第37話 商業の国、最初の町

 王国と商業の国の国境まで来た僕達。ここまでは、王国兵に出会うことはなかった。幸いにも、指名手配によって国から出る賞金首を目当てにするような冒険者とも出会うことはなく、ここまで特に問題なくやって来た。

 国境付近の通行は、主要な道以外の監視は緩くなっていて僕たちは皆徒歩だったので少しだけ険しい道、一般人なら苦労するけど冒険者として鍛えた人間なら問題なく通れる道を通過して、商業の国に入国することが出来た。

 僕が王国へ来てから、正確に何十年経ったか忘れてしまったけれど、かなりの長期間を過ごした場所から、まさかこんな形で去る事になるとは思いもよらなかった。
 普通のエルフなら百年単位ならば懐かしいとは全然思わないらしいけれど、前世の記憶によって人間の頃の感覚を持っている僕は、何十年という月日が非常に長く感じる。考えれば、前世と同じぐらいの年月を王国で過ごしたことになると考えると、やはり長い期間居たんだなぁと思ってしまう。
 そして、転生してから初めての就職、仕事をしたのが魔法研究所だったので感慨深いものがあり、あそこで色々と学び考え発明してきたのだと記憶が蘇ってくる。

 暫くの間、国境付近でそれぞれが思いを馳せて休憩していたが、休憩を終えて先に進むことに。

 国境を超えてしばらく歩いて行った所、国境からは一番近い場所にある、商業の国の最初の街付近に到着したら、何時も通りフレデリカさんとトリュスの2人で調査に行ってもらう。
 調べてもらうのは、僕の指名手配が国境を超えて他国に通達されているかどうか。普通ならば、1人のエルフを追って他国に通達して捕まえるように要請することはありえない。そもそも、僕は殺人や強盗などの罪となるような悪いことをした覚えはないので、国内なら何とか理由隠して指名手配を出すことが出来るだろうが、他国ならシッカリと正確な理由を提示できなければ指名手配を出すことは出来ないだろう。

 調査から戻って来たフレデリカさんとトリュスの2人に結果を聞くと、案の定問題ないらしくて、この国では僕とフィーネの2人に関する指名手配が無かった。この結果を聞いて、僕たち5人は全員で街へと向かった。

 街へと到着。1ヶ月ぶりの街と人混みだと思ったが、よく考えると1年単位で研究に没頭して研究所に引き篭もっていた僕は、たった1ヶ月ぶりには流石に久しいという思いは湧いてこなかった。

 それにしても人が多いような気がする。街の散策しながら観察した感じでは、かなり大きな街だろうと思うけれど、あれほどの人が密集している所は王国ではお祭りの時ぐらいしか見れないだろうと思うぐらいには密集している。
 何をしているのか少し近づいて観察してみると、人混みの中心で商売をしているようだった。やはりここは商業の国だな、という感想が浮かぶ。

 街の感じも、王国と商業の国ではどことなく違うように感じられる。どうやら、その雰囲気を違うと感じる原因は、商人と客が活気づいていて街全体が明るく見えるからだろう。 商人が活気づいて商品の説明をして売値を提示してる、客は積極的に商品の質問や値段交渉を行っていて活発に商売がされている。

「おばちゃん! これどうやって使うの?」「これはねぇ、こうやってねぇ、」
「もうちょっと安くなんないの、ネエちゃん!?」「これ以上はまけられねぇぜ!」
 こんな具合で、人々が元気だった。

 街の活気を眺めながら、宿を探す。と思ったら、トリュスがこの街一番の宿を見つけ出してきて、そこを使うように言ってきた。
「ここ、オススメ」
「街一番って事は、高いんじゃないか? お金は大丈夫?」
 僕の不安通り、値段もかなりするようだった。けれど、王国から商業の国へ来る道中、モンスターを狩ってドロップ品を集めて街にあるギルドで換金していたら、いつの間にかパーティーで管理している資金がかなり溜まってきていた。

 一ヶ月も野営生活が続いて、地味に疲れが溜まってきてたので高級な宿は落ち着けて非常にありがたいと思ったので宿の部屋を取ってもらうことにした。

 部屋割りは、フレデリカさんとシモーネさんのクロッコ姉妹の2人、フィーネとトリュスの2人、そして僕が1人だった。
 クロッコ姉妹は元々は一緒に住んで生活していたので、一緒の部屋は問題ないだろうが、フィーネとトリュスの2人で一部屋を使用するのは大丈夫だろうか、気まずくないだろうかと思っていたら、シモーネさんから問題ないというお墨付きがあった。
 シモーネさんによれば、どうやら最近2人はよく話し合っているそうで、フィーネが無口なトリュスに話を振ったり、トリュスの方もか細い声だけど返事をするなど友好的な関係を結べているらしい。だから、一緒の部屋で問題はないそうだ。

 そして、僕は1人部屋を用意してもらって恐縮したが、流石に女性1人と男性1人で2人部屋を使用するほうが不都合があるだろうと考えて、パーティーメンバーには男性1人しか居ないので他に取れる手段はなく、ありがたく1人部屋を使わせてもらうことにした。

 内装やベッドの質も高級で街一番の宿と言われている事に納得できるぐらいには、しっかりとしていた。その日は久しぶりに朝まで熟睡して体力と魔力が完全に回復した。

 翌日は、パーティーメンバーで集まって話し合い。
 最初の目的地、商業の国に到着したけれど、何をするのか。最初に商業の国を目指した目的の1つは、商業の国にある数あるダンジョンに挑戦していって、それぞれ最下層まで到達して神の祝福を受けられるように攻略していくこと。
 もう1つは、商人との交流を持って大陸中の情報を集めること。情報を集めて新たな目的を見つけたり、逃げ出してきた王国の動向に関する情報を商人たちに集めてもらったりする事。

 王国を抜けて、商業の国に到着した今、この街の近くにもダンジョンがあるらしいので、そこから攻略していくか、それとも一度首都まで行ってからにするか。

「王国から抜けて一ヶ月経ってるから、一度向こうの情報を集めてみたほうが良いんじゃないか?」
 フレデリカさんは一ヶ月という短い時間だが、王国に変化はないか逐次観察するのが良いと提案。
「賛成、近いうち、王国、一度調査」
 トリュスがフレデリカさんの提案に賛成する。国境付近で落ち着けた今のうちに、一度情報を集めておきたいというトリュス。

「ここのダンジョンは難易度が高くないそうだから、ダンジョンの攻略は情報を集めながらでも問題ないと思うわ」
「私も魔法研究所に所属していた時は研究ばかりで、今までダンジョンに挑戦した経験が少ないです。難易度が高くないうちに挑戦しておきたいです」
 シモーネさんもダンジョンの難易度は問題なく簡単なので、一度街に腰を下ろしてダンジョン攻略しながら情報を集めることに賛成とのこと。最後にフィーネは、ダンジョンが難しくないうちに一度ダンジョンに挑戦しておきたいという事で、この街のダンジョンを攻略することに賛成。

 4人の女性が賛成。僕も、商業の国の首都に行くことについて、そんなに急ぐ必要も無いだろう事なので、この街で一度ダンジョンに挑戦するのが良いだろうと考える。

 全員一致で今居る街に一旦留まり、ダンジョンに挑戦してみることに賛成した。それならば、早速ダンジョンへ潜る準備をしておこうと動き出す。

「私とシモーネの2人は冒険者ギルドに行ってダンジョンに関する情報を探ってみるよ」
 この街にあるダンジョンの調査には、フレデリカさんとシモーネさんの2人が担当することになった。

「私、王国の情報、集める」
 トリュスは持ち前の情報収集能力を使って、1ヶ月の間に王国で大きな出来事は起きてないか調べてもらうことに。

「それじゃ、僕とフィーネの2人はダンジョンに潜るための道具とかの準備に当たろう」
「はい、わかりましたエリオット様」
 僕とフィーネの魔法使い組は、市場へ出てダンジョン内部で使えそうなアイテムを探すことに。と言っても、まだこの街にあるダンジョンについての情報は持ち合わせていないので、後でまた買い直しに市場にでることになるかもしれない。だから、基本的にダンジョン内部で使えそうなアイテムを適当に見繕って、準備することにする。商業が盛んな街なので、掘り出し物を探すのも良いだろう。
 それぞれの担当に分かれて、動くことになった。

 フィーネと2人で市場へと出かける。
「2人で買い物に来るなんて初めてですね、エリオット様」
「そういえばそうだっけ?」
 魔法研究所に所属している頃、基本的には研究室に篭もりっきりの2人だったので、2人で外に出ることすら珍しく、買い物に関しては初めてだった。

 市場を見回ってみると、いろいろな発見がある。
「お、あの魔法道具は見たことがないものだな」
「本当ですね、学術都市製でしょうか?」
 見たことのないアイテムや道具が集まってくるのも、この国が商業の国だから。大陸中にあるアイテムが一旦この国に集まって、再び大陸に散っていく。

「あれは、なかなか使えそうな魔法道具だな。1つ買ってみよう」
「良いですね、私も1つ頂いてみましょう」
 魔法技術に関する知識欲が強い僕達2人は、市場に売られている見たことのない魔法道具を見つけては買って魔空間に収納して行った。

「なかなかいい買い物が出来ましたね」
「あぁ、ダンジョンに潜る道具の準備も出来たことだし一度宿へ戻ろうか」
 さすが商業の国、王国で買い揃えるよりも半分ぐらいの値段で安く買い揃えられた。新しい魔法道具も手に入れることができて気分が良かった。

 僕達2人はダンジョンに潜る為の道具の準備を終えて、他の3人、クロッコ姉妹のダンジョンに関する情報収集や、トリュスの王国の動向調査は上手く行っただろうか、と考えながら宿へと戻って行った。

 

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