第03話 姉妹の冒険者

「なぁ、そのダンジョン私達と一緒に潜らない?」

 後ろから聞こえた声に向かって振り向くと、視線の先には2人の女性が立っていた。見ただけで分かるぐらいに、僕よりも身長が高い女性2人がいつの間にか側に立っていて思わず圧倒される。

 1人は真っ赤に光る太陽を思わせるような輝く笑顔を浮かべた女性。身長は170cm以上あるだろうか、僕と比べて20cmもの身長差があると思う。そのために僕の目線の先には、彼女の非常に豊満な胸が飛び込んでくる。身にまとっている服装も露出が多くて、日に焼けた小麦色の肌に思わず目が惹きつけられる。
 もう1人の女性は先ほどの女性とは対照的に、青く静かな月を思わせるように表情が鋭い。しかし、先ほどの女性と同じように、いやそれ以上に露出が多くて目のやり場に困る。肌も先ほどの女性とは対照的に色白で目に眩しい。しかも、彼女の豊満な身体つきは非常に色っぽくて鋭い表情とのギャップがたまらない。
 2人の女性は表情こそ違うが、顔立ちが似ていていもしかしたら姉妹なのかもしれない。

 低身長の僕は目線を上げて、対して彼女たちは見下ろすような感じで目線を下げて互いに視線を合わせる。すると笑顔の彼女が再び言った。
「もし良かったら、私達と一緒にダンジョンに潜らない?」
「えっと、僕とですか?」
 急な彼女の提案に思わずそれだけしか返事ができなかった。何故彼女は急に僕に声を掛けてきたんだろうか? もしかして先ほどのやり取りをすべて見られていたのだろうか? 疑問に思っていると彼女は更に言葉を続けた。

「さっきの話をちょっと聞いてたんだけど、ダンジョンに入りたいんだろ?」
 先ほど観察した時にコチラに注目していると思っていたが、どうやら僕と受付嬢との会話も聞いていたようで、ダンジョンに入りたいが入れない僕の現状を全て把握されているようだった。
「私達と組めば男性でも問題無くダンジョンに入れるんだよな?」
 女性は、先程まで僕と話していた冒険者ギルドの受付に向かって確認する。

「えぇ、パーティーを組んだならば男性の方でもダンジョンの入場許可は出せます」
 よどみなく答える受付の言葉に、より良い笑顔になる女性。
「じゃあ、問題なさそうだ。私達と一緒にダンジョンに行かないか?」
 再び僕に向かって提案し、イエスかノーかの確認を待っている。
 
 どうしたものか悩む。先ほどまでダンジョン探索は諦めようと思った瞬間に声をかけられた為に、気分的にはもうダンジョン探索に行くのは止めておこうと考えていた。しかし、折角の彼女たちのお誘いを断るのも悪い気がして気持ちが揺らぐ。
 ただし今回を逃せば、次に王都に来るのは何時の事になるだろうか? この土地を離れて旅に出たとしたら、もしかしたら一生この街に来ないかもしれないと考えると、一番の目的である金稼ぎの他にも思い出作りに行っておくのも良いかもしれない。
 だけど、見知らぬ女性たちと即席のパーティーだとトラブルも多いかもしれない。何時もソロでダンジョンを潜っている僕は、いきなり知らない人同士でパーティーを組んで果たしてダンジョン探索を上手く出来るだろうか?
 色々な事を思い浮かべながら考えに没頭していると、提案してきた彼女が慌てだした。

「あ! これって、ナンパとかじゃないよ! 全然、貴方が困ってるみたいだったから、善意というか助けたいと思ったから声をかけただけで、本当に。善意だからやましい気持ちとか無いから大丈夫だよ!」
「姉さん、落ち着いて」
 僕が直ぐに返事をしなかったせいで彼女は勘違いして動揺してしまい、僕に弁解していた。どうやら、彼女も受付の女性同様に男性に慣れていない様子で慌てふためいている。そして、慌てて言い訳している女性の側に立っていたもう一人の女性が落ち着くようにと慌てた女性をなだめている。。

 僕は彼女たちの様子を見て悪い人たちではなさそうと感じたので、折角だからダンジョン探索を一緒にやってみようという気になった。

「折角誘っていただいたんで、一緒にダンジョン探索をお願いします」
「ほんと!? じゃあ早速手続きをしよう!」
 僕の了承の言葉を聞いて、とても嬉しそうな表情をして先を促す。

「姉さん、そんなにがっついたら下品に思われるわ」
「バカ! ただでさえ男性との出会いが少ないのに責めないでどうする! そんな呑気でいたら他の奴らに横取りされるぞ」
 笑顔の女性と真面目な表情をした女性たち2人が言い争いを始める。僕は彼女たちに巻き込まれないようにと、女性達がヒートアップしている隙に受付で手続きを進めることに。

「彼女たちとダンジョンに入ることにしたので手続きをよろしくお願いします」
「クロッコ姉妹なら戦力的に問題なさそうですね。わかりました先に冒険者証明証の再発行を行いましょう」
 どうやら彼女たちは名の知られた冒険者達のようで、ダンジョン探索について戦力的には問題はないようだ。
 ダンジョン入場許可の証を用意して貰う前に古くなった冒険者証明証を再発行して貰うことに。と言っても、僕の持っている物はだいぶ古くなっていて、過去の実績記録などは全部消失していて無かったことになってしまった。しかし、何十年も活動していなかったので実績が全て無くなってしまった事は仕方のない事だと考え諦めよう。ソレに、今回のダンジョン探索を終えたら旅に出て冒険者としての活動もしないのであまり自分にとって意味のないものなので気にしないことにした。

「はい、コレで全て終わりました。じゃあ、コチラをお持ち下さい。ダンジョンの入り口前に兵士の方が居られますので、コレを見せて中に入っていって下さい。忘れたり無くされると入場できませんので、くれぐれも手元から離さないようお持ち下さい」
 受付の女性はお決まりの言葉なのかスラスラと淀みなく言いながら、四角形の木の板を渡してくるので受け取る。昔から変わらない、ダンジョンの入場許可証。ただの木の板ではなくて、魔法の効果が付与されており一般人には偽造できないような作りになっている。しかし、昔から変化しておらず腕に覚えがある魔法使いなら結構簡単に作れてしまうのではと心配になってしまう。
 そんなことを考えながら受付の女性が話す言葉を引き続き聞く。

「ダンジョンから戻られたら、お手数ですが一度ギルドに帰還報告をお願いします。報告の際にはダンジョン内で手に入れたアイテムを持って来て頂くようにお願いします」
 僕が今日行くリーヴァダンジョンは、王国が所有するダンジョンなので内部で拾ったアイテムの3割は王都に渡さなければならない仕組みである。取得したアイテムは自己申告制なので実際よりも少なめに報告することも出来るが、後からバレると隠した分の何倍も罰金としてとられる可能性があるので正確に報告しないと痛い目に遭う。この辺りの仕組みは昔と変わっていないなと思い出しながら話を聞き続ける。

「報告に来て頂く期限は、えーっと、エリオット様は男性なので期限がございます。報告は今日より1週間を過ぎない内にお願いします。1週間を過ぎますと捜索隊が組まれてダンジョン内に捜索しに行く可能性がございます。くれぐれも遅れないようにお願いします」
 女性ならば結構アバウトに来れるときに来てもらうそうだが、男性は危険が無いように、危険があった場合は速やかに助けに行けるように対策として厳しく決められているらしい。男性の保護法が強化された影響で厳守されるようになった仕組み。コレは知らない規則だったので気をつけなければ。
 僕の場合、ダンジョン探索は今日一日だけの予定だから帰ってきて直ぐに帰還報告に来れば良いだろう。

「説明は以上ですが、質問はございますか?」
「いえ、今のところ気になる事は無いので大丈夫です」
 かなり分かりやすい説明で疑問に思ったことは特に無かった。問題ないと返事して頷く。

「あと、それと……」
「どうしました?」
 受付の彼女が、顔をグイッと近づけて囁くような小さな声で言ってくる。先ほど僕が顔を晒して気絶した時よりも彼女はグッと顔を近づけきて、大丈夫なのだろうかと疑問に思いながら耳を彼女の方に向けて彼女の声を集中して聞く。

「大丈夫だとは思いますが、クロッコ姉妹には気をつけて下さい」
「どういう事ですか?」
 顔を近づけたナイショ話は後ろで言い争っている姉妹冒険者達には聞かれないようにするためのものだったらしい。気をつけろとは一体どういうことだろうか。

「本当はエリオット様がダンジョンへ行くことについて私は大反対ですが、私はギルド受付として強制できないのです。だから、注意だけ」
 今日出会った中で一番真剣な顔をした受付の女性が、気迫溢れた顔で言ってくる。
「女は獣のように本能で生きるものです。クロッコ姉妹なら多少は安心ですが、絶対は有りません。ダンジョンという閉鎖空間で彼女たちは獣に変わるかもしれない。エリオット様自身が身持ちをしっかりしておかないと大変なことになるかもしれません。特に妹の方には気をつけて下さい!」
「はぁ、えっと、わかりました」
 小声でも強調するという器用なしゃべり方で忠告される。妹の方とは表情が少し乏しい方だろうか。よく分からない話だが頭の隅に記憶して了解しておく。彼女は顔をスッと元に戻して、カウンターテーブルの向こうで綺麗に座り直す。

「それじゃあ、気をつけて行って下さい。くれぐれも怪我の無いように!」
「はい、ありがとうございました。行ってきます」
 彼女にお礼を言ってから、僕は冒険者ギルドで出会った2人の姉妹冒険者達とリーヴァダンジョンへと向かった。

 

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