第08話 後始末

 数分後には、立ち向かってきた鎧の男たち全員が地面に倒れ伏していた。

 うつ伏せになってピクりとも動かない者、仰向けで白目を剥きながら両手両足を伸ばして倒れている者、建物の壁に寄りかかってただ座っているかのように気絶している者。夕暮れ時で暗くなった街の一角に、そんな光景が広がっていた。

 一応、生かしたまま殺さず逃げないようにして気絶で止めておいた。しかし、数百年ぶりの人間相手に力加減の具合を忘れていて、感覚を調整するのに最初の数人は結構な力を加えてしまった。しかも打ちどころも悪かったようで、死には至らないが後遺症が何か残っている可能性があった。

 不可解なのは、そんな状況になっても誰一人として鎧の男たちは逃げようとせず、彼らは戦闘を止めることも無く立ち向かってきた事。たった一人が相手だったから数で押せば勝てると思ったのか、逃げ出すのを恥だと感じたのか、それとも仲間を置いて逃げられなかったからなのか……?

「さてと、この男たちはどうしようか」

 そう声に出してみて、今後の対応について考える。薄暗い路地に倒れている鎧を着込んだ男たちの様子は、かなり異様な光景である。そんな状態でそのまま放って置くわけにもいかないが、さて。

 まず優先するべきなのは、詳しい状況について改めて調べる事。襲われていた女性に、事情を聞くのが良いかと考えた。けれど女性の方へ視線を向けてみると、地面に座り込んで顔を真っ青にしたまま、ガタガタと身体を揺らす程の恐怖で震えていた。

 今の彼女に向かって、襲われていた事情について軽々しく話を聞けそうには無かった。

「あ、う……」

 俺が目線を向けていることに気づいたのか、女性は引きつった表情で何か言おうとしている。けれど、尻もちをついたまま両手は地面から離れず、立ち上がる様子もない。
 そして、恐怖で口から言葉が出ないようだった。よほどの怖さを感じたのか、そうなった原因だと思われる鎧の男たち全員が目の前で気を失った今も尚、落ち着く様子はない。

「! ぅっ……!」
 
 女性に近づこうと、俺が一歩だけ足を前に動かした瞬間、彼女の肩がビクリと揺れるのが見えた。どうやら、近づこうとしただけの俺に対しても恐怖したらしい。

 襲った鎧の男たちのせいなのか、もしくは武装した多数相手に徒手で圧倒していた俺の力に怖気づいたのか。理由はともかく、どうやら俺では対応できないようだから代わりに屋根の上に避難させておいた同性であるアルビナを連れて来て、彼女に女性の世話を頼もうと考えた。

「ま、待って!」

 アルビナを屋根から下ろしてココに連れてこようと、少しだけその場を離れようとした時だった。俺がその場から離れようとした事に気がついたのか、震えた声を上げて止められる。そして、縋るような目を女性から向けられていた。
 恐怖で震える女性に気遣いながら、優しく声をかける。

「ほら、あそこ。屋根の上に居る女の子を、ここに連れてくるだけだから」

 街の中にある、その一軒家の屋根を指差して見せて、女性に何故その場から離れようとしたのかという理由と、何をしようとしているのかを伝えた。

「少しだけ、ココで待っていてくれ。すぐに戻ってくるから」
「……っ、は、はい」

 コクンと頷いて、反応した彼女。なるべく早く戻ってこようと意識しながら、目線は襲われていた女性に向けて離さず、俺はひとっ飛びで屋根の上へ向かった。

 軽やかに、一回のジャンプで屋根の上まで飛び上がると両手足で屋根にしがみついて地面の方を覗こうとしているアルビナが居た。急いでいたとは言え、周りも見えにくくなる暗がりの時間で、万が一ココから落ちたりしたら危ないのに、こんな場所へ置いてきた事を申し訳なく思い、慌ててアルビナに近づき身体を支える。

「すまない、待たせた」
「! 大丈夫ですか?」
「女性が一人襲われていた。見たところ彼女にケガは無かったが、精神的に参っている。男性に恐さを感じてしまうようだから、アルビナに対処を任したい」
「はい、分かりました」

 アルビナは俺の腕に抱きつきながら、何が起こったのか状況を聞いてきた。その質問に対して俺は、なるべく簡潔に状況を説明してから、アルビナを屋根の上まで連れてきた時と同様に腕を回して抱え上げると、彼女を屋根から下ろした。

「……!」
「あの人ですね」
「あぁ、そうだ。頼む」

 すぐに戻ってきた俺に、驚いたような反応を見せた女性。そして、俺の抱えているアルビナに気づいて彼女を見ると、少しだけ恐怖した表情が和らいだような反応を見せた。

 やはり、男性に対して恐怖を感じていたのか。そして、同性であるアルビナを連れてきたのはいい判断だった、と感じていた。

 腕に抱えていたアルビナを地面へと下ろし、すぐに女性の介抱を任せる。しばらく彼女が落ち着くまで時間が掛かりそうだ。

 もう一度、俺は鎧の男たちが倒れている方へと向けて考える。この状況は、街に有るだろう警備隊か何かに報告するべきだろう、後はその人達に後処理を任せれば……。

 そんな事を考えている時だった。視線の向こう、鎧の男たちが倒れている更に向こう側の街路から、片手にランタンを持ち、もう一方に武装した男たち数人が現れたのだった。

 

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