第04話 貢物の経緯

 俺が、数日前に都市の周りを飛び回っていたドラゴンであるということを、アルビナと名乗る少女に明かした後。彼女は、俺が人間の姿で居ても実際はドラゴンであることを認識して、怖がられるようになってしまった。

 そもそも一体なぜ、彼女が貢物として俺の目の前に運び込まれてきたのか、ルセンディア王国との交流とは一体何を求めているのか、色々と聞き出したいことを頭に浮かべながらも、質問することは一旦置いておいて、まずは彼女が落ち着くのをしばらく待っていた。

 沈黙の中、少し彼女から探るような視線を向けられる気配を感じつつも、気にしていない風を装って待つ。

「落ち着いたか?」
「はい。申し訳ございませんでした、アイルトン様」

 しばらく待った後、ようやく落ち着いた様子を見せたアルビナを気遣いつつ、会話を始める。俺の”落ち着いたか”という問いかけに対して、目を伏せて目線は合わせず返事されていた。

 落ち着いているものの、まだまた彼女は恐縮した様子を俺に見せている。けれど、受け答えはしっかりと出来ていて、その幼い見た目とは裏腹に知的な振る舞い方もできる、そんな彼女に対して外見と中身にギャップを感じてしまい、少しだけ困惑してしまうが表に出さないように振る舞う。

 少女の顔が見えないままに、会話がどんどんと進行していく。少し彼女の表情は気になったけれど、話が進まないので気にしないようにして、ようやく知りたいと思っていた事について質問を始めていた。

「それで、もう一度聞くが一体何故アルビナは貢物として、俺に差し出されたんだ?」

 本人に直接聞くのは少し酷な話かもしれないけれど、事情が何も分からず少しでも情報を手に入れたいと感じていた俺は、彼女に聞く以外に今すぐできる方法は思いつかなかったので、強引に事を進めることにした。

「はい、アイルトン様。えっと、それは……」

 会話を進めていく内に、少しずつだけれどアルビナが慣れてきたのか、綺麗な顔を上げて俺に表情を見せながら会話が進むようになった。
 そして、口ごもったり、言いよどんだりしながらもアルビナは、ルセンディア王国に古くから言い伝えられている、というドラゴンとの関係について少しずつ語って聞かせてくれた。

 彼女の話によれば、ルセンディア王国という国が生まれる以前から、ルセンディア王国の初代の王様となる人は、ドラゴンと分類される種族の者と交流を持っていたという。

 そして、ルセンディア王国が建国される時にはドラゴンの力を借りて事が行われていたという。その後のルセンディア王国の歴史でも、度々ドラゴンに助けられてるという昔話が言い伝えられているので、ドラゴンは幾つかの危機を乗り越えていくための象徴だと言われているらしい。

 つまり、ルセンディア王国の人達にとってドラゴンという種族にも親近感を持っている。だから、俺は数日前に立ち寄った王都でドラゴンの姿を見せても、都市に住む民達には怖がられずに居たという事らしい。

 そして今回も、突然現れたドラゴン(俺)との交流を深めるために、姿を表した瞬間に早速捜索隊を組んで住処を探し出し、そして真っ先に貢物としてアルビナを連れてきたのだと言う。

「なぜ、アルビナが選ばれたんだ?」
「それは、……私がルセンディア王国の王女の中で一番の位が高い人物でありながら、重要度が低い人物だったからだと思います」

 俺の質問に、口ごもりながら衝撃の事実を答えてくれるアルビナ。彼女は、王様と后の間に生まれた直系の王女であり、上に第一継承権と第二継承権を持つ兄を二人持った長女だった。

 第一継承権を持つ兄は、後にルセンディア王国の王様となる人物として貢物として差し出せないし、第二継承権を持つ兄も、万が一の予備として差し出せない。そして三番目の直系の子供であり、女性であるアルビナが貢物として選ばれた、という経緯だそうだ。

「なぜ、眠らせたまま連れて来られたんだ?」
「それは、……」

 続いて気になっていた質問は答えづらい事なのか、長い沈黙でアルビナはなかなか答えようとしなかった。しばらく答えるのを待ってみると、重々しく口を開く彼女。その答えを聞いて答えにくそうにした理由を、俺は理解した。

「私は、貢物としてアイルトン様に差し出されるのを、嫌がったからです」

 王様から命じられた、ドラゴンに捧げられるという務めを拒否したアルビナ。しかし王様の命令は絶対という事で指示は覆らず、薬で眠らされて無理やり貢物として連れてこられたらしい。

 そして、もう既に覚悟を決めたという。

「覚悟?」
「はい、私は既に事前の心づもりを終えました。先ほど宣言した通り、私をアイルトン様の望む通りにしてください」
「……はぁ?」


 もう少し深刻に捉えていた。どうやらドラゴンに身を捧げると言う事、イコール食べられて死ぬ事だと考えていたアルビナは、まだ死にたくないから貢物としての務めを拒否したという。そんな事実はないと、俺は即座にアルビナの考えを否定する。

「いやいや、俺は人間なんか食わないぞ」
「……そうなのですか?」

 ドラゴンの中には人間を食べる個体も居るかもしれないけれど、ごくごく稀な少数派である。もちろん俺は今までに人間を食べたことは無いし、これからも食べるつもりもない。

 その事についてアルビナに対し強く言って聞かせる。すると、今まで緊張していた彼女は少し安心したのか、年相応のあどけない顔を少しだけ覗かせた。

「そうなのですか……。はうっ……、もう自分の人生はココで終わりなのかと思ってしまいました……」

 落ち着いているアルビナの様子を見ながら内心では、王国の強引なやり方に対して少しの不信感を持つと同時に、厄介事であると強く感じていた。

 巣を作り始めたばかりの今は、巣の中に人間が住める場所はまだ準備できていないし、彼女を手元に置いていても、巣作りを手伝ってもらえるような仕事も無い。

 しかし必要ないからと、ルセンディア王国の人達に言ってアルビナを返せはしないだろう。俺の本音を言って彼女を国へ返せば、ドラゴンである俺が交流を拒否したとルセンディア王国の人達は感じて、何とかしようと厄介事に発展していく可能性が大きいだろうと思ったから。

 そして、アルビナも国に戻れば貢物としての務めが果たせなかった、として罰せられるかもしれない。

「なるほど」

 ようやく、アルビナからの話を聞いて少しずつだが、状況と事情を理解できてきた俺は頷きながら得た情報を頭のなかで整理する。

「申し訳ございません」
「いや、気にするな」

 謝ってばかりの彼女を不憫に思った俺は、彼女を巣の中に引き受ける事を決意した。差し当たって、ドラゴンの巣の中に彼女のような人間が住める場所,それと寝床などを準備してあげないといけない。

「一度、王都の方へ行ってみようか」

 人間であるアルビナの為に生活用具を揃えるために、人間が住む場所に家具やら何やら買いに行くのが一番手っ取り早いだろうと考えていた。ということで、数日前に立ち寄ったあの都市に再び向かってみる事にしたのだった。

 

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