第07話 厄介事

「どうやら、良い人を紹介してもらったようだ」
「そうみたいですね」

 城門を通るのに検問された時に出会った兵士に教えてもらった商店に直行すると、そのまま直ぐに持ち物を換金することが出来ていた。

 俺達は二人ともが物価に関する知識が無かったので、換金してもらった金額が相場なのか、それとも安く買い叩かれているのか判断できなかったけれど、とりあえず換金できたお金を持って商店を歩き回って必要なモノを買い揃えていった。

 アルビナの為に買い与えた服装、巣に置く人間用の家具、生活用品、食糧などを購入していくと、まだ手持ちのお金が半分は残るぐらいとなっていた。
 市場に出される商品をいくつか観察していくと、カイニーアの街での物価がだいたい予測出来るぐらいになっていて、結果的には城門兵に紹介された友人の店が良心的な価格で売物を換金してくれた事が分かったのだった。

「目的の半分は終わった。次は宿を探して、酒場で情報収集を行おう」
「はい、わかりました」

 買い与えた普通の市民として見えるような地味な服装に着替えたアルビナは、商人に変装した俺に召し連れられる手伝いとして、今は立ち居振る舞いまで意識して変えながら付き従っていた。

 そんな風にして、街の中の散策を終えて買い物も一段落した頃には、太陽も山の間に沈んで辺りも暗くなり始めた夕暮れ時。

 突然、遠くの方から誰かが言い合いをしている声が俺の耳に届いていた。

「ん?」
「どうかしましたか?」

 聞こえてきた声が気になって、俺はその場に立ち止まり声のする方向へと顔を向ける。突然立ち止まって明後日の方向へと顔を向けた俺を気にして、アルビナも立ち止まり質問してきていた。

 俺はアルビナのする質問には直ぐに答えずに、耳をすませて音を聞き取ろうと集中した。すると、男の声で大人しくしろ! という脅すような声。その後に女の声で、助けてください! と悲痛な叫び声が聞こえてきた。

「どうやら、何処かで厄介事が起こっているようだが」
「厄介事、ですか?」

 アルビナも耳をすませて集中していたけれど、声は聞き取れていないようだった。しかし、俺の耳には街から溢れてくる音の間に、再び女性が叫び声を上げているのが聞こえていた。

「どうやら、女性が街の中で何者かに襲われているようだ」
「そんな!? 助けに行きましょう!」
「そうだな」

 聞こえてきた女性の助ける声を無視する訳にもいかず、俺はアルビナの膝と背中に腕を回して抱きかかえると、建物の屋根の上へとアルビナを抱えたまま飛び上がった。

「え? きゃっ!」
 そして、慌てるアルビナをそのまま腕に抱えて建物の屋根の上を飛び移って、最短距離で走り声のする場所へと向かった。


***


「あそこだ」

 城壁が直ぐそばにある場所、建物と城壁との間の薄暗い通りに二、三十人ぐらいの集団の人間が居るのが見えた。その集団の全てが、鎧を着込んで腰や背に剣や弓などを装備していて武器を持って武装しているのが見えた。一体、あの集まりは何だろうか。

「少し、ココで待っていろ」
 アルビナは、厄介事に巻き込まれないように屋根の上に置いておいて、俺だけが集団の居る建物の下へと飛び降りる。

 涙を浮かべてもがいている女性。彼女が、少し前に俺の耳に届くほどの叫び声を上げた女性だろうか。

 そんな女性を、逃げないようにと後ろから口を手で塞いでいる男と、剣を振りかぶって今にも女性を斬り殺そうとしている男。事情は分からないけれど、普通には見えない状況に空から飛び降りて、集団の間に割って入る。

「うぉっ!?」

 地面へ飛び降りた瞬間に男が力強く振り下ろした剣を、女性が切られる前に俺は右腕で受けて止める。更に俺が斬りつけられた腕を押し返すと、剣を振った男が声を上げて後ろに吹っ飛んでいった。

「誰だ、貴様っ!」
「っっっうううっ!」

 突然姿を表した俺に驚く鎧の男たちと、口を塞がれたまま何とか助けを求めようと訴えるように唸り声を上げる女性。
 剣を振るった男を吹き飛ばした右腕を、そのまま伸ばして俺は振り返ると同時に拳をぶん回して女性を掴まえている男に目掛けて、裏拳で打つ抜いた。

「ぐひうっ!」
「きゃあっ!」
 少しの力しか込めていないけれど、男の頬に強烈な刺激を加えることが出来て、鎧の重さも物ともしないという風に軽く男の身体はグルンと回転し、頭が地面に足が空を向いた格好で地面に打ち付けられていた。

「大丈夫か?」
「うっ、あっ、っっ」

 男の腕から解放された女性に近寄り安否を確認したが、懸命に何か口に出して言おうとするけれど恐怖で口がきけなくなったようだった。身体も小刻みに震えていて、大きなショックを受けていることがひと目で分かる状態だった。

 どんな事情で今の状況になったのか経緯は分からないけれど、複数の鎧を着込んだ男性たちが女性一人を取り囲んで殺そうとしたという状況を見てしまえば、悪いのは男たちの方だろうと感じることしかできなかった。

「ちっ! あいつの情報と違うじゃねぇか!」
「しかし、見られたからにはコイツも始末しねぇとマズイぞ」

 地面に倒れ込んでいた女性を抱きかかえて、落ち着かせながら地面に立ち上がらせている間に、男たちはコチラの様子を伺いながらコソコソと相談事をしいてた。

「お前たちは、一体何の集まりだ? 何故、この女性を殺そうとしていた?」

 俺の質問は、女性を襲っていた男たち全員に完全に無視されてしまった。それどころか、男たちは腰に下げていた剣を音を立てずにゆっくりと抜いて、コチラへと向けてきた。

「悪いが、死んでもらう」
「何も知らないで首を突っ込んだ、馬鹿な自分に後悔するんだな」
「まぁ、遅かれ早かれ街の人間は皆殺しだがな」

 男たちが口々に言うと、剣を構えて威嚇し切り込んできた。地面から立たせた女性は、再び恐怖を感じ腰を抜かして座り込んでしまった。

「ふん」
「なにっ!?」「ぎゃ!」

 けれど、俺は男たちに何の脅威も感じないまま淡々と対応していた。

「ぐぎゃ!」
 一番に斬りかかってきた男の剣に目掛けて拳を打つと、剣の刃を粉々にしたまま男の顔も殴り抜いて吹き飛ばす。

「うぐうっ!」
 剣を上段に構えていて、がら空きだった腹めがけて鎧の上から蹴りを入れる。そして、そのまま男を腹に加えた衝撃で吹き飛ばす。

「っあ! うひぃぃっ!」
 女性を標的にして斬り伏せようとした男の剣を鷲掴み、そのまま引っ張って剣を握っている男ごと後ろに投げ飛ばす。

 剣ごと顔を殴られた男は、地面に倒れ込んでピクリとも動かず。腹を蹴られた男は、吹き飛んで建物の壁に激突した後は、ぐったりと力尽きていた。剣ごと掴んで投げ飛ばされた男も、近くの建物に頭から突っ込んで気絶しているようだった。

 こうして一瞬のうちに、俺は三人の武装した人間を軽々と負かしていた。

 人間の姿に変化していてもドラゴンの能力は健在のままなので、刃物を身体で受けても傷つくことはないし、少しの力を込めるだけで人間を簡単に吹き飛ばすことも出来ていた。

「くっ」「一体誰なんだ」「しかし、逃げるわけには……」

 敵わないだろうと力を見せつけた男たちは、それでも懲りていないのか、力の差を素直に認めないのか、逃げ出さずにジリジリと俺との間合いを詰めてきていた。

「逃げないのなら仕方ない」

 俺は小さくつぶやくと、見逃すことを止めて男たちに立ち向かっていった。

 

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