第21話 研究所のかつての仲間

「エリオット様! エリオット様! エリオット様ぁ!」
 道の真中で抱きつきながら僕の名前を連呼する女性。抱きつかれながら聞こえる声には、聞き覚えがあった。

「落ち着け、フィーネ! 何故こんな所に? と言うか離してくれ」
「離しませ! 何故急に研究所を辞められて、何故急に居なくなられたのですか? 私に黙って!」
 興奮状態の女性の名前はセラフィーネと言って、僕が魔法研究所に所属していた時の仲間だった。
 普段は怖いぐらいに鋭い表情を浮かべていて、生真面目な性格をしている非常に優秀な女性なのに、感情が高ぶって限界を超えると子どものような癇癪を起こして僕に抱きついてくる。と言うか、彼女も身長がとても大きいために、背の低い僕は抱きつくというよりも抱えられていると言ったほうが正しいかもしれない。彼女は非常にスレンダーだったので、女性に抱きつかれるという感覚よりも仲間としての意識が強かったので、今まで特に注意もせずになすがままに身を任せていた。
 
 しかし、おおやけの道のど真ん中でイキナリ抱きつかれるとは思っていなかった。普段は、研究室に篭もりきりの僕の居る部屋へとやって来ては抱きつくので、人目がない場所以外で、しかも外でこんな風に抱きつかれるのは初めてだな、なんて関係の無いことを頭に浮かべながら彼女を宥めようとする。

「とにかく落ち着け、フィーネ。研究所の件は謝るから、一度面と向かって話しあおう。だから、首に回している腕を離してくれ」
「嫌です! もう一生離しません」
 確かに僕は、魔法研究所を誰にも話さず出てきた。と言うか、出されたので彼女にその事を説明したいので話しあおうと言ってみたが、聞く耳を持たず頑なに身体を離すことを拒む彼女。
 どう対処するべきかと色々悩んでいると、僕達の行方を見守っていたシモーネさんとフレデリカさんが助けをくれた。

「こんな場所で問答していても仕方ないから、一度私達の家に来て話し合ったらどう? 私達の家は歩いてすぐだから、他人がいる道よりも静かに話し合えるわよ」
 確かに、今のままだと通行人の注目を浴びて仕方がない。今から話し合う場所として宿を用意するにしても、興奮状態の彼女を引き連れたままだとスムーズに事を進めるのは難しそうだった。
 僕はシモーネさんの提案してくれた、クロッコ姉妹の家に避難という方法を受け入れようとしたら、フィーネが横から口を挟んできた。

「エリオット様、この女は誰ですか?」
 フィーネが出した底冷えするような声に、一切の友好的な感情はなかった。シモーネさんはその声を聞いて僕からフィーネへ視線を変える。抱きつかれていてフィーネの顔の方は見えないけれど、シモーネさんとフィーネの2人はお互いに見つめ合っていることが分かる。

「この人はシモーネさんと言って、僕がダンジョンに行く時に同行してもらっていた人だよ。それでシモーネさん、この女性は」
「エリオット様、ダンジョンに行っていたんですか!? 今とても危険だって言われてますけど、大丈夫だったんですか?」
 シモーネさんにフィーネの紹介を入れようとしたら、フィーネが声を重ねて遮ってくる。
しかも、フィーネはシモーネさんの事よりも僕がダンジョンに行っていたことについて注目していた。
 フィーネは僕の首から腕を外して身体を離してくれたが、次の瞬間には離した手を僕の身体にペタペタと当てて触って確認しだした。顔から腕、胴体と順番に触っていく。多分、僕に怪我が無いかフィーネなりに心配して確認してくれているのだろうが、股間部分に手を伸ばしてきて流石に僕は待ったをかけた。

「ちょっと、やめてくれフィーネ。僕は無事だから。それよりも、場所を変えて話しあおう。シモーネさん、フレデリカさん、申し訳ないのですが少しの間だけ家にお邪魔させてもらえますか?」
 シモーネさんから提案してくれた事だったが、先ほどのフィーネの対応に気分を害して断られるかもと思ったための再確認だった。再び抱きつこうとしてくるフィーネをかわしつつ、シモーネさんとフレデリカさんに聞いてみると快く了承してくれた。

「えぇ、なんだか大変そうね。私達の家に来て話し合いなさい」
「家はこっちだ、ついて来い」
 敵対心をむき出しにするように睨みつけているフィーネの視線を無視しつつ、シモーネさんとフレデリカさんの2人は僕に向かって声をかけてくれる。

 こうして、僕は魔法研究所に所属している時に仲間だったセラフィーネを引き連れて、クロッコ姉妹に案内されながら2人の自宅へと向かうことになった。

 

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