第30話 脱出完了、そして

 謎の女性に先導されて、王城を脱出することが出来た。彼女の案内で城を出た先には、観賞用のものと思われる花や植物が人工的に植えられた庭園と思われる場所だった。

 外へと出てこれたので、あとは門を抜ければ街に出られる。そこまで行けば一息つけるだろう。けれど、門の回りは警戒されているだろうし突破するのは困難だろう。他の方法としては、城の周りを囲む城壁を超えて逃げる方法があるだろう。

 王城のある方角から女性の叫ぶような声が聞こえてきた。その声は城のあちこちから聞こえてくる。多分、女王の前から逃げ出した僕を探していて、王国兵が指示を出し合って城の内部を探しているのだろう。

 僕は謎の女性に先導されて、一直線で迷うことなく進むことで非常に早く城を出ることが出来た。迷路のように複雑にできた王城の廊下は、馴染みのない者にとって地図や案内なく外へ出る事は困難だろう。そのため、王国兵は僕がまだ城の内部に居るだろうと考え、探しているのではないかと思われる。

 彼女が居なければ外へ出るにはもっと時間が掛かっていただろうし、王国兵に見つかり逃げ出すのが困難になっていたかもしれない。

 王城から聞こえる声を気にしつつ、庭園を眺める。この道を超えたら城壁があるだろうか。外へ出る道があるのだろうか考え、案内してくれた女性にどうするべきか聞こうと口を開きかける。すると、またもや“こっち”と短い言葉を僕に投げかけて庭園を先に歩き出す。どうやら、城の門を超えた向こう側、最後まで案内してくれるようだった。

 庭園を歩いて突き進む。花や植物が綺麗に配置をされて、管理に非常に手間がかかってそうな芝生や噴水を眺めながら歩いて行く。疑問なのは、こんなに管理に金が掛かっていそうな場所なのに警備兵などが居ない事。警戒して回りを歩いて見回りをしていそうなものなのに、人は見当たらなかった。
それどころか一切人の気配すら感じない道を彼女は選んで進んでいるようだった。もしかしたら、彼女は警備兵の監視に動くルートを知っていて、人の居ない場所を分かって進んでいるのだろうか。
 そして、ひっそりと隠されている道を選んでは進んで案内してくれている。迷いなく進む彼女の後ろ姿を見て、この城についてかなり詳しく知っているのだろうと予想する。

 見上げるように高い城壁の近くまで来ると、前を向いて歩いていた彼女は僕に向き直った。やはりか細い小さな声で僕に聞く。

「魔法、飛べる?」
 言葉短めに質問される。多分、魔法を使って飛んで城壁を越えられるかどうか聞いているのだろう。

 一度首を大きく上に傾けて、城壁の高さを確認する。見上げるぐらいには高いところに兵士が城壁の外の監視に使うための通路があるのが見える。あれぐらいの高さだったら、魔法を使って飛べる範囲の高さだろう。しっかり確認してから、彼女に返事をする。

「このぐらいの高さだったら問題ない。飛べるよ」
 僕の返事に頷いて反応する彼女。そのまま、クルリと城壁の方に身体を向けて、壁に手をかけ登り始めた。まさか、彼女は自分一人の力で上まで登るのだろうか。

 上へ飛べるか聞かれた時、僕は人間を1人抱えて飛べるかどうかを聞かれたと思い、彼女を両手で抱えて魔法を使って飛ぶつもりだと考えていた。どうやらそれは、思い切り予想が外れていて動揺してしまった。

 が、彼女がドンドンと石材をを積み上げて出来ている城壁の僅かな溝部分に手を引っ掛けてスイスイと登っていく。僕は慌てて彼女の後を追うために、魔法を使って飛んでいき頂上の通路部分まで飛び上がる。

 そして、城壁の上まで行ったら後は降りるだけ。僕が魔法で滑空するように地面へ降りる。比べて、彼女は登ってきた時と同じように自力で、蜘蛛のように城壁に張り付いてスススと音もなく下まで降りた。

 王城の中でも女王がいる部屋の近くに居た彼女、しかも王城内部の道まで完璧に僕を案内して見せて、今は城壁を軽々と超えて、身軽に動けることを見せつけられた。そして、彼女が僕の名前を知っていた事。記憶に無い女性だったし、魔法研究所の研究仲間でもなさそうだ。何故彼女は僕の脱出を手助けしてくれたのだろう。一体何が目的なのか。
脱出が成功した今、彼女が一体誰なのか非常に気になってきた。

「こっち、付いて来て」
 僕が彼女の正体について考えていると、彼女が僕に向かって声をかける。まだ先導してどこかに案内してくれるようだった。城壁を超えて王城から脱出できたので、声を出すとバレるという可能性が無くなった今、今度は行き先を聞いてみる。

「これから何処へ向かうんだ?」
「城の人間、見つからない所」
 王国兵から徹底的に逃げるということだろうけれど、一体何処に向かうのかは具体的には教えてもらえなかった。そもそも、僕は彼女の名前を知らない。名前を彼女に直接聞いてみる。

「君は一体誰なんだ?」
「私、トリュス。貴方を監視していた」
「監視だって? 一体、誰の命令で?」
 やはり名前には聞き覚えがない。そして、僕を監視していたという彼女。思わず誰に命令されたのか聞いたが、普通に考えると答えは返してくれないだろう。しかし、彼女はあっさりと誰に命令されたのかを言う。

「女王様」
「女王だって!? 何故?」
「説明、後。付いて来て」
 さっきまで女王に直接、危害を加えられようとしていた僕。そんな女王から命令を受けていたというトリュス。女王側の人間が何故僕を助けるような真似をしたのか疑問に思う。

 更に質問を続けようとする僕。しかし、トリュスの顔は無表情から変わらないけれど、付いて来てという言葉に少し焦った様子が混じっていることに気づく。彼女は急いでいるようだった。
 たしかに、王城を抜け出したとはいえ城壁の近くであるこの場所では、王国兵がいつやって来るか分からないし長話は出来ない。
 聞きたいことは色々有ったけれど、先にこの場所を離れなければいけなかった。仕方なく、僕は質問を切り上げて彼女の後に付いて行くことに。

 

 

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