第01話 巣の場所決め

 何百年もの日々をグータラと過ごしてきた俺は、特に生きる目的も持たず、主だった行動もせず生活していた。そんなある日、母親であるセミラから尻を叩かれドラゴンとしての務めである巣作りを始めることを強制されたのだった。

 その為、一時的に住処としていた洞窟(と言っても、その場所で数百年を過ごした)から追い出されるようにして、巣作りに出発することになってしまった。

 母親から住処を追い出された、とは言ったものの久しぶりとなる遠出に俺は少しワクワクしたような気持ちになっていた。
 今まではずっと、近場でだけの狭い行動範囲内で生活していたので、行動範囲だった先に進んでみれば、既に未知の場所だったから。知らない場所を気の向くままに突き進む時には、いつも期待と不安が入り混じった不思議な気分になる。

 それに今まで住んでいた洞窟がある場所には、普段からドラゴンさえも寄り付かない静かな場所だった。そんな静かな場所は、景色も寂しくて何時も暗い感じが漂っていた。それが、少し飛んできた所には緑豊かな場所が広がっていて、その明るさに感動すらしていた。

 なぜ数百年も引きこもっていたのか、自分でも理解に苦しむという現状だった。

 ちなみに、あの場所に巣を作る事も案の一つとして考えてみたけれど、せっかく巣を作るならば、殺風景で何もない場所に作るのは少し勿体無いと感じていた。

 せっかくドラゴンとして生まれてきた者の使命の一つである巣を作るのならば、こだわって作り込もうと考える凝り性な性格のある俺は、巣から見える風景からこだわって丁寧に選ぼうと考えて、候補地を探し飛び回っていた。

 巣から見える景色が良い場所。
 山と海が近くにある場所が良いだろうか。
 人間が住んでいるような場所も良いかもしれない。
 魔力を感じやすい場所も良いし、天候の推移がハッキリとわかる四季の変化があるような場所ならば尚、良いだろう。

 色々と巣を作る場所の条件となる項目を頭に思い浮かべて考えながら、目を見開いて辺りを観察しながら空を飛び回って、巣の候補地となる場所を探していく。

 目的地は特に決めず勘だけを頼りにして、適当に行きたいと感じた方向に進んでみる。しばらく飛んでいると、豊かな深緑が目一杯に広がる山々が連なる場所が見えてきた。

「お。ここは良さそうだ」

 初見の直感で、かなり気に入った地域を見つけて気分が良くなる俺。ぐるりと円を描くような空路で飛び回って、見つけた候補地とした地域の様子をゆっくりと観察してみる。その観察の途中で、チラッと山々の間にある麓に何かが有るのが目に見えた。

 白い建物のような、モノがチラッと目に入る。

「どうやら、人も住んでいるみたいだ」

 ドラゴンの巣作りは、巣作り周辺に住む人間が居た場合には、その人間との関係構築も他のドラゴンから巣の評価をされる場合に、目を付けられるポイントの一つだった。

 人々から恐れられるようなドラゴンになるか、それとも崇められるようなドラゴンになるのか。どちらにしても、偉大なドラゴンとして人々に認知される事は、ドラゴンの巣作りを評価されるための重要な課題の一つと言える。

 そして、人間の頃の記憶が有る俺にとって、人間や人里に関しては他のドラゴンに比べて興味が強かった。ファンタジーな世界で、どんな人間が生きているのか、どんな文化が発展しているのか、生活様式、国々の発展、国際関係、等など……。

 なので、巣作りする場所は人間が住んでいる人里が近くにある地域にしよう、と候補となる項目の一つに決めていた。

 という事で、この場所の近くに巣を作るのは、俺にとって決め手となる項目を満たしていて、好条件である場所だと言えた。

 もう少しだけ人里について調べてみよう、と考えて飛び近寄ってみて目視で観察してみようと、高所から滑空しながら地面スレスレな場所にまで降りて行ってみる。

 高速で降下して、人里の様子がよく見える場所まで飛んで近づいていくと、その人里にいる人達に対して、少しの異変に気がづいた。

「ん? 人が居るのは見えてきたが、あれは……?」

 木と緑が生い茂る山で半分側を隠すようにして建てられた白色の立派なお城、そして城を囲むようにして建てられたレンガを建材として、人が生活するために組み上げられた建物の数々、更には、その建物を守るようにして背の高い外壁がめぐらせてある。

 あの大きさならば、人間が一万人ぐらいは住んでいるだろうか? かなり大きな規模の都市だった。

 数百年かぶりに人間の住む場所を見た俺には、その場所が人々から何と呼ばれている都市なのか、何ていう国なのか、もちろん知らなかった。けれど、人々にはよく知られていそうな、歴史がありそうだと感じさせる都市が俺の目の前にあった。

 そんな場所に住んでいるのだろう人々が空から飛んできた俺を目掛けて指差し、喜んでいる様子が俺の目に見えていた。耳を澄まして人間の叫んでいる言葉を集中して聞いてみると、彼らの言葉が聞こえてくる。

「あれは、ドラゴン!」
 俺を指差しながら、歓喜している様子の男性が叫ぶ。

「私達の国に、ドラゴンが戻って来てくれたわ!」
 両手を腕の前に組んで、笑顔のまま涙を浮かべている女性。

「これで、我が国も安泰だ……」
 地面に両膝を付いて、安堵している様子の老人。その他にも外壁の中にいる大勢の人達も、様々な仕草で喜びを表しているのが目に見えていて、喜ぶ言葉も耳に届いていた。

 俺という、人間にとっては恐怖を感じるだろうドラゴンが姿を見せたのに、人間たちは慌てる様子も無く、逃げ出しもせずに俺を見て、挙句に人々は安心したままで笑顔を浮かべて、その笑顔を俺に向けていた。

 どうやら、先輩のドラゴンがこの辺りで過去に人間に親しまれるような良い行動で活躍したのだろう、と俺は予想していた。

 そして、俺が山の麓にある人里の辺りをしばらく飛び回っているのに、他のドラゴンが姿を表さない所を見ると、既にこの地に居たドラゴンは巣を移したのか、元々この近くに巣は作らなかったのか、それとも既に亡くなったのか。

 今のところ、他のドラゴンが居る気配を近くには感じていなかったので、この辺りには自分以外のドラゴンがいない事は確認済みだった。

「ここは、良さそうだ!」

 他のドラゴンが居たなら、縄張り争いになりそうな場所であったけれど、自分以外にはドラゴンが居ないようで一安心。この場所なら、頭に思い浮かべていた巣作りの候補地となる条件を数多く当てはまっている。

 巣作りをする場所はココだ! と少しの迷いもなく既に決めていた。

 今まで観察していた都市に対して、クルリと身体を反転させて背中を見せる。それから、早速巣作りを始めようと、空へと飛び立つ。その背中に人間たちの歓声を受けながら都市から少し離れた場所に移動していた。

 移動を終えて、都市があった場所から少し離れた場所に到着。早速巣作りに取り掛かろうとめぼしい場所を見つけて、地面へと降り立ち巣作りを開始したのだった。

 

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