第09話 事情聴取

「これは一体……」

 通りの向こうからやって来たのは、この街を守る目的とした兵士達のようだった。俺と未確認敵との戦闘騒ぎの音を聞きつけてやって来たのか、それとも目撃した住人の誰かが知らせに走ったのか、兵士達は十分な武装をして警戒しながら恐る恐ると近付いて来た。

「これは、一体? ここで、何が起こったんだ?」
「隊長、あそこに人が倒れています」

 時間が経ち太陽も沈みきっていて辺りは真っ暗になっているので、辺り一帯の屋根上から漏れるように灯りが点けられているのが分かる。そして、まだこの辺りは暗いままの通路で彼らは手元に持っているランタンを頼りにして道を照らしていて、足元に注意しているようだった。

 そして、街路に倒れ伏している男たちに気がつくと、発見した兵士の一人が口を開いて驚いていた。

「手分けして、詳細を調べろ」
「全員、死んでいる!? いや、気絶しているのか?」
「この男たちの鎧、見覚えがあるぞっ!」
「っ! あそこに誰か居る!」

 返り討ちにした彼らが倒れ伏す、その現場を忙しなく検証し始めた兵士達。

 兵士の一人がようやく俺たちの存在に気がついて、声を上げて指さされる。彼の行動によって視線が一気に集まったが、俺は特に反応もせずに黙って推移を見ていた。

 用心した兵士達は、武装のために腰に下げていたのだろう剣に手を添えつつ、未だ鞘からは刀身を抜かないままジリジリとすり足で近寄って来るのだった。
 
 彼らは、あと数歩だけ足を伸ばせば剣が届く程の距離まで近付いてくると立ち止まり、訝しげな表情で襲われていた女性、彼女を介抱しているアルビナ、そして俺へと視線を移していき観察していた。

 そんな兵士達の中で先頭に立っていた一人の顔を見て、俺はある事に気がついた。

「おや、先程門番に居た兵士さんじゃないですか」
「っ! あ、あぁ……。昼頃に城門を通った商人か」

 先頭に居た兵士の一人は、この街に入る時に検問を担当してくれた兵士だった。彼は俺の顔を覚えてくれていたようで、剣から手を離して警戒を少しだけ解いてくれた。

「一体ここで何が起きたんだ? この男たちは誰だか分かるか?」
 検問の兵士に問われた俺は、嘘偽り無く素直に起こった出来事について知っている事を彼に説明した。

「そこの地面に座り込んで休んでいる女性が、見知らぬ男たちに襲われているのを発見し、訳を聞こうと間に入った所、問答無用で私も打ちのめされそうになったので、自己防衛した所こうなりました」

 俺は、アルビナと介抱されている女性のほうへチラと視線を送りながら、今の状況になった経緯を彼に説明する。
 話を聞いていた兵士は、話を聞き終えた瞬間には信じられないというような怪訝な表情を浮かべていて、すぐさま幾つかの質問を俺に投げかけてきた。

「市民を助けるために、鎧を着込んだ彼らと戦ったのか……? それで、他に君たちの仲間は?」
「今のところ私の仲間は、後ろで女性を介抱している彼女一人だけです」
「なんだって? 二人対複数人で戦闘して勝ったのか?」
「戦ったのは、私一人です」
「……武器は?」
「拳で」
「は? え? 鎧を着て武装した男と無手で戦っただと?」
「叫び声を聞いて飛んで来たので、準備する時間も無かったので」
「…………見たところ君は怪我も無く無事なように見えるが、手傷を負ったりしなかったのか?」
「鎧を着ていましたが彼らは弱く運も良かったのでしょう、特に苦労もなく制圧できました」
「……」

 次々と出される兵士の質問に対して淀み無く正直に答えていくと、どんどん兵士が俺を見る目を鋭くさせていると肌で感じ取っていた。人間の商人を名乗る身として、少し常識を逸しているという自覚は有ったけれど、嘘を付くのも面倒になってきたので正直に答えた結果だと理解していた。

 もう既に人間や、商人として身分を偽っているのに飽きてきていた為に、正体を隠し続ける気も薄くなっていた。そして、彼らがどこで俺の正体に気づいてくれるのか楽しみになってきていた。

「すまないが、もう少し詳しく今回の件について聞きたい。この場所で聞き込みを続けるのは何だから、移動しよう。付いて来てくれ」

 質問を終えて、顎に手を当てて考え込むようにしていた兵士は俺の説明では理解しきれなかったのか、より詳しく事件について調べようと続けて話を聞きたいという。その為の聞き込みを続けるため、場所を移動しようと提案してきた。

 街の通りの外れで起こった今回の件、先程までは人が一人も居なかった道だった筈なのに、いつの間にか人集りが出来始めていた。確かに興味津々の彼らの視線の下で話を続けるのは、少し鬱陶しいだろうと移動を了承する。

「分かりました。アルビナ、その女性は歩いて付いてこれそうか?」
「どうでしょう。バーバラさん、少しだけ歩けそうですか?」

 アルビナはいつの間に名前を聞き出していたのか、襲われていた女性バーバラに柔らかな声で移動のために歩けるか尋ねるが、バーバラは何度か立ち上がろうと腰を浮かせようとするが、尻もちをついて立ち上がれない様子だった。

「やむおえない、少しの間だけ我慢してくれ」
「ぁぅ」
 俺は立ち上がれないバーバラに了承を得てから、本日二人目の女性をお姫様抱っこして移動を開始した。

 兵士の後に付いて、何処かに案内されるまましばらく歩く。街の人達が何事かと視線を向けてくるが、一切を無視して兵士の後について行くと、街の一角にあるレンガ積みの建物の中へと招かれた。どうやら彼らの詰め所の一つらしく、ここで引き続き事情聴取が行われるようだった。

 建物の中にある一部屋に案内され、席に着かされると休憩もなく最初から事件の内容を説明させられて、俺は正直に答えていく。そして、途中にはアルビナや落ち着きを取り戻した被害者のバーバラも説明を加えてくれて事件の詳細が明らかになっていった。

 

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