人生ハードモードのクリア特典

 男の人生は苦難の連続だった。それはいわゆる、人生ハードモードと言われるような人生だった。

 まず容姿が一般的な平均値よりも遥かに低く、その見た目によって女性どころか男性にも敬遠されたために、非常に交友関係が狭かった。

 運も良くなかった。生まれてすぐに親に捨てられて、孤児院暮らし。子供の頃は色々な出来事に巻き込まれて災難な目にあっていた。しまいには、巻き込まれる方が悪いとまで回りから言われたりもした。

 大人になってからも災難な出来事に巻き込まれていった。その1つが痴漢の冤罪を着せられた事。そのせいで、何とか手にした仕事はクビにされてしまった。後に女性が同じようなトラブルを複数回起こしていて詳細な調査が入り冤罪だと判明したが、罪を着せられた男からは、事実と違う悪評は消え去らなかった。

 頭も良くはなかったが、男は人の何倍も努力して知識をつけていった。コレは、友達が居なくて遊ぶ事もなく、女性との付き合う機会もなくて他にすることがなかったから勉強するしか無かったからだったが。しかし、男は頭の悪さは時間と努力でカバーしていった。

 結局、男は生きていくことで精一杯だったし生涯独身で最後は癌という病に冒される事になってしまい、家族も恋人も友人も居ない、最期を看取る人間が居ない孤独な人生だったけれど。

「まぁ、色々有ったけれど嘆いても仕方がない。精一杯に生きてきたんだから悔いはない。来世に期待するさ」
 男は小さくつぶやいて人知れず亡くなっていった。男の耳に謎の言葉が響いた。

—人生ハードモードのクリアを確認しました。


***

 

「坊ちゃま!」
 声を上げながら廊下を走っている彼女は、セシル家に仕えるメイドの1人で名をアマリアと言った。

「あ、ヤバイ」
 そして、女性の声に気づいて焦ったような声を上げた彼はセシル家の長男で、名はルンメと言った。

「坊ちゃま! また、勝手に起きて、勝手に着替えて、勝手に出歩いて! 何時も言っているでしょう、メイドの仕事を減らさないでください!」
「しかし、アマリア。自分で出来ることは自分でしないと気持ち悪いじゃないか」
 ルンメの反論に眉を上げて怒るアマリア。

「そんな事を言ったって! 貴方は4才児の子供でしょう。一体どこの貴族の子供が世話を受けずに生活をしているというのですか?」
 ルンメという男は、生まれた頃は夜泣きもしない静かさで大人しく手間の掛からない赤ん坊だった。一度以上の子育てをしたことのあるメイド達は、その時の子育ての経験とルンメという赤ん坊とを比較して如何に彼が世話しやすい赤ん坊かを力説し、将来は他人を思いやる素晴らしい人間に成長するだろうと予想した。

 しかし、その予想は間違っていることがすぐに解った。1歳になる前から自分の着替えを自分でやるようになった。ルンメの世話をするために付いているメイドが、朝起こしに行くと自分で起き上がって寝間着から着替えを終えているのだ。
 何度もメイドの手を借りるように説得するが、彼は他人の手を借りるまでもないと何でも1人でこなしてしまう。

 確かに自分で出来ることは、出来る限り自分でしようとする考えは素晴らしいと思うけれど、一般的な常識としては貴族の人間が人を従える事はステータスシンボルの1つとなっていて、メイドという仕事は女性が働ける場所で雇用の大半を担っている。それを必要ないと拒否するのは、女性の働く場所を潰していることになる。そんな事を懇切丁寧に話してみると、しぶしぶ納得といった感じでメイドの世話を受けるようになった。

 こんな風に貴族としては少し変わった少年だったが、普通の人間としてもどこか違う感覚を持っているのか、それとも彼こそが真の貴族なのか。そう感じさせる出来事を次々と起こしていった。

 それぞれ起きした出来事は奴隷民雇用改革、王子と令嬢との婚約破棄の解決、そして隣国に召喚された勇者の引受等など。

 

***


 私は貴族として生まれた貴い人間だった。しかし、私の父がとある貴族に騙されて家は没落させられて、私は奴隷に貶されてしまった。
 女であるという事実から、男の欲望を解消する性的な事をする奴隷仕事をさせられると知って絶望している最中に助けられた。私を死ぬよりも苦しくて酷くて無慈悲な世界から救ってくれた男性の名はルンメ様。

 彼は、人の不幸を嘆き悲しみ、人を助けたいと願った。その手段として世界中の奴隷を買い集めた。そして、買い集めた奴隷たちに彼は向き合って能力を調べ、適性を知り、適切な仕事を与えた。
 常識的に考えれば奴隷には農作業や建築のための資材集め等の領民にも任せない力仕事しか割り振られない。しかし、彼は奴隷にも知的な仕事を割り振った。例えば、教会の聖職者に、法律に関わらせる法曹家に、そして領地の運営に関わらせたり、果ては医者という高度な知識を必要とする職業に就かせた。

 私は奴隷の一人として彼の家が持つ領地に集められて、お付の秘書官として仕事を割り振られた。秘書官は領地の責任者に補佐として付き従い、領地の運営に関する様々な仕事に携わる重要だった。そして、ルンメ様は学生をしながらも既に一部領地の運営を任されていたため、私が過去、奴隷になる前に貴族としての教育を受けていたため、彼の補佐に私が選ばれた。

「ルンメ様、今日はこの資料の確認からお願いします」
「あぁ、ありがとう。エリス」

 私が差し出した紙を受け取りながら、ルンメ様は柔らかい笑顔を私に向けてくれた。
 私は彼の眩しい笑顔を見守りながら、助けられた恩を還すために一生を彼に捧げようと決心し、彼に尽くしていった。


***

 

 私は、小さな頃に王子と婚約を結び、そして将来は王妃となる予定の人間だった。

 しかし、ある日学園で催される一年に一度のパーティーでの出来事。貴族の子はもちろん、親である貴族当主達が多数集まる場所で、声高々に王子から私は婚約破棄を言い渡された。

 王子から投げられた言葉に最初は混乱し、そして次に王子からなじられて頭が真っ白になっていた。今では内容も覚えてない、王子からの数々の言葉を聞きながら、その時になって王子に寄り添って立つ名も知れない女性を見つけた。

 私は、無意識に女の首に手を伸ばした所。気がつけば、ルンメ様に抱きしめられていた。

 その時は、それほど親しくなかったルンメ様。でも、学園では武に優れ、知に優れ、品格に溢れる高貴な人として有名で一方的に知っていた。けれど何故という疑問。

 後になっての話だが、何故だったのか訳を聞くと、私の顔色は真っ青で目が据わっていて、空中に浮かぶ腕が王子に寄り添う女性に伸びていたので良からぬことをする前に、腕を掴んで止めようとしたらしい。そこで私の身体がガタガタと震えるのを手に感じて、抱きとめて落ち着かせようとしてくれて居たとのこと。あの時は、婚前前の女性を抱きしめてしまい申し訳なかったと謝られたが、私はむしろルンメ様に抱き止められたことを嬉しく思い、そして感謝していた。

 それからパーティー会場での続きの話、私を抱きしめながらルンメ様は王子に対して、何故このような貴族の集まる場所で婚約破棄を言い渡したのか、王子の判断で手続きもせず周知もしないでいきなり行動するのはどうか、多くの人が見る目の前で女性に対して非難の言葉を浴びせかけるのはいかがなものか等など、王子を批判したらしい。

 このことで王子が逆上、王族に逆らった事を後悔させるためにルンメ家から領土を取り上げると息巻いてパーティー会場を後にした。その後、私の父も結婚破棄の顛末を聞いてネヴィル家とルンメ家が連合を組んで、王族と対立するという状況になっていった。
 もう少しで王国対ネヴィル家・ルンメ家連合とが内戦に突入という緊張状態になって、状況は一変。どうやら、結婚破棄に至る原因が王子の側で寄り添い立っていた女性にあって、その原因が彼女の虚偽にあったらしく、私は有りもしない罪を着せられて王子に悪感情を抱かせていたそうだ。
 もちろん、王族を騙すという罪によって名も知れない女性は不敬罪によって徒刑に処されたと聞いている。

 あれから王子から復縁を求める手紙を何度も頂いているが、父親を経由して復縁は断っている。勘違いしていたとはいえ、婚約破棄されたという事実は消えないし王族という立場から言い渡された破棄の言葉は簡単に撤回することは出来ない。ましてや、あんなに貴族の集まる場所で言い放たれた言葉だ。無かったことには出来ないだろう。そう言い訳して、あの王子との縁を断ち切ることにした。

 結局、私は婚約者を失ってしまった。で、今は何をしているかと言うと。

「ルンメ様、お茶のおかわりをどうぞ」
「ん? ありがとう、ベアトリス」

 読書中のルンメ様と一緒に過ごしている。あの婚約破棄騒動があって以来、縁ができた私とルンメ様は、親同士が一時期本気で王族打倒のために連携して動いたために娘、息子の私達も自然と仲が深まっていった。そして、現在は私の方から男女の関係に発展させるためのアプローチをかけている途中であった。


***


 私の名前は黒石千早。平和な日本で生まれ育って女子高生として生きていたのに、何の因果か勇者となってしまった。

 異世界にある国が行った勇者召喚というものに選ばれて連れてこられて、私は気が付けば勇者として神輿に担がれてしまっていた。しかも、敵の魔王は何処に居る? と聞けば、魔王なんて居ないと言われ、じゃあ目的は何ななのか、何を倒せば良いのかと聞けば、敵国の人間を殺してこいと言われた。

 何じゃそりゃ、勘弁してよと思ったために、隙を見て逃走。もちろん召喚された国から兵隊が派遣されて私は追われるようになったから、必死に逃げた。

 辿り着いた先は奴隷民領地と言われている場所で、最初は名前から関わり合いになりたくない、通り抜けようと思っていた。けれども、コレまた何の因果か兵士に追われて、関わり合いになりたくないと思っていた場所へ逃げ込むことになった。

 コレは、この土地で奴隷にされるのかな、でもあの国の人間に捕まって無理やり殺人をさせられるぐらいなら奴隷のほうがまだマシかな、なんてネガティブな考えで居たら、想像とぜんぜん違う場所だった。
 料理は美味しいし、宿は綺麗だし、しかも人間が皆優しい。まさか、こんな人達を殺せと言っていたのかあの国は! と怒りながらも久しぶりの平和な一時。

 で、やっぱり領地を管理している責任者がやって来た。多分私の引き連れてきた追手が領地に迷惑かけているんだろう、私は説明しないとイケナイなと思って責任者と面会した。

 思いの外に若い人間が責任者として出てきて、互いに自己紹介。彼の名前はルンメ様と言って学生をしながら、次期当主として能力を高めるために領地の運営を勉強中らしい。

 私が逃げ込んだばかりに彼に悪いことをしてしまったなと思いつつ、経緯を説明。すぐに厄介事として領地から追い出されてしまうだろうと思ったら、なんと彼は私を助けてくれるという。

「何故私なんかを助けてくれるのですか?」
「僕は困った人間を見過ごせなくてね」
 私は異世界に来て初めて、涙を流しながら彼に助けを求めた。

 それから、涙を流して助けを求めたは良いけれど私のせいで戦争が始まると考えて、沢山の人が犠牲になることを想像していたけれど、ルンメ様が私を召喚した国と交渉を始めて、どうやったのか分からないけれど、私という勇者を管理する権利を奪ってきた。それに加えて、もう二度と勇者召喚をしないように確約させたらしくて、勇者召喚するための方法を破棄したという

 普通の女子高生が勇者にされた時には絶望しか無かったけれど、ルンメ様に出会えたことは一生に一度の幸運だと思う。この幸運を逃がさないように生きていくことを私は誓ったのだった。

 

***

 

 前世の記憶なんて物が僕にはあるけれど、その記憶のおかげで僕は今最高に幸せな人生を送っている。前世の辛い経験、どうしようもないと絶念してしまったあの時の事を思い出すと、今世を必死に生きていける。前世の苦労は買ってでもせよ、という事だろう。

 そんな僕は、色々な事をやってきた。奴隷という不幸の人達を助けて、王妃様になるはずだった女性を助けて、まさか前世の世界からやって来た勇者と言われるようになってしまった女性も助けた。

 僕は彼ら、彼女らのような不幸な状況に置かれている人間を助けずには居られなかった。僕が不幸のどん底で助けを求めても誰も助けてくれなかった、あの時に感じる絶望感を味わうような人間を1人でも減らしたいが為に。

 幸い、前世に比べていくらか容姿も優れて、ちょっぴり運も良く、頭も多少は良かったので不幸の人を助ける為の戦いに赴くための武器は多く持っていた。

 最初に手を付けたのが、奴隷制度。父を説得して領地の一部を引き受けた後、その領地を運営するために注目したのが奴隷達。あのように人材を無駄に力仕事にしか配置しないのを勿体無いと思ったので、彼ら彼女らを引き取って一番輝ける仕事に配置した。
 中には奴隷根性が染み付いていて、力仕事しかやりたがらない人達も居たけれど極力希望を聞いて配置していった。
 このようにして彼らに正しい仕事を与えて、人間としての尊厳を守りつつ、幸せな生活を送ってもらうように努力した。

 結果、奴隷を迎え入れることで領地が上手く栄えていった。優秀な人間も見出すことが出来て、彼らが頑張ってくれたおかげで更に領地は栄えていった。特にエリスという優秀な人間が手伝ってくれて、手に入れた利益を領民に還元してく。奴隷と領民とのバランスを取りつつ全員の理解を得ながら、更に奴隷たちを集める。いつかは奴隷という身分も取っ払って、全員が幸せに暮らせるように目指している途中だった。

 そんな風に領地運営を頑張っている最中、起こったのが王子の婚約破棄騒動だった。

 僕が通う学園で催されるパーティーに参加していた僕は思わず、婚約破棄を言い渡されて前後不覚になりながら不幸に突っ込んでいきそうな女性を抱き止める。王子の側に立つ女性に手を出していたら問題になっていた所、間一髪で何とかセーフ。

 しかし僕が王族である王子に目を付けられてしまい、ヤバイ状態になるだろうと予測していたのに、気が付けば王子側に否があったとして最高権力者から謝罪の言葉を頂くことになった。ついでに、ベアトリスという見目麗しい令嬢とお近づきになれた。

 で、一番最近の出来事が勇者を領地に迎え入れたこと。

 どこからかやって来た見たこともない衣服を着た女性が宿に居るという情報を聞いて、諜報部に調べさせていたら、どうやら他国で召喚された勇者だという。まさか、勇者召喚という物があるなんて知らなかった僕は、勇者の下へ。

 薄汚れて所々が擦り切れているセーラー服を着た女性。詳しく話を聞いてみると、僕の記憶にある前世に近い世界。現代からやって来たという女子高生。彼女の涙ながらに発せられた助けを求める声を聞いて、僕はすぐに動くことに。

 我が国の王を使って、隣国との交渉席を用意してもらう。その席で、色々な切り札を使って隣国から勇者を管理する権利と、勇者召喚の方法を奪い取った。すぐに勇者召喚の方法を破棄。二度と勇者が召喚できないようにしながら、他に勇者召喚という拉致行為として問題になりそうな物を探る事に。

 それから自由になったチハヤに、これからどうやって生きていきたいかを聞いてみたら、やりたいことは見つかってないけれど、とりあえず今は僕の近くに居たいと言ってくれたのでしばらくは我が領に滞在する予定としてもらった。

 このようにして、前世では考えられないぐらいに幸せな生活を送っている僕だった。

 

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