閑話 初めての出会い(フレデリカ視点)

 私は今、冒険者ギルドの隅にあるテーブルの席に座って、頭空っぽのまま何も考えずにぼんやりとしていた。テーブルを挟んで向かいの席には、妹のシモーネが座って弓の手入れをしている。勤勉な妹の様子をアクビをしながら、なんとはなしに眺めていた。

 暇である。暇なので、朝の出来事を思い出していた。

 今朝、急に魔法使いの1人が私達の組むパーティーを抜けてしまった。彼女は魔法使いとしての能力は最低クラスと言っていいぐらいに低くて、戦闘力に関しては皆無だった。けれど、ダンジョン内部においては移動中の荷物持ちや、モンスターを倒した時のドロップ品の確保と持ち運びとしては大変重宝していた。

 荷物持ちとして役立つ魔法使いを、他のパーティー達も喉から手が出るぐらいに欲しいので、魔法使いは個別で交渉しては他のパーティーによく引き抜かれていく。そして、今朝は私達のパーティーの魔法使いが一人抜けて、他のパーティーに1人新しい魔法使いが加入したというわけだ。

 しかも、魔法使いの1人が居なくなってしまった事でもう一人のパーティーメンバーも他に移って行った。前々からパーティーを移る事を考えていたそうで、今朝が丁度いいと思って抜けて行ってしまった。

 魔法使いの引き抜きはよくあることなので仕方がないと諦めるが、他のパーティ仲間も出て行ってしまった事で再び仲間を募集し、集めなければならない。新しい仲間を探す手間を考えるとため息が出てしまう。

 今日はもう冒険者稼業は無理だと判断して、ダンジョンへ向かうのを辞めて今はダラっとしている。と言っても、ダンジョンを行くのを辞めはしたが、緊急の依頼が発行されたら受けようと冒険者ギルドで待機している状態だった。

 冒険者ギルドには大きく分けて2つの依頼がある。1つは、毎朝出される依頼で早い者勝ちというもの。普通はコレを受けて、ダンジョンへ潜り帰ってきて成功報酬を貰うというのが一般的な冒険者の稼ぎ方だった。

 そしてもう1つが、緊急時に発行される依頼だった。この緊急時に発行される依頼は、難易度がそんなに高くないのに成功報酬が多くもらえるものが多いけれど、発行される時間はおろか、何時発行されるかも分からない不定期なものなので、競争率もそんなに高くない。だから今のように、冒険者ギルドで発行されるのをダラっと待つのが一般的だった。

 そんな風に緊急に発行される依頼が無いか待っていると、ローブを身に付けた見た目が怪しい少女が冒険者ギルドへと入ってきた。

 私は彼女を見て、もしかしたら緊急の依頼を発行をしに来たのか? と思って期待して注目して見ていたら、受付と話し始めた。途中、懐から冒険者証明証と思われる物を取り出して受付へと渡しているのが見えたので、依頼の発行ではないのかと残念に思っていた。仕方なく、再びダラっとしながらも視線を向けてそれとなく2人の様子を伺っていると、少女のほうがフードを取って顔を見せていた。

「あ!」
 思わず出た小さなビックリ声。

 少女だと思っていた人は、少年だった。しかも種族はエルフなのだろうか、チラッと見えた顔は美しく整っていて、耳が長いのが見えた。しかし、エルフというのは伝え聞いていた通り本当に恐ろしいぐらいに素敵な顔をしている。
 
 エルフの男性を初めて見た事で興奮して続けて見ていると、受付が後ろに向かって倒れたのが見えた。私だってあんな美形の男性に顔を近づけられたら気絶する自信がある。

 急いで男性がフードを被ってしまったために、顔が見えなくなってしまった。すると、何故か彼の顔の方に視線を向けるのに抵抗が出来た。どうやら、あのローブに何らかの仕掛けがしてあるようで、私の意識が逸らされて彼の顔は完全に見えなくなってしまった。

「おい、姉さん」
「え?」
 妹に呼びかけられて気づく。私はいつの間にか立ち上がっていて、彼の方に歩き出して居た。一体いつ椅子から立ち上がったのか記憶に無い。

「あの人がどうかしたのか?」
 シモーネの視線の先にはローブを着た男性が居る。私は先程の光景を、妹に説明してみた。

「どうやら、あの子は女の子ではなく男性みたいだぞ」
「ん? 男?」
 シモーネがローブを着た男性を見る。が、顔をしかめて私の方に視線を戻す。

「顔が見えない」
 シモーネは男性の顔が見えない事を心から残念がっているようだった。彼の顔を見逃した事をもったいないと思いつつ、もう一度ローブを脱がないか、彼と受付の会話を盗み聞きしていた。

 どうやら、ダンジョンに入りたいが男性という性別によって入場を許可してもらえないようだった。コレは良いチャンスだと考え、私は思い切って彼に声を掛けた。

「なぁ、そのダンジョン私達と一緒に潜らない?」

 

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