第01話 エルフはクビになった

 久しぶりに外に出ると暖かい光が身体に当たり、それだけで気分が晴れ晴れとなった。手をかざして見上げるとお日様は憎たらしいほどに元気に輝いていて、太陽光が目に焼き付いた。

「さて、これからどうしようかな?」
 実は今、長年勤めていた王国が運営する魔法研究所の研究員を突然クビにされて途方に暮れている途中であった。そして研究所を追い出された僕は目的も目当てもなく城下町をただ歩いていた。
 最近はずっと研究室に篭って研究していたために外に出るのは1ヶ月ぶりであり、城下町に出るのは半年ぶりという引きこもり体質のエルフらしい生活を送っていたために、ただの外出が何でもかんでも久しぶりにように思えた。

 しかし、本当にクビを言い渡されたのは突然だった。上司が研究室へ押し入ってきたと思ったら後ろに兵士を2人連れていて、その上司から事前の知らせもない解雇を言い渡された。意味もわからずに何故突然クビなのか説明を求めてみたけれど答えは帰ってこず、今直ぐ研究所から出て行くようにと上司である彼女は頑固に一点張りで言われた。
 王都防衛用結界魔法が完成間近だったので、せめてコレを完成させてからと交渉をしてみても向こうは全く聞く耳を持たないで、最終的には兵士2人に両脇を抱えられて犯罪者を連行するように研究所の外へ追い出されてしまった。
 
 全く意味のわからないうちに追い出されて最初はイライラと怒りが込み上げてきたが、よくよく考えてみると魔法研究所に所属している意味が今では既に無くなっていて、惰性で王都で研究を続けていただけだったので、解雇を言い渡されて強制的に研究所を出されたのは良いキッカケだったのかもしれないと思い直した。

 コレから新しい目的を探す旅に出よう!

 と言っても、問題は着の身着のままで追い出されたために研究で使っていた道具も、生活で使っていた物も全部研究所に置きっぱなしだった。だが、追い出される時に上司から魔法研究所の所属から外された事を告げられたので、今から荷物を取りに研究所に戻って入って行くと侵入者と判断されて犯罪者として捕縛されるかもしれない。魔法研究所は王国が守る魔法に関する機密が非常に沢山有るので、関係者以外は侵入しただけで死刑などの非常に重い刑を科せられる可能性もある。
 僕にとっては魔法研究所に侵入して荷物を取りに行く事は簡単だが、バレた時に起こりうる状況や犯罪者としての烙印を押されるかもしれない事を考えると、そこまでして必要な道具や荷物は置いていないので、研究室に置いてあった物全ては捨てたものとして考えるようにして諦めることにした。

 久しぶりの外で、しばらくぶりの風を肌で感じつつ頭にかぶっているフードをかぶり直した。立ち止まって今追い出された魔法研究所がある城の方角をチラと見た後、視線を街へと戻し再び歩き出す。
今後の予定を考えながら、とりあえずは城下町を抜けて城門をくぐり森の方へ行ってみようと考えていたら懐かしい物が目に入った。

 冒険者ギルドへようこそ!

 デカデカと掲げられたソレを一目見て何の建物か分かるようになっている、一切の飾り気がない看板を見て懐かしい気分が蘇る。
 初めて王都に来た時に、最初に入った建物は冒険者ギルドだった事を思い出す。ココの冒険者ギルドで冒険者として登録した僕は、依頼などを受けながらダンジョン探索を続けてお金を稼いでいた。それからしばらく経って、魔法を使う冒険者としてちょっと有名になった僕は、魔法研究所の所長からスカウトされ冒険者を辞めて研究員に職業をクラスチェンジしたのだった。

 そうだ! いいアイデアを閃いた僕は、昔から変わっていない看板を見ながら当時と同じように扉を開けて中へ入っていった。

 扉を開けて中に入ると僕は驚いた。建物の内装が非常に綺麗で明るくなっているからだ。僕の記憶では、冒険者ギルドは薄暗くて空気や雰囲気がジメジメしていて陰気臭い場所だったのに。今では、壁が白くて照明が効いて非常に明るい。やはり、時代が経てば変わるものは変わるんだなぁとまるで年をとった人間のような感想を抱きつつ、更に観察を続ける。
 建物の中には、カウンターテーブルの向こうに居る受付の女性と冒険者と思われる女性たちが6人程待機していた。冒険者は2人組と4人組のグループに分かれているようだ。時間は朝の10時を過ぎた頃なので、彼女たちは早朝の依頼を取りそこねて、新しい依頼を待ちながら待機しているのだろう。
待機している冒険者たちを横目でそれとなく観察しつつ、受付の女性に近づいていく。

 受付に座っている女性は見た目が20代程の見た目。少し頬がコケていて疲れているように見える彼女は、手元で何かの作業をしているようで視線が下向きのままなために、僕が側に立った事にはまだ気づいていなかった。

「こんにちは」
 僕が彼女に声をかけると、手元の作業を中断して素早く顔を上げて対応してくれた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
 定形のあいさつをしながら、明らかな営業スマイルで用件を聞いてくる彼女に僕は先程思いついたアイデアを実行するために話を始めた。

「あの、ダンジョンの入場許可証を頂きたいんですけれど」
 僕が思いついたアイデアは、久しぶりにダンジョンに潜り旅費を稼ぐこと。これから旅に出るにあたって、食料などは魔法による収納空間、魔空間に放り込んで貯蓄してあるものを使えば1年は問題なく過ごせるが、研究所に置きっぱなしになった魔法研究のための道具や、生活用品などを買いなおさなければいけない。しかし、僕の持ち金は0であるために稼ぎ直さなければならない。そこで、かつて稼いだ方法であるダンジョン探索でお金を稼ごうと思いついた。

「ダンジョンの入場許可ですね。どちらのダンジョンの入場許可が必要でしょうか?」
「ドラークダンジョンの入場許可をお願いします」
 僕が言ったドラークダンジョンとは入っていきなり二級指定さいれている強力なモンスターが出現して、奥にはドラゴン等の伝説級に強力なモンスターが出現する難易度が非常に高いダンジョン。しかし危険なモンスターが出現する見返りに、かなり稼ぎが良くて1日で平民が3年間を遊んで暮らせるぐらいの稼ぎが手に入るぐらい荒稼ぎ出来るダンジョンだったのを今でも覚えていたので、そのダンジョンに入って稼ごうと考えたのだ。
しかし、なぜか受付が唖然とした顔で僕の方を見ている。何か間違った事を言ってしまったのだろうか。

「あの、えっとドラークダンジョンは現在封鎖されていて入場許可が出せません。何十年も前に王国から危険領域指定されたと言われていて、今も指定は外されていませんが?」
「あれ? そうなんですか?」
 王国から危険領域指定されたということは、相当に危ない場所であることを示している。そのために危険領域指定された場所は、王国から実力を認定された一部の王国騎士や冒険者だけしか侵入を許可されていない。もちろん、彼女が言ったとおり冒険者ギルドではダンジョンの入場許可は出せない。

「それじゃあ、冒険者ギルドでも入場が許可できるダンジョンでここから一番近くにあるものを教えてもらえないですか?」
 ドラークダンジョン以外のダンジョンのことは特に印象もなく記憶に無い。だから、受付の女性に思い切って聞いてみた。
「それなら、王都から一番近くに有るリーヴァダンジョンがオススメですよ。出現するモンスターは第五級から出現するので危険も少ないですし、初心者から上級者まで皆さんが探索に挑んでいます」
 第五級モンスターとは、全十級までランク付けされているモンスターの危険度を測った基準の真ん中辺り。ランク数が少なくなると危険度が増して、ランク数が多くなると危険度は減る。つまり、第一級モンスターは非常に危険であり第十級モンスターは危険が少ない。一般的には、第五級モンスターは一般人では討伐は無理だが冒険初心者や駆け出しなら2,3人で連携すれば何とか勝てるぐらいの相手。

 聞いたことがなかったダンジョン名。第五級モンスターから始まると聞いて少し物足りないかもしれないと思ったが、せっかくオススメして紹介してくれたので久しぶりのダンジョン探索の準備運動を兼ねて一応行ってみることにした。合わなかったら、また別のダンジョンを探せばいいし。

「それじゃあ、そのダンジョンの入場許可をお願いします」
「はい、了解しました。それじゃあ冒険者証明証を提示願います」
 魔空間から久しぶりに取り出す冒険者証明証。ソレを彼女に渡して確認してもらう。するとまた微妙な表情を浮かべる受付の女性。

「え? あ、これ。……え、何時の時代の冒険者証明証? かなり古いものっぽいけど、なんで? あ、エルフの人なのか……」
 僕から冒険証明書を受け取った彼女はブツブツとつぶやきながら証明証の上から下へ確認している。どうやら、僕の持っている証明証はかなり古い型の物らしい。

 確認していた受付の女性の動きが突然止まる。再び不安な気持ちが高くなって思わず聞いてしまった。
「あの、まだ何か問題がありましたか?」
「あ、あの、あ、あのコレ? 本当ですか?」
なんだかとっても慌てた様子で彼女が指差す先には、性別:男性と書かれた項目が。

「あぁ、それなら本当ですよ?」
 僕は男であることを手っ取り早く証明するために被っていたフードを取っ払って顔が見えるようにした。
「ヒィ」
 僕の顔を見た女性は、短く悲鳴を上げてバタンと椅子ごと後ろに倒れた。僕はその光景を目にして、思わずつぶやいた。

「……あぁ、またやってしまった」

 

 

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