キョウキョウ NOVEL's

キョウキョウ著によるオリジナル小説を公開しています。

あべこべ世界、エロ漫画家として頑張る

 北島(きたじま)タケルはキンキンと鳴るアラーム音を聞いて目を覚ますと、体は起こさず横たわったままサイドテーブルに手を伸ばして目覚まし時計のスイッチをオフにした。

 

 時刻は早朝5時。まだまだ眠気を感じて辛いけれど、一気に体を起こして自分を奮い立たせながら起きる。そうしないと、二度寝に突入してまうので出来る内に目を覚ますのがタケルの朝の日課だった。

 

 ベッドからおりて、遮光カーテンを一気に開く。まだ太陽が登ったばかりで外は薄暗くて空は濃い青。更には、窓を開けると冷たい空気が部屋の中を吹き抜けた。

 

「寒っ」

 眠る時はパジャマを着ない派のタケルは、シャツにパンツだけというラフな格好。日中は暖かくなってき5月の季節。だが、まだ朝は寒い。肌寒いが、その空気の冷たさは目覚めに丁度いいからと開けた窓からベランダへと出てから陽の光を思い切り浴びようと、大きく両腕を上げ体を伸ばし深呼吸した。

 

「あっ」

 タケルは道路を挟んで向かいにあるビルから見ていた1人の女性の存在に気が付いて、小さく声を漏らした。その女性は、じーっとタケルの方へ視線を向けて外さない。気付いた後は、慌ててベランダから部屋の中へと戻るタケル。

 

「また、やってしまった」

 そう言って反省しつつ、窓とカーテンを閉めて外から見えないようにしてから寝室を出た。

 寝室部屋の扉を通るとリビングがあり、その奥にあるキッチンには1人の若い女性が立っていた。彼女はタケルが目覚めるもっと前の朝早くから活動を始めていて、朝食の準備を進めていたのだ。

 

「あっ、北島さん! またそんな格好をして部屋の中を歩いて! は、肌が丸見えじゃないですかッ!」

 エプロン姿で朝食の準備をしていた女性、二階堂早百合(にかいどうさゆり)は寝室部屋から出てきたタケルの姿を見て驚き、怒りながらそれを指摘をした。男性がそんな格好で出歩くべきではないと。

 

「ごめん、早百合さん。すぐに着替えるよ」

「今、隠してください。他の子に見られますから」

 洗面台に向かい顔を洗ってトイレを済ませて朝の支度を終えてから、その後に着替えようと考えていたタケルだったが、早百合はそれでは遅いとバスタオルを急ぎ持ってきたバスタケルで体を隠した。タケルの肌が外からは見えないように覆い隠す。腕や足まで全身を見えないよう、スッポリと。

 

「あなたは男性なんですから、もっと異性関係には注意して純潔を守ろうと意識してください。昨日だって……」

「ごめん、わかった。今度から注意するよ。顔洗ってくるね」

 長くなりそうな説教を始めようとする早百合の言葉に先んじて謝り、バスタオルにくるまりながら慌ててその場から逃げ出すタケル。反省したような様子を見せないタケルにため息をつく早百合。

 タケルに説教をするのは嫌いだからではなく、愛情の為だった。そして、何度目かの助言を聞き入れてくれないタケルに呆れつつも、彼のことは嫌いにはなれない早百合だった。むしろ、いつも指摘する時に見られるタケルの肌は説教する自分だけの役得だと感じているぐらいだった。

 


***

 


 早百合の説教から逃げて洗面所へとやって来たタケルは、くるまっていたバスタオルを取り外して再びシャツとパンツという大雑把な格好に戻っていた。

 

「いつまでも慣れないなぁ」

 タケルの意識としては、自宅でゆっくりくつろぐ男はパンツ一丁で過ごすのが普通だ、というぐらいの感覚だった。

 

 流石に若い女性の前ではもう少しシッカリした格好で居た方が良いという考えはあるものの、男がバスタオルで腕や足まで全身、肌を見せないよう隠す必要はないんじゃないかなと思っていた。しかしタケルの考えの方が、この世界の常識から考えると変わっていると言えた。

 

 男性は簡単に異性に素肌をみせるべきじゃない。それがこの世界の常識だった。女性の方が肌を過度に露出していて隠すべきなんしゃないかと考えているタケルとは、逆の観念だった。

 男性は異性から向けられる視線に肌を隠すべき、そう考えられるようになった理由についてをタケルは理解していた。この世界における男性人数の少なさが原因だろうと。

 

 この世界は男女比率が非常に歪であり、人口の約1%しか男性が居ない。99人の女性に対して男性は1人しか居ないという割合である。しかも年々減少傾向で、更に男性という性別の人間は減っている。それだけ男性という存在が貴重であるという事。

 性別が男性であるという事だけで世間から守られ大事にされる。そして、男性は自ら大多数である異性達から身を守るようにと小さな頃から意識付けられている。その結果、女性にはむやみに肌を見せつけない男性、というのが常識だった。

 

 けれども、北島タケルの持つ常識は違っている。先程の出来事からも判るように、女性に対して肌を見せることに特に抵抗は無かった。彼の常識の中には無いから。そうなった事にも理由があって、タケルはこちらの原因もシッカリと理解していた。

 というのも、彼自身の特異性。男女比50対50という世界での人生を送ったという頃の記憶を持っていたから。いわゆる転生という出来事の記憶について。

 

 タケルは男女比が50対50という均等となっている世界で生まれて、普通の人生を送り、死んだというハッキリとした一生を過ごした頃の記憶があった。

 死んだと思っていた彼は、次に目覚めると何故かまた赤ん坊の頃から人生を送り直す羽目になり、前の世界とは常識の違う場所で生活を送ることになって今現在に至っていた。

 一度目の人生が意識としては普通の世界、彼の常識となっていた。そして二度目の世界というのは前の世界に比べてみると変わっているという、彼の目線から見れば”あべこべ”な世界だという感覚になっていた。

 だから今でもタケルにとっては、女性に肌を見せない男性、というのは慣れない常識であった。

 

「でも、やっぱり慣れていかないと駄目だろうなぁ」

 起き抜けの顔を水で洗い流しながら、早百合に言われた格好の事についての現状を考えて反省をするタケル。するとその時、洗面所の横にあるトイレの扉が開いて中から人が出てきた。

「あ、ごめんないさい先生」

「う、こっちこそゴメン」

 タケルと同じ様な薄着、タンクトップにパンツだけという格好をした女性の名は甲斐萌水(かいもえみ)。

 トイレから出て来た彼女はタケルが居るとは思っておらず、しかも彼の薄着を見てしまった事について謝った。強引に惹き寄せられる視線を外しながら。

 そしてタケルの方も、ブラジャーを付けておらず布地も薄いせいで萌水の豊満な胸の形をハッキリと目にしてしまって、謝りながら慌てて視線を外していた。

 トイレから出てきた萌水と朝の支度をしていたタケル、お互いが明後日の方向に視線を向けながら洗面所の前に立ち向かい合っていた。

 男性に関しての貞操観念はシッカリとしているのに、女性に関しては逆に無頓着になっている世の中で、萌水の惜しみ無い格好を男性が別に目に見てしまっても謝るほどの事ではなかった。けれども、タケルは前の世界の常識から考え判断した結果による咄嗟の行動だった。

 

「先、どうぞ」

「いや、はい先生。すみません」

 タケルはまだ朝の支度に洗面所を使うつもりだったので場所を開けて、萌水に先に用事を済ませるよう指示した。譲られた彼女は言われた通りに先に使わせてもらって、手をサッと洗い流すとすぐにその場を離れていった。

 萌水が手を洗って離れるまでの間、2人共がセクハラにならない様にという同じ理由で互いに配慮し、視線を無遠慮に相手へと向けないように注意しながら一時を過ごしたのだった。

 それから萌水が洗面所から離れていって再び一人になったタケルは、洗面台の鏡の前に立つと呟いた。

 

「うん、やっぱり格好はしっかりした方が良いか」

 目覚めた直後の眠気覚ましにベランダに出て向かいのビルから凝視された事、そして早百合に格好の事について注意されたその直後、今のような気まずい出来事が起こった。

 格好に関して連続して事が起こった今朝の状況を思い返し、タケルは流石に自宅とはいえ格好はしっかりした方が良いかと思い改めるのだった。

 


***

 


 朝支度を終えて、早百合が用意してくれた朝食を食べた後。早速タケルは自宅に有る作業部屋に入り、仕事に取り掛かろうとしていた。立派な机に座ってから原稿用紙を目の前にして筆記用具を握っている。これから彼は、ネームを描くという作業を執り行おうとしていた。

 

 そう、タケルの仕事というのは漫画家だった。

 

「それじゃあ、皆さん。今日もよろしくおねがいします」

「「「「お願いします、先生」」」」

 その部屋にはタケルの他にも早百合に萌水、その他にも何人かの女性が居て彼の口にした言葉に応えてくれていた。彼女達は、漫画家をしているタケルのアシスタントとして付いてもらっている女性達だった。

 作業部屋に居る男は1人、タケルのみ。その他のアシスタントをしている皆が女性であり、仕切られた机に並んで座りながら紙を目の前にしてペンを握り作業をしていた。

 

「今日の午前中にネーム初稿を仕上げて、午後からは編集者との打ち合わせ。時間は大丈夫かな」

 本日の予定を呟きながら確認しつつ、スケジュールが迫りつつ有る連載中の漫画のネーム作りに入る。アシスタントの女性達には同時に掲載している作品について、ペン入れは既に終わっているモノ、後は仕上げにベタ塗り、トーン貼り、効果線等を入れるという作業についてを指示して行ってもらっていた。

 作業部屋の中、皆は静かでカリカリと紙に書き込む音。他に聞こえる様な音も特になく皆が集中して作業に取り掛かっているのが判る。そして時折、作業確認のために会話をしたりもする。その時に聞こえる声ぐらいの音だった。

 

「あ、あの。先生、ちょっと相談が」

「どうした?」

 アシスタント女性の1人が遠慮気味に、しかし困ったという表情を浮かべて作業中であった紙を手に持ち、タケルへ相談しに来た。

 

「ここを、どう塗ればいいのか迷ってしまって」

「なるほど、ここは」

 女性が指差しどうするべきか相談した箇所、というのは男性の性器についてだった。

 そう、北島タケルの描く漫画は少年少女向け等ではなくて、ガッツリと成人向けに描かれたエロ漫画だったのだ。

 


***

 


 午前中の作業を終えて、午後の編集者との打ち合わせ。タケルの自宅にある作業部屋にやって来た編集者である女性、仲里咲織(なかざとさおり)は彼が午前中に仕上げたネームのチェックを行っていた。

 

「はい、バッチリオッケーです。これは下絵に入ってください」

「了解しました」

 何箇所かの訂正は入ったものの、大きな変更はなく笑顔の承認がおりて予定通りに次の作業へと移ることができてホット一息つくタケル。

 その後、進行中の雑誌連載の漫画について進捗状況やスケジュールを確認したり、近々発売される予定の新刊についての話をしたり、出版社に送られてきていたというファンレターを渡されたり、といった打ち合わせが行われた。そんな話し合いが行われて終盤に差し掛かった頃、タケルが確認するように咲織に尋ねた。

 

「ところで、以前僕が出した漫画の企画はどうなりました?」

「あー、それはですね、えっと」

 タケルが出した企画というのは、性描写の無い一般向け漫画というものだった。以前提案された企画について尋ねられた咲織は、どう話すべきか迷い言い淀んでいる。

 

「やっぱり、駄目でしたか?」

「ハッキリ言ってしまえば、駄目でした」

「そうですか……」

 言いにくそうにしている、咲織の様子から状況を察したタケル。そして、編集者である咲織からバッサリ切られてしまい落胆する。

 

「で、でも成人向けの企画なら幾らでも通せますから大丈夫ですよ! 需要はあります」

「ありがとうございます」

 咲織のフォローが入り、少しだけ気持ちを立て直したタケル。漫画家として連載を持って描けているだけマシだと、心底理解していたから。

 前述の通り男性の数が極端に少ないこの世界では、男性の漫画家なんて過去を含めてみても数えるぐらいしか居ない、しかもエロ漫画家なんてタケル以外には皆無という状況だった。

 

 それから北島タケルというエロ漫画家には、女性エロ漫画家では描けないようなリアルな男性性器の描写ができるというアドバンテージがあった。

 男性の存在は貴重であり守られているこの世界では、エロの資料にできるような男性に関する性的な情報の流通が少なくて、入手するのが実は難しかった。だがしかし、タケルは自身で資料に出来るモノがあるし他の女性に比べれば圧倒的に見慣れているので、漫画にして描ける。

 

 それに実は前世でも漫画家をしていたタケルは、圧倒的な経験と培ってきた技術があるので絵も他の漫画家と比べ平均水準を大きく超えて上手かった。

 前世で彼が生み出した作品はヒットして、アニメ化する程度には人気も得ていた。その後に続くヒット作が生み出せずに、いわゆる一発屋と言われるところで終わってしまったのだが。

 

 ともかく、男性エロ漫画家であり、他にはないリアルな性描写、そして普通に絵も上手。そんな彼の作品は既に多くのファンを得ていたので、各雑誌社から引く手あまたというような状況。

 

 彼の書いた最初の成人向け漫画が類を見ない売れ方をして売れすぎてしまい、今では一般向けの漫画ではなく、唯一と言っていい男性漫画家である北島タケルにしか描けないような漫画、つまりは成人向けを求められるようになってしまった。

 

 その結果、彼が当初考えていた状況とは違って成人向け漫画を描くエロ漫画家として求められるという予想とは違う難儀な状況であったものの、とりあえずココまで来てしまったのだからタケルは、一般向けの漫画連載を狙いつつも、エロ漫画家として成功しようと頑張っているのだった。

 

 

目次

【スポンサーリンク】