第04話 ダンジョンへ行く前に

 ダンジョンへ行こう! と意気込む2人の女性達にちょっと待ったをかける。ダンジョンへ入る前に、互いについて知っておいたほうがいいと考えた僕は、少しの時間だけ話しあおうと提案。ダンジョンへ行く途中にある街の広場で話し合いの場を設ける事になった。

 広場には人がそんなに居なかった。朝を少し過ぎた頃で、昼間にはまだまだ遠いような時間帯だからだろうか。僕たちは、広場の隅の方に集まって目立たないように話を始めた。

「さっきは、姉さんがいきなり声をかけてごめんなさい。迷惑じゃなかった?」
「え!? 迷惑だったか?」
 2人は冒険者ギルドでの最初の出会いを話題にして話し始めた。

「いいえ、迷惑なんかじゃありませんでした。それよりもダンジョンに入ることができるんで助かりました」
 僕がそう言うとお姉さん(?)の方がニンマリと言った笑顔を妹さんと思われる女性に向かって浮かべる。
「ほら、大丈夫だって!」
「彼が親切で優しい性格だからよ。普通は、あんな風に女性が男性に声をかけるなんてビックリして警戒されるに決まってるわ。それにこの前だって、同じように声をかけたら無視された事だって有ったじゃない」
 再び2人の言い争いが始まる。しかし彼女たちの言い争いは、本当に険悪なムードと言うわけではなくて、じゃれ合うような互いの仲の良さを感じる。
「い、いや。あれはさぁ、私が馴れ馴れしくしすぎたからで……って今はそんな事はどうでもいいよ、シモーネ。それよりも自己紹介!」
 しかし、冒険者ギルドであったように言い合いが続いていくかと思ったが、僕の方を気にして直ぐにやめてくれた。

「えっと、じゃあ私から」
 笑顔を浮かべている女性から。
「私は、フレデリカ・クロッコ。人族の27歳よ。で、こいつが私の3つ年下の妹」
 側に立っている女性を親指で指して示すフレデリカさん。
「シモーネ・クロッコ。不本意ながら彼女が姉で、私は妹をしているわ」
「ソレで2人姉妹で冒険者をやってるんだ」
 本当の姉妹で冒険者をやっていると言うクロッコ姉妹。2人の自己紹介を聞いて、次は僕の番かと思い話し始める。2人の姉妹の視線をビンビンと感じる。

「僕はソートソンという森のエルフで、エリオットって言います。歳は、127歳」
 エルフの価値観を人間に当てはめると127歳と言っても青年と言われる頃だ。ソートソンに住むエルフ達の平均年齢は1000歳を超えていたみたいで、自分は彼ら彼女らに比べるとまだまだ若造である。

「やっぱり、エルフだったんだ」
 エリオットさんは、先ほど僕と冒険者ギルドの受付との話を途中から聞いていたそうで、僕がフードを取った瞬間に横顔と特徴的な耳を見てエルフだと予測していたそう。

「それで、何故1人でダンジョンなんかに?」
 シモーネさんが不思議そうな顔で聞いてくる。この世界の一般的な男性は荒事を非常に嫌う傾向にあるため、男性冒険者なんて非常に少ないそうだ。そんな中で、ソロで活動しようとしている僕のような人を初めて見たという。
 僕は、本当のことを話すべきか何処まで話そうか整理して語りだした。

「実は、故郷に帰る旅のために資金を稼ごうと思いまして」
「え? お金稼ぎなの?」
 これから一緒にダンジョンを攻略する仲間だから嘘はつきたくないので、ある程度までの事情を話すことにした。僕の答えに疑問をいっぱい浮かべたシモーネさん。やはりエルフという種族にお金稼ぎなんて俗っぽい事は似合わなかっただろうか。

「あ、ごめんなさい、驚いてしまって。お金稼ぎということはダンジョンの宝物狙いなの?」
「いえ? モンスターを倒してドロップ品である程度稼ごうかと思っていました」
 ダンジョン内で時々発見できる宝物は、見つけることが出来れば大金を手に入れることができる。しかし、見つけるのは非常に難しく運と実力を兼ね備えていないと発見できない。
ソレに比べて、モンスターのドロップ品はモンスターを倒していけばドロップしてくれるので宝物より期待できるので有効だった。僕は、そのドロップ品を狙ってダンジョン探索を進めていくつもりだった。

「あのよ、馬鹿にするわけじゃないんだけど、男のあんたがモンスターをどうやって倒すつもりだったんだ?」
 彼女たちは不可解な表情で僕を見ているので、何のことだろうと思ったがフレデリカさんの言葉を聞いて、そういう事かと思い至る。この世界の男性の殆どは筋力が弱くて頭もあんまり良くないし虚弱体質というのが、この世界に生きる人達の共通認識だった。
男性は弱い生き物であるという考えが一般常識で、だからこそ守るべき存在として法律で保護されている。
それに、彼女たちの大きな身体に比べて僕の身体は非常に小さく見えるだろう。

だけど僕には魔法の力があった。

自慢するようで恥ずかしいが、僕は自分の事を結構優秀な魔法使いであることを自負している。だから、1人でもあまり問題なくダンジョン探索に行けると考えていた。僕は魔法使いであることを2人に説明した

「僕、魔法を使えるんですよ」
「へ?」「え?」
 驚く2人の目前に手を広げて見せて小さな炎を発現させる。発現させた炎を回転させたり、素早く移動させてみせたりすると目を白黒させて見入る彼女達。

「本当に魔法が使えてる!? 凄いじゃないか!」
「魔法を使える男の人に出会ったのは初めてだわ……」
 フレデリカさんは純粋に驚いて、シモーネさんはしみじみとつぶやくように感想を言う。彼女たちの驚きようについては理解できる。なぜなら、男性で魔法を使える人間はとても珍しくて、ひとつの国に1人居るか居ないかと言われるぐらいに希少な存在であるとされている。僕も今まで生きてきた中で1人とだけしか出会っていない。

「ダンジョンに稼ぎに行くよりも、魔法を使って何か仕事をしたほうが安全だし簡単だと思うのだけれど?」
 シモーネさんの言うとおり、珍しい男性魔法使いには一定の需要があるために仕事を探せば直ぐに見つかるだろうし、ダンジョンに比べて死の危険は無いだろう。
だけど僕は出来るだけ直ぐに、そして後腐れなく金稼ぎをしたいと考えていたので、仕事に就くとまたしばらく王国で生活しなければならない可能性が高いので、自分の考えで働ける冒険者のほうが都合が良かった。

「そういえば、この国には有名な魔法研究所が有るだろう? あそこに行ったら雇ってもらえるんじゃないのか?」
 名案を思いついたという風にフレデリカさん顔を輝かせて言うが、僕は苦笑を浮かべる。

「実は今日の朝までフレデリカさんの言う魔法研究所で働いていたんですけど、クビにされちゃいまして」
「え? あ、その、ごめん」
 フレデリカさんは僕の言葉を理解すると、頭を下げて謝った。僕にとってはそんなに深刻なことじゃなくて丁度いいぐらいに思っていたので、そんなに深刻に考えられると逆に困ってしまう。

「いえ、全然だいじょうぶですよ。クビになったと言っても、困っているわけではないですし、魔法研究所でやりたかった事は全部させてもらいましたから、向こうから辞めるように言われたのは丁度いいキッカケになったと思っていますから」
 しかし、自分で言うのも何だが希少な男性魔法使いの僕が在籍していた事をフレデリカは知らなかったのだろうか。疑問に思っていると、考え中だったシモーネさんが話しだした。

「魔法研究所に居たって本当? 私、あそこに男性の方が居たなんて聞いたことがないんだけれど」
「えぇ、本当です。雇われたのは随分と昔のことですが。それに、最近はずっと研究室に引き篭もって研究を続けていたんで、表に出てくることがあまり有りませんでした。だから、外の人が知らないのも無理はないと思います」
 男性魔法使いは狭小な存在、普通は大事に守るために秘匿するか王国の象徴として大々的に公表するか。僕の場合は王国の首都防衛を目的とした研究を続けていたので、暗殺や襲撃を防ぐためにも存在は表に出されなかったのだろうと推察する。
僕の考えをシモーネさんに話してみても、あまり納得はしていない様子だった。

「でも貴重な男の魔法使いを辞めさせるなんて信じられない。もしかしたら、上の人に掛け合ったらクビは取りやめてもらえるかも」
「交渉も考えたんですけど、やっぱり研究所でやりたい事は全部出来たんで今辞めるのは丁度良かったんですよ」
 色々と考えてくれているシモーネさんにはありがたい気持ちでいっぱいだが、自分の考えをあくまで変えない。

「そう? 貴方がそれで良いと思うのなら私がとやかく言うべきではない事ね。私達は貴方のダンジョン探索を全力で手伝わせてもらう事にするわ」
「そうだぜ! シモーネの言うとおり、力いっぱい手伝ってやるから旅の資金は安心しな」

 互いのことを多少は知ることが出来たので次は、ダンジョン内でのコンビネーションを確認するために、自分たちが使用する武器について話し合った。

「私はコレだ!」
 フレデリカさんは後ろに背負っていた大剣を右手だけで担ぎ上げると、そのまま天に向かって掲げる。大剣は僕の身長と同じぐらいの長さが有るから多分160cmぐらいの長さがあると思われる。そんな長さだから重さも相当だろう。ソレを感じさせずに剣を片手で持ちあげるなんて、フレデリカさんには凄い力があるのだろう。

「どうだ? カッコイイだろう!」
 めちゃくちゃカッコ良かった。前世の頃から大剣を振るうオーソドックスな戦士キャラが好きだったので、叶うならば僕も同じように大剣を振り回したいと思っていた時期もあった。しかし、今世の僕には全然筋力が足りないので普通の剣すら満足に持ち上げることが出来なかった。
だから結局は適正があった魔力の能力を鍛えて魔法使いになった。今では魔法も結構好きなのでこっちの道に来て良かったと思っているが、やはり大剣を掲げる彼女がとてもかっこ良く見えた。

「私は弓」
 次にシモーネさんは右手に弓を左手に矢筒を持って見せてくれる。矢筒は無属性の魔法矢を生成してくれるものみたいで、ダンジョン内でも弾切れの心配はないだろう。
「後はコレも」
 シモーネさんが弓と矢筒を肩に戻してから、腰にレイピアのような細身の剣を指さして見せてくれる。どうやらシモーネさんは剣術も使えるようで、フレデリカさんの豪快さとは逆に技巧的な感じだった。

「僕はさっき言ったように魔法を使います」
 幾つか使える技を彼女たちに説明して、ダンジョン内での3人の動きについて話し合う。結果的に、フレデリカさんが大剣で前衛を担当、僕が魔法で後衛から支援。そしてシモーネさんが弓を使いつつ状況を見て前衛と後衛を使い分けるという事になった。

 話し合いが終わり互いの事を多少知り合えたので、遂に僕たちはダンジョンへと向かうことにした。

 

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