前世勇者のアイドル活動

 畳が敷かれた五畳半程の広さが有る個室。その部屋の中央で、二十歳前ぐらいの一人の男が膝下に座布団を敷いて正座をしながら新聞を読んでいた。

「よしよし、計画通りに事が進んでいるな」

 手に持つ新聞の一面を飾る芸能の記事を見ながら、男は一人満足気に頷いていた。

 そんな男が手に持って読んでいる新聞には、日本一大きいと言われているコンサート会場で先日開かれたあるアイドルグループのライブのファイナルステージが、満員御礼で大盛況で有ったという事が書かれていた。

 記事の内容によると、ライブが行われたその日に会場に駆け付けたファンの数は七万人を超えていたという。さらに、チケットを手に入れられなかったという人も会場付近に集結したそうで、コンサート会場付近にあの日は合計十五万人以上のファンが集まっていた、と書かれている。

 そんな人気絶頂を表すようなコンサートを行ったのは、ラテン語で勇気という意味を持つ「ウィルトス」と呼ばれるアイドルグループだった。そして、そのアイドルグループのリーダーを務めているのが、今も笑顔を浮かべながら頷いて新聞を読み込んでいる男、加賀健介(かがけんすけ)であった。

 加賀健介の事を紹介すると、次の通りである。

 堀の深い日本人離れした、日本一かっこいいと言われる美貌。背は180cmあるという高身長で手足も長く、程よく身に付いた筋肉もあってスタイルが抜群に良い身体。運動神経も常人と比べると飛び抜けていて、子供の頃から続けている剣道は十八歳の今で既に三段の持ち主。来年にも剣道四段の取得は、確実だろうと言われているぐらいの実力。そして、アイドルとして活躍するためのダンスや歌も上手という才能。人当たりもよく、人の事を正しく理解できて、人を惹きつけてしまうカリスマ性。

 神に愛されたように恵まれた能力をたくさん持って、アイドルになるべくして生まれてきたような人物である。

 その加賀を筆頭に、アイドルグループのメンバーも豊かだった。

 リーダーである加賀に並び立つぐらいに優れた美貌を持つ志賀優也(しがゆうや)。神がかり的な演技が出来る、岡田隼輔(おかだしゅんすけ)。末っ子気質を持っていて、メンバーやファンの皆から愛されている天谷友宏(あまやともひろ)。三枚目なキャラクターだけれど、実はダンスも運動も歌も器用にこなす中杉潤二郎(なかすぎじゅんじろう)。

 個性的なキャラクターを持った五人組のウィルトスは、一気に人気が高まりファンクラブの会員数は既に百万人を超えているという。

 このように大活躍な加賀だけれど、実は誰にも言っていないヒミツを一つ持っていた。それは、前世の記憶を持っているということ。しかも、前世とは今世と違って魔法や魔物というものが存在していたファンタジーな世界である。

 そんな世界で、加賀はかつて勇者をしていたという。

 加賀は、生まれた時から世界に現れた魔王を倒すという使命を持っていて、十五歳の誕生日を迎えるまでに、魔王討伐を成すために己を鍛え上げていった。

 十五歳の誕生日を過ぎた頃に、魔王が支配する世界を救いたいと願っているという一国の王と知り合うことになり、世界中を旅して一緒に魔王を打倒する手伝いをしてくれる仲間を集めていった。

 更には、旅の支援してくれるという商人達に助けられて、各地の村や町を襲っているという魔物から、市民たちを全力で守り魔物を討伐しながら旅を続けていった。

 そして、五年の歳月をかけて加賀は魔王城に辿り着いて、魔王と戦い討伐に成功して魔王の支配を振り払い、世界の皆の心から魔王の恐怖を消し去ることができた。

 その後、魔王討伐を成した勇者である加賀は、再び現れるかもしれない魔王に立ち向かう準備を一生涯続けながらも、人生が終わるその時まで幸せに過ごしたという。

 そんな前世の記憶を持って転生した加賀は、何故また新しい生を授かって見知らぬ世界に降り立ったのかを考えた。

 新しい世界では、前世で見たこともない技術にあふれていて、それなのに魔法も魔物も、そして魔王も存在しない。だから、人々は魔王の恐怖に怯えることもなく日々を安心して過ごすことが出来ていて、世界は平和だった。

 そんな平和な世界に何故、勇者である自分が生まれ落ちたのか。疑問を持って、生まれ変わってすぐの赤ん坊の頃に、起き上がれない身体に四苦八苦しながらも、とても悩んだ。

 加賀は考えに考えて、ようやく答えに辿り着いた。

 その答えとは、まだ見えぬ将来この平和な世界に魔王が降り立つのではないのか。だから勇者である自分が行うべきなのは、いつ現れるか分からないけれど将来に現れるかもしれない魔王を、打ち倒す為の準備をしなければならない! ということ。
 魔王を倒した後も、勇者であるという事実を忘れずに過ごしていた加賀は、生まれ変わっても自分が勇者であるという使命を忘れていなかった。

 加賀は前世の勇者としての経験を生かして、十五歳の誕生日まで再び自分を鍛え上げた。ファンタジーな世界で命を掛けて生きていた加賀は、親や友人たちが引くような方法と期間を使って、並の人間とは比べ物にならないぐらいな能力を高めていった。

 そして魔王が現れた場合に備えて、全世界に名を馳せるために芸能プロダクションに入り、社長とビジネスパートナーとしての関係を構築していった。さらに、優秀な仲間を集めて、アイドルグループ「ウィルトス」を結成した。

 アイドル活動を支えてくれるような経営者と出会い、いつの日か助けてもらうために、彼らを助けるためにCMや番組に出て、メディアの露出を増やしていった。

 名が広く知られるようになり、アイドル活動を進めていくうちにファン(守るべき民)がどんどん増えていった。

 加賀は、魔王が現れるその日まで準備を着々と進めて、戦いに臨むために支援者増やしていき、戦いに備えてファン(守るべき民)を認識していった。

 そして、加賀は伝説のアイドルへの道を一歩一歩進んでいくのだった。

 

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