第05話 おでかけ

「あの、私はこれから一体どうすれば……」

 街に行くことを決めた俺に向けてアルビナは、オロオロして落ち着かない様子のまま恐る恐ると尋ねてきた。

「君も街まで一緒に行ってもらおう。移動は、私の背中に乗せていく」
「は、はい」

 作り始めたばかりな巣の中は、まだまだ土壁や岩肌が剥き出しのままで中は薄暗い。そんな場所では、落ち着いて過ごすことが出来ないだろう。
 それに、巣の回りに居るであろうモンスターの駆除も行っていないので、出会ったばかりの人間とは言え、彼女を一人だけ置いて行くのは心配すぎる。なので、一緒に来てもらうおうと考えていた。

 それから都市までの距離は、人間の足で歩いていけば三日程度は掛かるぐらいに離れていたと思う。しかも、女性であるアルビナの足で歩いて行くのならば更に時間が必要になるのは明らかだろう。という事で急いでいる訳ではないけれど、ドラゴンである俺はヒューンとひとっ飛びで空路を行けるので、アルビナを背中に乗せて飛んでいく事を考えていた。

「準備してくるから、少し待っていてくれ。森の中に入るが、すぐ戻ってくる。近くにいるから、何か危険が有れば叫んで知らせてくれ」
「え? あ、はい。わかりました」

 そう言って、アルビナを少しだけ巣の出入り口に待たせて置いて、近くの森の中に入っていくと都市へ行く準備をすることに。準備というのは、具体的に言えば換金できるようなモノを手荷物に用意しておくこと。

 巣の近くで集めてきた物を一挙に、魔法を用いた空間の中に収納しておいた。結構な量のモノ、辺りに生えている果物、狩った獣の皮や肉、鉱石などを短時間で集めてきていた。

 都市の中へは、もちろんドラゴンの姿のままでは入れないだろうから、人間の姿に変化して侵入しようと考えていてた。そして、持って行き売ってお金になりそうなモノを適当に集めておいて、都市の中で行動する際の資金に換金できれば良いが、と考えての準備だった。

 こうして短時間で荷物を用意し終えて、都市へと向かう支度が完了した。ドラゴン姿へと戻っていよいよ飛び立つ寸前になって、またもやアルビナが恐る恐るという様子で聞いてきた。

「あの……、私はどうやって背中に乗ればいいでしょうか……」

 山を見上げるような視線で、ドラゴンの姿に戻った俺に向けて尋ねてきたアルビナ。仲間の中で比べても大きめの身体であった俺と、人間の中でも一際小さいであろうと予想できるぐらいに小柄なアルビナとで比べてみれば、まるで象とアリぐらい身体の大きさの差が有りそうな二人。

 その一人であるアルビナでは、自力で俺の背中に登ってくるのは不可能だろうから、直ぐに手助けしてやる。

「すぐに背中に運ぼう。ほら、尻尾に掴まって」
「あっ、わっ!」

 俺は尻尾を器用に動かして、彼女の前まで傷つけないようにゆっくりと振ってから掴まさせると、そのまま背中の上まで運んであげた。

「飛んでいる時に来る風は、魔法で散らしておくから大丈夫だと思うが、落ちないようにしっかり背に掴まっておけ」
「はい、わかりました。ありがとうございます」

 俺はそんな事を言いつつ、実は生まれて初めて背中に人間を乗せて飛ぶのだった。やり方は知識として知っていたので、探りながら考えつく注意点を彼女に忠告しておく。

 そして、アルビナもドラゴンの背に乗せられて空を飛ぶなんて経験が無いのだろうか、俺の背の上で声は抑えているようだけれど、身体は小刻みに震えているのを俺は感じ取っていた。

「では、注意して行くぞ。準備はいいか?」
「うっ……。はい、だ、大丈夫です」

 どう聞いても大丈夫ではなさそうな声でアルビナから返事をされたけれど、行かない、という選択肢は無いので、しばらくは空を飛ぶことをアルビナに耐えてもらうしか無い。

 より一層アルビナの様子を気に掛けながら、ゆっくりと両翼を羽ばたかせて地面から飛び立つ。少しだけ地面から浮いた空中で身体の様子等を確認して、その後一気に青い空へ向かって上昇していく。

 何時も俺が空へ飛んで行く時に比べて、丁寧にゆっくりとした動作だったけれど、背中にしがみついているアルビナの、俺の背を掴む力はかなり篭っていた。

 俺に言われた通り、というか、かなり強めにしがみついて落ちないようにしているらしくて景色には目を向ける余裕も無いようだ。そもそも、高いところが苦手なのかもしれない。

 そのまま、ゆっくり慎重にしながら都市へ向かって進んでいく。しばらく空の旅を続けている間に、少しだけドラゴンの背中の上に乗って飛ぶ事に慣れてきた様子のアルビアから、飛んでいる途中で話を聞くことが出来た。

 例えば今から向かう都市について、アルビアから聞いたところ”カイニーア”と呼ばれている街なのだという。

 カイニーアはルセンディア王国の中で、一番歴史の古い街であるという。最初に見て、古そうだと抱いた印象の通りだった。そして、カイニーアの街がある位置は山に囲まれていて、自然の防御壁があるので他国からの攻めに対して強い都市であるという。

「けれど実は、今ルセンディア王国は他国からの侵略を受けています」

 この後、アルビナからルセンディア王国の置かれている状況について、簡単な説明を受けることが出来た。

「他国は、何ヶ国かでルセンディア王国の侵略を目的とした共同戦線を張っているらしく、ルセンディア王国は苦しい状況に有るというのです。ただ、それ以上の詳しい事について私は知らないのです」
「ふむふむ」

 アルビナは王位継承順位が低いからなのか、それとも彼女が女性だったからなのか、国の置かれている状況や軍事について詳しくは知らされていなかったらしい。ただ、回りに居る人達から噂程度の情報を集めることが出来ていて、それによって国が苦しい状況にあることは知っていたという。

 つまりは、そんな苦しい状況に置かれているルセンディア王国に住む彼らの目の前に、突然に現れたドラゴンである俺に皆が縋ろうとする気持ちが有るのだという。

 こうしてアルビナと話をしつつ、目的地であるカイニーアの街に到着していた。

 人間を背に乗せて飛ぶという経験は初めてだったけれど、知識がしっかりしていたようで、飛んでいる途中でアルビナを落としてしまったり風で飛ばされたり、と言うような思いがけない出来事が起きることも無く、目的地である都市へと無事に辿り着くことが出来たのだった。

 

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