第02話 巣の基礎作り

 巣を作る場所を決めた俺は、おおよそ一ヶ月ぐらいは睡眠も取らずに動き続けて、ドラゴンである能力を最大限に活用しながら、自分の前足だけを使ってモグラのように穴を掘ったり、口から火を吹いて掘った穴を熱した後に冷やして洞窟を作ったり、巣作りを順調に進めていた。

 ドラゴンの驚異的な身体能力があれば、何日も食事せずとも問題なく過ごせてしまう。更には、寝ずに働き続けることも容易かった。それに、色々な事が簡単に自分一人の力で出来てしまうので、夢中になって巣作りに熱中していると、あっという間に時間が経っていたのだった。

 途中経過である俺の巣は、まるでアリの巣が巨大化したように地下に深々と伸びた道と、大小様々な部屋をつなげたモノが枝分かれして地中に広がっていて、結構大きな規模となって存在していた。
 そんなモノを、一人だけの作業で作り上げていた。もちろん、これは巣として基礎を作り始めたばかりなので、完成にはまだまだ遠いけれど。

 作った部屋を目的別に分けたりして、玄関ホールから、食堂、書庫、寝室に隠し部屋等を配置して、それぞれの部屋を装飾をしてみたり、生活に使うための用具を揃えたり、ドラゴンの住む巣として格好を付けるために、宝物や価値ある宝石などのアイテムを集めて貯蔵してみたり、これからどうやって巣を作り進めていこうか、そんな風に巣作りの方向性を考えている時だった。

「ドラゴン様! ドラゴン様っ!」

 地上の方から、人間の男が叫ぶように大きな声で”ドラゴン”と種族を呼ぶ声が耳に届いた。声に気づいた俺は、考えを一旦止めて耳を澄ませて聞いてみた。すると、巣を作り始めた一番最初の部分、巣の入り口付近から声が聞こえてきたのが分かった。

 俺の事を呼んでいる客のようなので、迎えるために入口玄関へ俺は歩いて向かっていく。ドラゴンの姿のまま一歩一歩を大きな足音を立てて、相手に自分の存在を示しながらも急がずゆっくりと。

「あぁ、ドラゴン様! お呼び立てして申し訳ございません。私は、アルセンディア王国に勤めています、特命全権大使のエスパダと申します」

 掘ったばかりで、岩が露出しているだけの大きめの洞窟入口にしか見えない、そんな場所に俺が姿を表した瞬間、地面に座り込んで頭を下げて無抵抗を示す男が目の前に飛び込んできた。そして頭を下げたまま、慇懃な態度を取りつつ挨拶を俺に向けて口にする男だった。

 挨拶を終えて、頭を上げた男。エスパダと名乗った彼の見た目は、顔に立派な髭を蓄えた少し老けたぐらいの中年で、年頃は、40代ぐらいだろうか。質の良さそうな豪華な衣服を身に纏っていて、名乗った役職の身分がどのくらい偉いのかは俺には分からないけれど、王国の中枢にいる人物なのだろうと彼の格好を見て、俺はそう判断していた。

 そして、エスパダの少し離れた後方には何十人かの人間が控えるようにして居た。

 後方の男たちは鉄色の鎧を身に付けていて、身体の防備を強固にしているのが見てわかった。絢爛な服装をしているエスパダと違って、控えている彼らは会話に参加せず、何も言わないまま黙って地面に膝を付いて待機していた。
 エスパダの身を守るため、護衛として付いてきた人間なのだろうか。

 そして、エスパダの言葉から考えてみると、どうやら俺が一ヶ月前に見た人里があった場所は、アルセンディアと言う王国だったらしい。

 彼の話を聞いてみて色々な事を理解した俺だったが、彼らが巣に訪れた理由は分からず、一体何の用で来たのかが気になっていた。しかも、この場所は作り始めたばかりの巣で、まだ誰にも場所を知らせていないのに来たという事は、彼らは山中をわざわざ捜索して俺を見つけ出して来たという事だろうか。

「一体、何のようだ人間?」

 何故かエスパダと、後ろに待機している鎧の男たちからも崇拝するような目を向けられていたので、厳かな雰囲気になるような言葉遣いを慎重に選びながら、俺は彼に質問していた。

「ドラゴン様には、今後もアルセンディア王国との円滑なお付き合いをよろしくお願いしたく、貢物を用意しました」

 実のところ、俺にとって人間との会話が数百年ぶりな体験だったので、少し気分が高揚していた。けれど、そんな俺のソワソワとした様子を微塵も感じ取っていないのか、それともあえて無視しているのか、エスパダは連々と話を続けていた。

「さぁ兵よ、出してくれ」

 エスパダは後ろに控えていた鎧の男たちに向かって呼びかけると、命令された鎧の男たちは膝立ちから立ち上がって、傍らの地面に下ろしていた神輿のような豪華な担架を担ぎ上げると、俺の目の前に運んできた。

「これは?」

 鎧の男たちが運んできた担架の上に、眠った少女が載せられていたので思わずエスパダに目を向けて、俺は素直に尋ねていた。

 金色の綺麗な長髪で、肌は真っ白な若い少女、まだ十代ぐらいの年頃だろうか。そんな少女が、純白の豪華なドレスを身に付けたまま、スヤスヤと寝息をたてて眠っている。そんな少女を、突然目の前に出されて戸惑っていた。

「貢物です」
「いや、だから……」

 まだ何も行っていないのに、突然に俺に向けて貢物だと言って差し出された少女に、更に困惑してしまった。

 何を、どう質問すればいいのか。彼女は一体何者なのか、何故いきなり貢物として差し出されたのか、アルセンディア王国とは何か、まだまだ見知らぬままの国と円滑なお付き合いをと求められたが、どうすればいいのか。

 様々な疑問が頭に思い浮かんで混乱している俺の様子は気にせず、エスパダはひと仕事を終えたという清々しそうな顔で、その場から立ち上がると最後に俺に向けてこう言った。

「では、私達の用事は以上です。お忙しいところ、申し訳ございませんでした。では、戻るぞ!」
「「「了解!」」」

 エスパダの号令で鎧の男たちが返事をして、待機していた姿勢から立ち上がった。そして、そのまま俺に向けていた視線を反対方向に向くような形で身体を反転させると、走り出していた。

「あ、おい! ちょっと待て!」

 彼らを呼び止めて、もっと詳しい事情を聞き出そうと思っていたのに、突然やって来た集団は制止する俺の声も聞かず、そのまま現れた時と同じように突然に山の森の中へ消えてしまっていた。貢物だ、と言っていた少女を置き去りにして。

 いきなり託されても、事情が分からず困るだけなのに……。いまだに眠り続ける少女の前で、俺は呆然としてしまっていた。

 

 

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