第02話 冒険者ギルド受付との話

 小さな悲鳴を上げて倒れたテーブルの向こうの女性は、そのまま起き上がる気配もなく動かなくなってしまった。どうやら気絶させてしまったようだった。

 驚きすぎて気絶したのか、それともイスごと倒れた衝撃で気絶したのか……。多分前者だろうと予想する。気絶させてしまった女性に呆然としながらも、僕は外していたフードをかぶり直した。どうやら彼女は相当に男慣れしていないようで、証明証に書かれた文字によって事前に男である事を分かっていても現実を理解した途端に驚きすぎて倒れてしまったようだった。
 転生者の僕にとって未だに慣れない既知の事実とされている一つに、男性人口が少ないというのがある。男性人口が少ないことは僕が思っている以上に常識が違ってくるようで、彼女のように男性と面と向かうだけでも緊張したり気絶したりする女性も数多く居る。
 もちろん僕は彼女を驚かすつもりは微塵もなかったが、男である事を明かすだけでも驚かれることは生きてきた中での経験上で何度かあり、注意していたつもりだったが前世の常識が魂に染み付いている僕は気が緩むと先ほどのように女性を驚かせてしまう。男性が非常に少ないこの世界で、未だに自分が男というだけで貴重であるという事実を忘れてしまう。

 周囲を見渡すと、先ほど待機してた冒険者達がコチラを注目して見ている。内心、やってしまったという思いが占めたが、それよりもこんな注目された状態で受付の女性を倒れたままにしておくのは可哀想なので彼女を床から起き上がらせて元の状態に戻しておくことに。

 カウンターテーブルの向こう側へと飛び移って、女性と彼女の座っていた椅子が倒れている側へと着地する。先に倒れた椅子を立て直してから、次に受付を抱き上げて椅子に座り直させる。彼女を床から椅子へ運ぶために、お姫様抱っこのように彼女を横にして抱き上げたが、150cm程度しかない僕の低身長に対して座っている時には分からなかったが身長170cm以上は有るだろう受付の女性。そんな身長差の有るお姫様抱っこは客観的に見たら不格好に見えるだろうなと思いつつ、あまり気にしないようにしながら彼女を元の位置に直し終える。

 先ほどと同じように素早くカウンターテーブルを飛び越えて元の位置へと戻る。戻る途中、僕に注目していた待機中の冒険者たちを確認すると、6人居た中で4人グループの冒険者達は既に興味を失って僕から視線を離して談笑していた。しかし、2人組の女性冒険者達はコチラに注目していた。しかし、僕は彼女たちを極力無視して受付の女性に視線を戻す。

「大丈夫ですか? 起きて下さい」
 なるべく受付が起きた時に慌てないように、落ち着き払った様子で静かに起きるように声を掛ける。

「へ? あれ、私……」
 気絶から覚めた女性は、混乱して周りを見回して僕と目線を合わせると思い出したのか恥ずかしそうに顔を真赤にして黙ってしまった。

「大丈夫ですか?」
 僕がそう声をかけると彼女は身体をビクつかせて反応する。ただ、声は上げずに再び気絶する様子もなくて安心したが、今度は悲鳴を出さないようにするためなのか口を固く閉ざしていて会話にならない。

 すると、彼女が両手を広げて僕に向かって突き出してる。どういう意味か最初分からなかったが、どうやら離れてというジェスチャーのように見えた。僕は2歩程後ろに下がる。すると彼女は口を開いてくれた。
「あの、本当にゴメンナサイ。私エルフの男の人と話すのが初めてで、その男の人にも全然慣れてなくて。顔もすっごく近くにあって、そのすごくて」

 彼女は僕に向かって支離滅裂になりながらも必死に説明しようとする様子を見て本当に慣れてないんだなと思いながら、いつまでも続きそうな説明の言葉に僕は遮るように話しかけた。
「突然気絶したんでびっくりしましたが、僕は大丈夫ですよ。僕の方こそ、突然フードなんか取ってびっくりさせてしまいました。ごめんなさい」
「あの、いえ、コチラこそ申し訳ないです。確認したかっただけで、その本当にビックリしました」
 このまま話しているだけじゃ時間がかかって、冒険者ギルドへ来た目的を達成できそうになかったので会話の流れを、少々強引に元に戻す。

「それで、先ほど話したリーヴァダンジョンの入場許可を頂けますか?」
「それが、その……」
僕は受付の女性にそう聞くと、慌てた様子で白黒させていた彼女の表情は一変。眉の間にシワを寄せて困ったような表情になった。どうやら、何か問題があるらしい。

「えーっと、ひとつお聞きしたいのですが、ダンジョンへはお一人で行かれる予定ですか? 同行できるパーティーや仲間は居られませんか?」
「え? そうですね。1人でダンジョンに潜る予定です」
 今まで殆どソロで活動していたので、ダンジョン探索も1人で行くつもりだった。そもそも、僕は魔法の研究でしばらく王都暮らしをしていたが、殆どを魔法研究所の一室で過ごした僕には研究所以外の知り合いが居なかった。少なくとも今からダンジョン探索に付き合ってくれそうな人物に思い当たりは居ない。

「そうなりますと大変申し訳無いのですが、ダンジョンの入場許可を出すことが出来ません。現在は男性の方がお一人だけでダンジョンに入る事は禁止されていて、許可が出せない事になっているのです」
 本当に申し訳無さそうに彼女が告げる。
「え? そうなんですか?」
 思わず声を出して聞き返してしまった。詳しく話を聞いてみると近年では男性人口が更に減少傾向に加速しているために男性を保護する国が定めた法律が変更されていって、その変更された法律の中には男性が一人でダンジョンへ入ることを禁止する事が追加されたらしい。そのため、先ほど彼女が言ったように僕一人ではダンジョンの入場が許可できないという事らしい。

「あの、女性の方どなたか一緒に行かれるのならば入場許可を出せますが」
「えーっと、どうしょうか」
 今から、知り合いにあたってダンジョン探索を一緒にしてくれる人を探すのは不可能だと思う。
 そう考えると、そもそものダンジョンへ行く目的はお金稼ぎ。そのお金が必要になったのも、魔法研究所に置いてきた研究用の道具や生活用品を買い直すために使おうと思ったから。しかし、その道具や生活用品については魔空間に代用品もあるので絶対に必要なものでもないので、ダンジョン探索も絶対に行かなければならない訳でもない。
禁止されているのならば、今回のダンジョン探索は諦めることにとしようと決心しかけたその時。

「なぁ、そのダンジョン私達と一緒に潜らない?」
 受付の女性が居るテーブルとは反対側の方向、僕の背後から女性の声が聞こえてきた。

 

スポンサーリンク

 

backindexnext