とキャッチしてアウトとなった。

 

 そしてツーアウトで迎えた四番打者である宗崎くん。相手チームも四番打者相手に警戒しているようだった。相手投手の巧みなピッチングよって残念ながら三振となって攻守交代。向こうチームメンバーが非常に盛り上がっていた。

 

「さぁ、皆。今度は守備につくぞ。心配することはない、試合は始まったばかりだ」

 ベンチに居る皆は、一回表で点を取れなかった結果に気落ちしているようだったけれども、俺が言ったように試合はスタートしたばかり。

 

 しかも、優人は相手投手を初見で一打席目からバットに当てることも出来ていた。俺も相手の切り札らしい変化球を初めから出させることに成功して、ヒットを打てている。

 

「さすが強豪校のレギュラー選手だった、ということだ。しかし負ける気は無い。じっくりと攻めていこう。そして野球を楽しんでいこうぜ!」

「「「おう!」」」

 キャプテンとして皆を鼓舞する。気持ちを切り替えてもらって、一回裏の攻撃に守備位置に向かう仲間達と一緒に俺もグラウンドに飛び出した。

 

 

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